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更新日:2018.02.24食トレンド

新しい味覚の連続。目黒【kabi】は次なる時代を予感させるレストランだった

2017年の末、食の新たな面白さを提案する店が目黒通り沿いに誕生した。20代のシェフとソムリエによるレストラン【kabi】だ。出会って1年でレストランを共同経営するようになったシェフとソムリエ。互いに感性を共有する二人だからできる表現は、レストランシーンの次なる時代を予感させる。

新しい味覚の連続。目黒【kabi】は次なる時代を予感させるレストランだった

次なる時代を予感させるポイント

海外で最前線を見てきた
シェフとソムリエのコンビ

    共同経営をするシェフとソムリエ。シェフの安田翔平さん(右)は27歳、ソムリエの江本賢太郎さん(左)は28歳

    共同経営をするシェフとソムリエ。シェフの安田翔平さん(右)は27歳、ソムリエの江本賢太郎さん(左)は28歳

 シェフを務める安田翔平さんは、専門学校を出るといくつかのレストランを経て、単身デンマークへ渡った。首都・コペンハーゲンとボーンホルム島の2カ所に店をもつ一ツ星レストラン【kadeau】で修行し、前衛的な北欧のレストランシーンを目の当たりにするとともに、日本との共通点でもある保存食文化の可能性を感じて日本に帰ってきた。

 一方、ソムリエの江本賢太郎さんは、国内のレストランで若くしてシェフソムリエを任されるも、ワインをさらに学ぶため渡米。栽培学、醸造学の権威といわれるカリフォルニア大学のデービス校で醸造学を学ぶ。その後、オーストラリア・メルボルンにあるタイ料理をベースとしたイノベーティブレストラン【NORA】で、シェフソムリエを務めた。

 そんな二人が出会ったのは2016年末、【kabi】オープンのわずか1年前だ。二人とも日本帰国後まもなくの頃に、ワインバーでたまたま隣に居合せたことがきっかけで意気投合。毎晩飲み明かすうちに財布の金が底を付き、資金調達のためにコンビでイベントを開催するようになる。イベントを行うたび、人の輪が広がり、やがて地方からも声がかかるようになった。食材を保管するスペースに困っていたこともあり、二人で店舗をもつことを決めたという。

 店の成り立ち一つとって見ても、【kabi】は普通のレストランの方法論とはまるで違っている。

日本では珍しいほどの、垢抜けたレストラン空間

 古い日本家屋の一軒家を改装した店内。というと古民家カフェの紹介文が始まるようだが、この店の場合は様子が少し違う。

 モルタルのフロアに映える一枚天板のテーブル、そして厨房とフルフラットの黒のカウンター。店内は薄暗く、通りに面したガラス張りの壁ごしに見える街の動きが、空間に少しの躍動感を与える。所々に日本家屋のつくりが残ってはいるが、全体が“和”に支配されている訳ではない。むしろ、ニューヨークのSOHO辺りにあるカジュアルダイナーのようなミニマルさのほうが強く感じられる。

 ヒップホップやファンクなどラウド気味なBGMがかかり、隣の客の声も自分たちの話し声も一体となって店の活気に溶け込んでしまう。カトラリーはなく、料理は箸で食べる。器は、無骨なまでに土っぽさを残したオーダー品。

「店づくりをする際、海外からのお客さんを意識した」と江本さんが話すように、彼らにとって世界はより身近な存在。その先進的ともいえる感覚が店の細部に行き届いているからだろうか、【kabi】にはごく自然体で垢抜けた雰囲気が漂う。それはまるで、一つの都会的な(それも世界基準の)ライフスタイルを提案しているかのようだ。

驚きの連続! 未体験の味覚が押し寄せる

    スペシャリテでもある『漬物』の皿。カブの千枚漬けとぬか漬けの大根の下に、酒粕、クリームチーズを忍ばせる

    スペシャリテでもある『漬物』の皿。カブの千枚漬けとぬか漬けの大根の下に、酒粕、クリームチーズを忍ばせる

 基本的には料理はおまかせコース一本だが、週末の21時30分以降はアラカルトも注文可。

「日本の食材や食文化を、和食とは違う形で世界に発信する」ことをテーマにつくられる料理は、いままでのレストランとは一線を画す、未体験の味覚ばかりだ。

 ポーションは大きくないが、一皿ごと、使われている食材の種類は多岐にわたる。軸となる食材には発酵や熟成を施したり、あるいはカブの千枚漬けやフナ寿司など元々ある日本の料理を食材のように使う。そこに別の食材を掛け合わせ、新しい味をつくりだしていくのがシェフ・安田さんのスタイルだ。複雑に味が重なり合いながらも、絶妙なバランスで一つの料理に仕上げる技は、見事というよりほかない。

    一週間熟成のヒラメの炭火焼きに水菜と春菊のソテーを添えて。揚げ玉の食感と、山椒のソースが香りのアクセントに

    一週間熟成のヒラメの炭火焼きに水菜と春菊のソテーを添えて。揚げ玉の食感と、山椒のソースが香りのアクセントに

【kabi】の料理の要となる味覚の一つが”旨み”。そして、それを微調整する役割を担っているのが自家製の乾物たちだ。料理の多くには、その乾物が使われたり、仕上げとして上からかけられたりしており、いわば、この店にとっての”魔法のスパイス”とも呼べる存在になっている。

    ねっとりとしたボタンエビに、削ったクルミのカリっとした食感と甘みが加わり、そこにパウダー状の鰹節とハマグリで旨みを重ねる

    ねっとりとしたボタンエビに、削ったクルミのカリっとした食感と甘みが加わり、そこにパウダー状の鰹節とハマグリで旨みを重ねる

 もう一つの味の特徴が“酸味”。様々な食材を発酵させることで香りや味わいにバリエーションを出しているのだが、それがときに爽やかさになり、アクセントになり、料理の表情を豊かにする。一口に酸味といってもこんなにも色々な味わいがあるのかと、一皿ごとに驚かされる。

  • 酢漬けにしたイワシを、葉ワサビで巻いたもの。食べてみると、ちょっとしたサプライズがある

    酢漬けにしたイワシを、葉ワサビで巻いたもの。食べてみると、ちょっとしたサプライズがある

  • 酢と焦がしバターをかけた『フナ寿司のおじや』。独特の臭みは消え、酸味と旨みが見事に融合している

    酢と焦がしバターをかけた『フナ寿司のおじや』。独特の臭みは消え、酸味と旨みが見事に融合している

自在な楽しさを提案するペアリング

    色鮮やかな自家製発酵ジュースのボトル

    色鮮やかな自家製発酵ジュースのボトル

 料理も自在ならドリンクも自在。

 アルコールペアリングにはワインを中心に、ビールや日本酒、お茶をベースにしたカクテルまで登場する。しかも、どれをとっても「ここでしか飲んだことない」というような料理にも引けをとらない個性的なものばかり。そこに、江本さんのソムリエとしてのこだわりがある。

「たとえば、うちで『新政』を出しても意味がない。それなら他の店に行ってもらったほうがいいかもしれません。ワインはもちろんですが、【kabi】で出すものはビールにしろ、日本酒にしろ、すべてに自分たちの考えやスタイルに基づいたこだわりがあります。そこを楽しんでもらえれば嬉しいです」。

 もう一つ特筆すべきが、発酵ジュースのカクテルを中心としたノンアルコールのペアリング。発酵させたフルーツや野菜、スパイスなど様々な素材を使い、色鮮やかな様々なカクテルをつくる。中には、出汁や味噌、しょっつるを使うなど、既成概念にとらわれず、自由な発想で素材が組み合わされたものもあり、料理に負けずおとらず、新鮮な驚きに満ちている。

 アルコールが飲めない人にとって、これほどに楽しいペアリングは、なかなか他の店では出会えないものの一つではないだろうか。

  • 発酵ミカンジュースにチリを利かせ、小さな刺激を加える

    発酵ミカンジュースにチリを利かせ、小さな刺激を加える

  • クランベリーとビーツのジュースには、鰹節で旨みを出す

    クランベリーとビーツのジュースには、鰹節で旨みを出す

次なる時代をつくるのは「若者の感性」

 料理、ドリンク、店づくり……。どこを切り取っても、【kabi】にはレストランとしての新たな試みが感じられる。それはきっと、次世代のレストランシーンを担うであろう、若者たちの感性が十分に発揮されているからだ。しかし、その中でも一番強く感じたのは「どの店でも食べられるものではなく、日本のここでしか食べられない美味しいものを提供する」という、若きシェフとソムリエの思い。その思いが【kabi】のポジションを着実に唯一無二のレストランにしつつある。

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料金:コース 9,000円
   アルコールペアリング 6,000円
   ノンアルコールペアリング 4,000円
   いずれも税・サ抜
   ※ドリンクは単品注文も可 

この記事を作った人

写真/岡本裕介 文/郡司 周 (ヒトサラ編集部)

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