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更新日:2018.06.27グルメラボ

この夏注目のアニメ映画「アーリーマン」と縄文グルメ

“原始時代”を描いた2018年7月公開予定の最新アニメ映画「アーリーマン」を紹介しながら、日本における同時代“縄文時代”の意外な食糧事情と、そこで花開いた人類史上類い希なる縄文土器と土鍋との関係に思いを巡らせる。

この夏注目のアニメ映画「アーリーマン」と縄文グルメ

“石器時代”を描いたアニメ「アーリーマン」

    映画でも描かれる“石器時代”の狩猟シーン。

    映画でも描かれる“石器時代”の狩猟シーン。

 米国のアカデミー賞の栄誉に4度も輝く、英国が誇るアニメーション監督「ニック・パーク」と、同じく英国を代表する制作スタジオ「アードマン」による、ストップモーションアニメの新作映画「アーリーマン」がこの夏、日本に上陸する。
 物語の舞台は“石器時代”から“青銅器時代”へと移り変わろうとするいわゆる原始時代の深い森。そこではとある石器人部族が平和に暮らしていた。そしてそんな部族を、持ち前の明るさと好奇心で引っ張るのが、主人公の少年ダグだ。
 ある日いつものようにダグ達は部族総出でドタバタと兎狩りをしていた。すると、森で青銅を採掘しようと、軍隊を引き連れ侵攻してきた青銅器人部族たちと遭遇する。その圧倒的な文明力になすすべも無く蹴散らされるダグ達は、やがて故郷の森から、乾いた干からびた土地バッドランドへと追いやられてしまう。
 一方、文明の進んだ青銅器人部族の住む街「ブロンズ・エイジ・シティ」では、巨大なスタジアムがあり、街の人達の娯楽としてサッカーの試合が行われていた。
 やがてダグたちはひょんなことから自分たちの森を取り戻すため、青銅器族を代表する名門サッカーチームと試合をすることになるのだった…。

石器時代に日本で発展した縄文土器

    縄文時代の住居を復元した遺跡は全国各地にある。写真は横浜「三殿台遺跡」

    縄文時代の住居を復元した遺跡は全国各地にある。写真は横浜「三殿台遺跡」

 本作の時代設定は“石器時代”。日本だとちょうど“縄文時代”(約1万5000年前~2300年前)にあたる。“縄文時代”と聞くと本作の「アーリーマン」同様に、動物の皮を身にまとい、石の矢尻でひたすら狩猟をするその日暮らしのイメージを持つ人も多いのではないだろうか。
 
 ところが、ここ近年のDNA鑑定などの科学的な発掘調査により、縄文人は文字こそ持たなかったが、石器による狩猟だけでなく、これまではその後に訪れる“弥生時代”に持ち込まれたとされる、稲作文化や他の農作物の栽培痕跡も発見されている。さらに多彩で高度な技術で作られた縄目模様による縄文土器の出土や、定住を裏付ける巨大な建築物の痕跡から、想像以上にスケールの大きな高度な文明が築かれていたことが次々と判明しているのだ。

鍋料理の元祖は食材の王国 “縄文時代”!?

    縄目の模様が特徴である縄文土器は様々な用途の土器が作られている

    縄目の模様が特徴である縄文土器は様々な用途の土器が作られている

 中でも注目したいのは、その食材の豊富さである。狩猟するウサギやイノシシに鹿といった哺乳類が約60種類に、魚類は約70種類。貝類に至ってはなんと300種類以上を食していたというから驚きである。そして、その調理の仕方も、海外における他の地域の石器人のようにただ生肉を火に炙るだけでなく、干し物にしたり縄文土器を使い煮込んでいたことが判っている。

 そう、鍋料理のルーツはすでに縄文時代にあったわけである。我々が鍋と聞いてすぐに土鍋をイメージするのも、あながち我々日本人のDNAに深く刻まれた縄文人の太古の記憶の成せる技なのかもしれない。

旨味を発見したのは縄文人か?

    縄文人は旨味詰まった豊富な食材を食べていたのか

    縄文人は旨味詰まった豊富な食材を食べていたのか

 この土器による煮込む調理の仕方だと、肉や魚介のエキスをスープにして、余すことなく体内に頂くことができる。そしてそのスープにはあらゆる種類の動植物の細胞から遊離したタンパク質が溶けだしていたことだろう。
 
 この遊離したタンパク質にあの旨味があるわけで、後の時代に登場する出汁とよばれる和食の基本がこの時代にすでに誕生していたことになる。後に旨味を発見した日本人の舌は、すでにこの頃から磨かれていたというわけである。
 
 ちなみにこの旨味が脳に伝わるとセロトニンなどの快感物質が脳内に放出されるため、がぜん縄文人たちのタンパク質を求めるモチベーションは高まり、狩猟や漁にも精が出たことだろう。

土鍋文化のルーツ “縄文時代”

    縄文時代から鍋料理には土鍋が定番だった。

    縄文時代から鍋料理には土鍋が定番だった。

“縄文時代”はさして大きな争いも無く1万年にも及ぶ繁栄を謳歌したという。その背景には縄文土器を使った調理により旨味を味わったことで、タンパク質を効率よく摂取し肉体を育んだことが大きいだろう。
 
 本来それは大切な栄養素なのに、その味気無さのめに見向きもされないはずのタンパク質を、味覚にウルサイ日本人に合わせて摂取させるために、わざわざ神が土器とタンパク質と旨味による三味一体な関係性を仕組んだといえないだろうか。
 
 これからは美味しい鍋を頂くときには、その土鍋を愛でながら“縄文時代”へと思いを馳せ、その出汁の旨味を味わってみたいと思うのである。

    『アーリーマン ~ダグと仲間のキックオフ!~』<br />
2018年7月、TOHOシネマズ 上野ほか全国ロードショー!<br />
<br />
配給:キノフィルムズ<br />
(c)2017 Studiocanal S.A.S. and the British Film Institute. All Rights Reserved.

    『アーリーマン ~ダグと仲間のキックオフ!~』
    2018年7月、TOHOシネマズ 上野ほか全国ロードショー!

    配給:キノフィルムズ
    (c)2017 Studiocanal S.A.S. and the British Film Institute. All Rights Reserved.

この記事を作った人

撮影・文/薬師寺十瑛

オヤジ系週刊誌と月刊誌を中心に請われるまま居酒屋、散歩坂、インスタント袋麺、介護福祉、住宅、パワースポット・グラビア編集・芸能そしてちょっと霞ヶ関と節操無く取材・編集・インタビューに携わる日々を送る。現在、脳が多幸を感じる食事や言葉に注目中。

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