秋公開の仏映画『おかえり、ブルゴーニュへ』で学ぶ世界的産地のワイン造り
ワイン好きにはなじみ深いブルゴーニュワインをテーマにした2018年11月17日公開のフランス映画『おかえり、ブルゴーニュへ』の紹介とともに、ヨーロッパの文化を醸成したキリスト教文化とワインの関係に思いを巡らせる。
日本人も大好きなブルゴーニュワイン
ワインの味はブドウで決まる。ワイン醸造に至る作業過程の中で、ブドウ栽培は8割の労働量を占めているともいわれている。
ブドウ畑の土質や、水ハケの状態によって畑自体の等級も決められ、それがそのままワインの品質や格付けにも反映されるわけである。例えばフランス中西部に位置する、世界でも有数のワイン産地であるブルゴーニュ地方(※1)で、日本人にも馴染み深い高級ワインの代名詞ともいえる「ロマネ・コンティ」も、栽培されたブドウ畑の名前をそのまま冠していることからも判る。
そんな自らの畑でブドウを栽培し、醸造から瓶詰めまで一貫して行うワイン生産者を特にこのブルゴーニュ地方では「ドメーヌ」と呼んでいる。
映画で描かれる美しいブルゴーニュの四季
今秋公開されるフランス映画『おかえり、ブルゴーニュへ』
そんな「ドメーヌ」を舞台に、繰り広げられる3兄妹たちのワインの香りに包まれた人間模様を描いたフランス映画『おかえり、ブルゴーニュへ』がこの秋公開される。
物語は10年前に実家を飛び出し、世界を放浪していた長男ジャン(ビオ・マルマイ)が、病床の父親が末期であることをきっかけに、故郷ブルゴーニュにひょこり帰ってくるところから始まる。
ワインによって結ばれた兄妹たちの絆
実家では兄妹の中で一番醸造家としての才能を持つ妹のジュリエット(アナ・ジラルド)と、野心的で高圧的なパワハラ義父が経営する近所の「ドメーヌ」に、婿養子となった弟のジェレミー(フランソワ・シビル)の2人で実家のワイナリーを守っていた。
突然帰って来た身勝手な長男に、他の兄妹達はいささかの反発を感じながらも、久しぶりの再開を喜び合い、自分たちの絆を確かめ合うのである。だが、そんな兄妹の再開を喜び合うのもつかの間、病臥に伏していた父親が亡くなってしまう。
途端に吹き出す相続税問題など、ワイナリーの存続を脅かす経済的諸問題の数々。やがて父親が亡くなって初めてのブドウの収穫時期を迎えた兄妹たちは、否応なく協力し父親の教えを思い出しながら、自分たちなりに納得のいくワイン造りを始めていくのだった。
そして最後に、父親が残したワイナリーを守っていくことが、自分たちにとって一番大切なことだと気づく兄妹たちは、ワイナリーの新しい経営に積極的に乗り出していくと同時に、それまで躊躇していた自分たちそれぞれの未来へ果敢に踏み出して行くのだった。
おいしいワインは良いブドウ畑から生まれる
人々に愛されるワイン
映画はひたすらに、季節に移ろう美しいブルゴーニュの田舎とブドウ畑、そしてそれぞれの悩みを抱えながらも、ワイン造りに専念する兄妹たちの心の熟成を、まるで童話か聖書の逸話のように描いていく。
映画を観終わると、ワインセラーにキレイに並ぶワインボトルを愛でるだけでは想像できない、そのあまりにも繊細で人間臭いワイン造りの奥深さや、ワインが日本人の思う以上にフランス人の文化や生活、そして人生にとって重要な位置を占め、愛されていることを知るのである。
日本で人気が高いブルゴーニュ白ワインの代表「シャブリ」は生牡蠣や天麩羅に合う
ワインは英語ではWineと書くが、フランス語ではVin、イタリア語ではVino、ラテン語ではVinumと書き、古代インドのサンスクリット語の“愛される者”を意味する「ヴェーナ」に由来するという。
そもそも人の手によりワイン造りが始まったのは、古代オリエント時代(※2)ともいわれ、その後のローマ帝国の拡大やキリスト教との関わりを深め、その布教とともにヨーロッパ中に広がっていくのだった。
乾杯は悪魔払いの儀式!?
だがそんなキリスト教が広まる中世ヨーロッパでは、酒には悪魔が宿っていて、酒をそのまま飲むと身体に悪魔が入って災いがおこるとされていた。ちなみにグラスをカチンと合わせて音をならして悪魔払いをする習わしが、乾杯の始まりという説もあるのだ。
しかしワインだけは最初から聖なる飲みものとして特別扱いされ、各地の修道院によりブドウ畑が開かれ、ワインが盛んに造られていったのだった。
赤ワインの味わいの要素は「果実の甘さ」「酸っぱさ」そして「渋さ」
聖書によればあの「ノアの大洪水」の後に、人は初めてワインを醸造することを知ったとなっており、ワインを栽培し醸造したノアはスゴイ酒乱で、酔っぱらって裸になるオヤジとして描かれている。またイエス・キリストが最初に行った奇跡も婚礼の席で、水をワインに変えたこととなっており、ワインはキリスト教文化の中では特別なまさに御神酒なのである。
ワインの道はグルメに通じる
ヨーロッパの修道院制度の父とも呼ばれる「聖ベネディクト」(※3)が表した戒律によれば、ワインの飲み方として1日1/4㍑のワインがあれば足りるが、もし足らない場合は、大修道院長の裁量に委ねるとなっており、やはりこと聖なるワインのたしなみに関しては、戒律の厳しい修道院でもかなり寛容だったようだ。ひょっとして二日酔いの修道士が、青い顔で溜飲を上げながら、これは神の試練もしくは悪魔のなせる業と、神の前で告白する様子が院内では垣間見られていたのかもしれない。
赤ワインの味わいの要素は「果実の甘さ」「酸っぱさ」そして「渋さ」
いまやすっかり日本語として定着したフランス語で食通を意味する「グルメ」の語源は、ワインの利き酒をする人であるという。グルメの道はワインの味わい同様にどこまでも深遠なのである。
(※1)ブルゴーニュ。ボルドーと並ぶフランスのワイン2大銘醸地で、有名なワインの銘柄を多く産出する。年間2億本生産されるがそれは世界中で販売されるワインの5%に及ぶ。果実の香りが過ぎないため素材を活かす和食に合う。例えば天麩羅に合う白ワインの「シャブリ」などが日本でも人気。
(※2)オリエント時代。紀元前4,000年~紀元前400年中東地方に起こった古代文明。
(※3)聖ベネディクト。(480年頃~547年)イタリア生まれ。ローマで文法と修辞学と哲学を修め、50歳でナポリ近くのモンテカッシーノで修道院を建て「従順・貞潔・清貧」「祈りと労働」といったその後の修道会の礎(いしずえ)となる戒律を作った修道士。
『おかえり、ブルゴーニュへ』予告
映画情報
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監督は『猫が行方不明』のセドリック・クラピッシュ。
11月17日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEAほか全国順次公開。
配給:キノフィルムズ/木下グループ PG-12
©2016 - CE QUI ME MEUT - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA
この記事を作った人
取材・文/薬師寺 十瑛
週刊誌と月刊誌を中心に請われるまま居酒屋、散歩坂、インスタント袋麺、介護福祉、住宅、パワースポット・グラビア編集・芸能そしてちょっと霞ヶ関と節操無く取材・編集・インタビューに携わる日々を送る。現在、脳が多幸を感じる食事や言葉に注目中。
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