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ミシュラン2つ星【赤坂 桃の木】が紀尾井町に移転 | よりシンプルによりダイナミックに進化中

5年連続でミシュランを獲得し続ける中華料理【桃の木】が東京ガーデンテラス紀尾井町に移転。シェフの技が光る、素材を活かしたシンプルな料理は、多くのファンを魅了し続けている。現状のままでは終わらない、新たな場所で進化し続ける想いをシェフの小林さんに聞いてきました。

桃の木

シンプルだからこそ際立つ料理人の技

 “桃李いわざれども下自ずから蹊を成す”。これは、店名である【桃の木】の由来となった中国の故事で、その意味するところは、“香り高く味も良い桃やすももの木の下には自ずと人が集まり、道が開ける”というものだ。そのネーミングには、美味しい料理に自然と人が集まる店にしたいーと願う小林武志シェフの強い思いがこめられていよう。そして、その名の通り2005年のオープン以来、数多くのグルマンの舌を魅了。ミシュランの創刊当初から一つ星を獲得。2015年からは中華料理店として唯一、5年連続でミシュランの二つ星を取り続けるなどその実力を如何なく発揮してきた。その【桃の木】が、3月3日、長年親しんできた御田町から東京ガーデンテラス紀尾井町に移転。

    小林武志シェフ

    小林武志シェフ。辻調理師学校を卒業後、同校の講師を経て吉祥寺【竹爐山房】の山本豊シェフに師事。2005年に独立。御田町に【桃の木】を開店する

きっかけは、4〜5年前に経験した台湾や韓国のホテルでのフェアだったとか。それまでは、全ての調理過程を自分1人で担ってきた小林シェフだったが「1人で集中して作るのもいいけれど、多勢のスタッフと一緒に手間暇かけて料理を作るのも良いものだな、と、この時思ったんです。10人、20人というお客様に料理を一気に出すのも迫力があって爽快! 何と言っても中華料理らしいですからね」とのこと。新店では、叉焼(チャーシュー)や脆皮炸子鶏(クリスピーチキン)等々、広東の焼き物のような中華ならではの手間をかけた料理も積極的に取り入れていくつもり、と目を輝かす。

    A菜、ホワイトアスパラガス、スナップえんどう

    厨房に届いたみずみずしい野菜たち。左が台湾の高雄から送られるA菜。右が生でも食べられそうなホワイトアスパラガス。手前がスナップえんどう

 さて、小林シェフの真骨頂といえば、やはりシンプルな料理、それに尽きるだろう。食べてもらいたいものが、はっきりと食べる側に伝わる料理、食材の持ち味をストレートに生かしきた一皿……。それが、小林シェフの料理哲学であり、目指す料理のあり方でもあるからだ。そして、単純極まりない料理にこそ、料理人の実力は如実に現れる。野菜の炒め物などは、まさにその良い例だろう。小林シェフ自身、野菜への思い入れは深く、現在、【桃の木】の厨房には、岩手馬場園芸のホワイトアスパラガスや台湾のA菜etc.新鮮な旬の野菜が日々届けられる。それらのみずみずしい美味しさを、できるだけ損なうことなく手早く適切に味わって貰うため、調味料も最小限に抑え、素直な味に仕上げるのが小林流だ。

    A菜と自家製干し肉の炒めもの

    『A菜と自家製干し肉の炒めもの』。15000円の一品。A菜とは、油麦菜のことでチシャの一種。台湾ではポピュラーな野菜で、A菜は俗称

 例えばご覧の『A菜の炒め物』。シャキッとみずみずしく歯切れ良い菜っぱの炒め加減も絶妙なら、隠し味に加えた腐乳のコクや塩味とのバランスも上々。味わいも品の良い自家製干し肉の腊肉(ラーロウ)と炒めただけの、どこにでもある極めて庶民的な野菜炒めながら、その卓越した手技とセンスで立派なレストランの一皿に昇華。ここでしか味わうことのできない逸品となっている。どこにでもありそうでどこにもない味。これこそ真の唯一無二。そんな本物の味を愛し続けたグルマンの1人に、あの日本料理界の巨星、今は亡き【京味】の西健一郎氏がいた。

    いんげんと根菜の醬油味の炒め物

    『いんげんと根菜の醬油味の炒め物』。弾けるような勢いで、瞬間に強火で炒める爆と呼ぶ調理法で仕上げた一品。中国醤油や紹興酒を合わせた醤油ダレが香ばしい。西さんの思い出の味

 その西さんがこよなく愛した料理。それが東北菜の一つ、『いんげんと根菜の醬油味の炒め物』だ。写真はそのアレンジバージョンで、じゃがいもにさつまいもをプラス。夏場が旬のいんげんの代わりに春が旬のスナップえんどうを使用したもの。これらの野菜を高温の油で一度素揚げにした後、醤油ダレとともにからりと炒めあげるのみの見るからに素朴なお惣菜的一皿だ。が、口にすれば、拍子木状にカットしたじゃがいもやさつまいもは、周りはカリッ、中はホックリ。その食感のコントラストに思わず笑みがこぼれる。一方、サクリとした歯ざわりのスナップえんどうは青々しい春の香りと甘みが口中に広がる。鍋肌で一瞬焦がす醤油ダレの芳ばしい風味が更に食欲をそそる。しかし、皿には一滴の汁も流れていない。そこには、あるエピソードが隠されていた。小林シェフがしみじみと語る。「当初はもっと汁気のある料理でしたが、西さんが『(この料理は)水分が無くなったらもっと美味しいやろうなぁ』ってふっと呟かれたんです。で、早速、改良してみたのが現在のスタイルなんです。」以来、西さんは訪れる度にこの一皿をリクエストしていたそうだ。

ソムリエとタッグをくみ、料理とワインを楽しむ

    ワイン

    左からカリフォルニアのピノノワールで、「ノリア ピノノワール サンジャコモナカムラセラーズ」、「ブルームス フィールド」。右三本は、今や世界が注目するニュージーランドのKUSUDAワイン

 中華料理とワインの組み合わせは、もう当たり前のようになった昨今だが、小林シェフもまた、ワインをこよなく愛する料理人の1人だ。ワインへの造詣も深く、これまでも料理とのマリアージュを常に考えていたそうで、新店では、新たにソムリエも招聘。更なるワインの充実を図っていくつもりだとか。「今までも、有機栽培の自然な醸造によるワインを中心に、KUSUDAワインやアルザスのワインなど僕自身がセレクトした希少なワインを揃えていましたが、今後は、より幅広く楽しんで貰えるようにしていきたいですね。」とは小林シェフ。シャンパンももっと豊富に揃えていく予定だそうだ。

    黒酢の酢豚

    『パパイヤの蒸しスープ』。パパイヤの甘みとクリアなコクが味蕾に広がる

 軽やかな飲み口のシャンパンなら、オープン以来、14年に渡って作り続けてきた『パパイヤの蒸しスープ』などにも、なるほどよく合いそうだ。パパイヤの仄かな甘みとコンソメにも似たクリアなコクが味蕾に広がるこのスープは、小林シェフのスペシャリテでもある。また、『鎮江黒酢の酢豚』にも小林シェフらしいひと手間がかけられている。酢豚といえば、衣をつけて揚げた豚を黒酢の餡で絡めるのが常套だが、ここでは、豚の風味をマスキングさせないようあえて衣を付けずに素揚げ。しかも、豚肩ロースは、塊のまま事前に一度醤油ダレで煮込み、きちんと下味をつける丁寧さだ。それゆえ、肉がパサつくこともなく、餡というよりもソースと呼ぶにふさわしい黒酢ダレと見事に調和する。老酒をたっぷりと用いたまろやかな酸味のソースはまるで赤ワインソースのようにふくよかな味わい。赤ワインとの相性も上々だ。

美しい夜景にシックな個室、大人が楽しむプレシャスな空間

    クロスのかかったテーブルにモダンなシャンデリアが煌めく店内は、ラグジュアリーな雰囲気

    クロスのかかったテーブルにモダンなシャンデリアが煌めく店内は、ラグジュアリーな雰囲気

 扉を開け、ガラス張りのワインセラーを横手に見ながら煌びやかな店内へと足を運ぶー。グランメゾンを思わすそのアプローチに心を高鳴らせつつ席に着けば、ウインドゥの向こうに広がる夜景に思わず目は釘付けとなる。これから始まる極上のディナーの前哨戦としては上々だ。コースでは、先の『パパイヤの蒸しスープ』や『鎮江黒酢の酢豚』など小林シェフの定番人気メニューが次々と登場。スタンダードな料理が並ぶ15,000円のコースから、『フカヒレの姿煮』や高級乾貨がつく22,000円から上は10万円のコースまで各種用意されている。小林シェフ曰く「新店では、キャビアやフォアグラなの高級食材も取り入れていくつもりですが、安易に使いたくはない。これは!という納得のできる料理をこれから考えていこうと思っています。」

    美しい夜景を目の当たりにできるおすすめシートは、店内一番奥のスペース。仕切れば個室にもなる

    美しい夜景を目の当たりにできるおすすめシートは、店内一番奥のスペース。仕切れば個室にもなる

 ゆったりとした空間に生まれ変わった【桃の木】。店は広くなっても、客席数は、御田町時代とほぼ変わらぬ18席。それだけ落ち着いて食事を楽しめそうだ。また、奥には個室になるスペースもあり、4人から8人まで収容が可能。記念日はもちろん、大切な方の接待にも重宝しそうだ。王道の味をわかりやすく、それでいて洗練させた味わいに仕上げられた【桃の木】の料理なら、中華通はもちろん、万人が美味しいと納得できるはず。そんな安心感もまた、二つ星の実力と言えるだろう。

  • 営業時間:17:00~22:00(L.O. 21:00)
    定休日:水曜日、他不定休
    ※要予約

この記事を作った人

撮影/佐藤顕子 取材/森脇慶子

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