山梨ワイン識者が鼎談「歴史あるワインと豊かな食材が織りなす、山梨ブランドの魅力とは?」
日本ワイン発祥の地であり、ワイン生産量とワイナリー数は日本一を誇る山梨県。2019年には「ワイン県」宣言をして、山梨ワインのさらなる発展を図っています。「やまなし観光推進機構」理事長の仲田道弘氏、「常磐ホテル」代表取締役社長の笹本健次氏、「サントリー登美の丘ワイナリー」所長の庄内文雄氏という3名が集ったのは、2021年11月にオープンした【ペントハウス甲州】。地元産のワインと食材を追求したステーキハウスで、「ワイン×食による山梨の魅力」を語り合いました。
日本ワインを牽引する山梨県。裾野を広げてきた今、さらに価値を高める未来へ
近年はショップやレストランで目にする機会が増え、人気の高まりを実感する日本ワイン。各地で大小さまざま、個性さまざまな造り手が増えるなか、ワイン生産量とワイナリー数の全国No.1を誇る山梨県は、日本ワインにおける文化や産業の促進に大きな役割を担っていると言えます。
(左から)「サントリー登美の丘ワイナリー」所長の庄内文雄氏、「やまなし観光推進機構」理事長の仲田道弘氏、「常磐ホテル」代表取締役社長の笹本健次氏
日本各地のレストランでも日本ワインを取り揃えているところが増え、ワインリストを見ると山梨産が多くを占めていることがあります。出身を明かさずに店の方の話を聞いてみると(笑)、山梨ワインの評判はなかなかいいのです。
ここ十数年で日本ワインの市場が広がり、注目度も高まっています。一番の起因は品質向上だと考えられますね。そんな現状において、ワイン生産量とワイナリー数が全国一位の山梨は、近年「ワイン県」宣言を掲げていることもあり、日本ワインを牽引する重要な土地かなと思います。
この辺りの話は「ワイン県」の仕掛け人でもある仲田さんからもお聞きしたいですね。
数年前、丸の内のOLさんを対象に、山梨で何をイメージするかアンケートを取ったことがあります。私たちは一番に「富士山」が挙がるかと思っていたら、「ぶどう」「ワイン」という回答が多かった。そんなとき県知事から「『ワイン県』をやりたい」と打診があり、私が企画書を書き上げまして、2019年8月に「ワイン県」宣言となったわけです。
1909年に設立した、サントリー登美の丘ワイナリーの前身である「登美農園」。目の前に広がる景色は、雄大な富士山と甲府盆地
「登美の丘ワイナリー」の前身である「登美農園」は1909年に設立したのですが、元々は「赤玉ポートワイン」の生産地を求めてたどり着き、山梨固有の品種「甲州」を手掛け、戦後はグローバルに通用する欧州系品種のワイン造りを始めました。「登美の丘ワイナリー」の歴史、山梨ワインそして日本ワインの歴史をオーバーラップして見ていただいても面白いかもしれません。
山梨ワインのバックボーンはやはり歴史ですね。明治7年、甲府市で僧侶の山田宥教(やまだひろのり)と日本酒蔵を営む詫間憲久(たくまのりひさ)の2人がワインを醸造、明治8年に販売しています。ここ常磐ホテルのすぐ近くが日本ワインのルーツになるわけです。
「明治期に『愛飲運動』が始まり、山梨では古くから日常生活においてワインが飲まれていたのです」と仲田氏
山梨の人ってものすごくマニアックなんですよ(笑)。黎明期からコツコツとワインを造り続けてきたのです。
そして十数年前から、国際的なコンクールで山梨ワインが受賞することも多くなりました。世界レベルで勝負できるベースが、山梨ワイン全体に整ってきたかなと思います。
「サントリー登美の丘ワイナリー」の自家ぶどう畑では、主に11品種のぶどうが栽培されている
(左から)『登美の丘 シャルドネ 2019』4,000円、『登美の丘 甲州 2019』4,000円、『マスカット・ベーリーAロゼ2019』1,820円、『登美の丘 赤 2018』4,000円、『登美 赤 2016』12,000円、『登美 ノーブルドール 2010』25,000円(全て税抜き価格)
『登美の丘 甲州』は、世界最大級のコンクール「デキャンター・ワールド・ワイン・アワード」でプラチナ賞という高評価を受けましたね。ここ20年ほどで品質が飛躍的に向上して、それまでの150年間の歴史でできなかったことが実現しています。
これまで甲州種ワインのヴィンテージなんてなかったけれど、いまコレクションしておくと10年後20年後が楽しみですね。
「【ペントハウス甲州】ではハイクラスのワインを開けるお客様も多く、山梨ワインのブランド力も確立しつつあるのを実感」と笹本氏
甲州種の熟成品って、市場にあまりないと思います。あっても昔のものだから、現在の甲州種ものとタイプが違う。これから10年を経て、いま造られているワインがどうなっていくか、まだまだ可能性があってとても面白いですね。
【ペントハウス甲州】でも、将来に備えてワインを貯めておこうかと。コレクションの世界に入ってこそ、ワイン文化の深みと厚みが出てくると思います。
山梨ワインの裾野を広げるとともに、トップのレベルを上げていかないといけませんね。取り組むべき、永遠の課題です。
料理に寄り添う山梨ワインとともに地元食材にスポットを当て、それらを楽しむ場をつくる
山梨の食として全国区の知名度があるのは「ほうとう」や「鳥もつ煮」といった郷土料理。しかしながら、「甲州牛」やブランド養殖魚、野菜類など豊かな土地で育まれた高級食材があふれています。そういった食材をワインと一緒に楽しめる【ペントハウス甲州】のようなレストランが着目されています。
銀座のステーキハウス【ペントハウス】の姉妹店として、2021年11月にオープンした【ペントハウス甲州】。武田家ゆかりの塩山「萩原邸」を移築、甲州田舎造りの古民家を改装した店内
日本という土地の特性なのかもしれませんが、甲州種に限らず、欧州種のワインを造ってもエレガントになって、「料理に寄り添う」という感じになりますね。
はい、甲州種をはじめとする日本ワインは、和食にも合わせやすいと思います。さらにフランス料理などの洋食も、あっさりした味わいに仕上げているものが多く、その世界的な傾向は日本ワインの追い風になっていますね。
この【ペントハウス甲州】では、ステーキを箸で食べていただいています。ご飯と味噌汁を添えた和洋折衷のスタイルに、ワインを合わせて楽しむ。食文化の幅が広がっていますよね。
鮮やかな赤身にきめ細かなサシが入った「甲州牛」。肉質は柔らかく、焼き上げると豊かな旨みと脂の甘さが際立つ
ステーキといえば赤ワインが定説ですが、「ワイン県」副知事であるソムリエの田崎真也さんは白ワインとのペアリングも提案されていますね。肉の脂を洗い流す赤ではなく、ステーキの味わいにふくらみをもたせてくれるような白を。私は甲州種ワインもいけると思っています。料理の仕上げにふりかける調味料のイメージで、ワインを選ぶのが外さない極意だそうです(笑)。
確かに和牛の繊細な脂は、優しい甲州種ワインも合いますね。
甲州牛は柔らかく、上質な脂が特徴です。【ペントハウス甲州】ではしっかり熟成させて、脂がべたつかない特別な焼き方をしていますからね。
独自の焼き方で供されるステーキは、香ばしい風味をまとい、口に入れるや肉汁があふれる。肉本来の味が引き立つように、塩やにんにく醬油、からしを添えて。程よい酸味と良質なタンニンのバランスがよい『登美 赤 2016』は「メルロ」「プチ・ヴェルド」「カベルネ・ソーヴィニョン」の自園産ぶどう100%使用
固定観念にとらわれず、意外な組み合わせを試すのもいいですよね。時には失敗するかもしれませんが(笑)、それを含めて新しい発見ができるのがワインの楽しいところですね。
田崎真也さん曰く、以前ソムリエは海外のワインを日本に紹介する役割をしていた。いまは日本の食事に合わせてワインを楽しみたい海外の人に、日本ワインを紹介することも必要だと。だから、提供する側は日本ワインについての知識を求められていますね。
その土地の食に合わせて、その土地のワインを楽しむのが定番に。ワインを造る国のあるべき姿かなと思います。
「山梨のワイナリー全体の力が底上げされていて、本当に質の良い山梨ワインを楽しんでいただけるようになったと思います」と庄内氏
私が【ペントハウス甲州】をオープンしたのは、地元食材をふんだんに使って、県外の人にも知ってもらう場にしたいからです。甲州牛はもちろん、野菜もとても美味しい。山梨オリジナルのブランド養殖魚「富士の介」などもある。面白いものでは、名産品の「鮑の煮貝」。海に対する渇望から、創意工夫してつくり上げたものですね。余談ですが、山梨は寿司店の数が人口比率で日本1位と聞きますね(笑)。
そして私は以前から、寿司に合うのは甲州種ワインしかないと力説しているのです(笑)。
山梨には、ワインも食材も優れたものが多いのです。でも、その価値を知っていただく場があまりありませんでした。だから、私どもホテルや飲食店が発信していかなければならない。【ペントハウス甲州】に限らず、さまざまなジャンルで食を楽しむ場ができて、日本各地のみならず海外からのお客様を受け入れられるよう、懐を深くしていくべきですね。
キングサーモンとニジマスを交配した山梨オリジナル魚「富士の介」のマリネ、バルサミコソースを添えた鮑の煮貝、甲州牛のたたきを盛り合わせに。山梨食材を存分に楽しめる前菜には、ふくよかな味わいの『登美の丘 甲州 2019』を
自信をもって「飲んでいただきたい」と勧められる、そういった品質のワインが揃っています。ワインは料理があって、人がいて、はじめて完成するものだと思いますから、是非とも山梨に来ていただきたいです。
ワインツーリズムなどを開催していると、お客様の方がとても知識を持っていて「地元ならではの食を提案してほしい」というリクエストがあるのです。そういった外部からの刺激を受けてこそ、山梨のホテルやレストラン、ワイナリー、そして食文化全般が発展していくと考えています。
鼎談者プロフィール
仲田道弘氏(「やまなし観光推進機構」理事長)
1959年、山梨県生まれ。筑波大学卒業後、山梨県庁に入庁。以後30年にわたり、ワイン産業の振興に携わる。現在は、公益社団法人「やまなし観光推進機構」の理事長、山梨県立大学特任教授として、山梨におけるワインと観光事業の推進を図る。著書に『日本ワイン誕生考 知られざる明治期ワイン造りの全貌』(山梨日日新聞社)、『日本ワインの夜明け 葡萄酒造りを拓く』(創森社)などがある。
1949年、山梨県生まれ。1929年に開業した、甲府・湯村温泉の「常磐ホテル」代表取締役。2014年に4代目社長に就任以来、「ワインと料理の夕べ」などのイベントを開催して山梨ワインのPRに尽力する。自動車専門誌『AUTOCAR JAPAN』編集長でもあり、著書に『昭和40年頃の山梨の鉄道追想』(イカロス出版)がある。
1989年にサントリーへ入社し、ワイン技術開発や商品開発を担当。1996年にボルドー大学に留学、ワイン利き酒適正資格(DUAD)を取得。2006年に「サントリー登美の丘ワイナリー」のチーフワインメーカーとなり、2018年にワイナリー所長に就任。
今回の鼎談会場【ペントハウス甲州】
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住所:山梨県甲府市湯村2丁目5-21
電話:055₋254-5555(予約専用)
営業時間:17:00~22:00(L.O.21:00)
定休日:水曜
コースメニュー11,000円~
撮影/海保竜平 取材・文/首藤奈穂
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