日本の世界遺産×【メゼババ】髙山大シェフ 最高峰の文化を体験するプロジェクト「THE LEGENDARY JAPAN」が目指すものは?
日本の魅力を未だかつてない形で世界に発信するために立ち上げられた「THE LEGENDARY JAPAN(ザ レジェンダリー ジャパン)」。ゲストにラグジュアリーな体験を提供するだけでなく、料理を提供する料理人やスタッフ、食材の生産者も巻き込み、より良い食の未来を構築していくという大義を胸にエグゼクティブアドバイザーに就任した【メゼババ】髙山大シェフ。その思いを語っていただきました。
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「THE LEGENDARY JAPAN」とは
髙山シェフがこのプロジェクトで料理する意味とは
挑戦者をサポートし、必ず成功するシステムをつくる
「THE LEGENDARY JAPAN」とは
世界遺産や国宝に登録されている神社仏閣の一般には公開されていない特別な場所を貸切り、僧侶や雅楽・華道などの文化人や芸術家と交流しながら日本のトップシェフの料理を愉しむという「最高峰の日本の文化」を体験できるプロジェクトです。
コロナ禍の影響により、大打撃を受けた観光業の復活を目的にしていますが、単に観光客を増やす、あるいはラグジュアリーなイベントを開催するというのではなく、「食」を通じて日本の明るい未来に繋げていく、という大義も担っています。
例えば、食材や酒類、お茶などの飲み物は、有名無名を問わず、プロの目によって厳選されます。採用されて生産者に光が当たることになれば、後継者不足で消えそうな日本の素晴らしい農産物を守ることができるかもしれません。また、料理人にとっても最高の挑戦の場となり、業界の活性化、よりよい発展につながっていくに違いありません。そして、神社仏閣の歴史的価値を外国人観光客はもちろんですが、私たち日本人がその魅力を再認識する機会になってくことでしょう。そんな「より良い日本を目指したい」という熱い思いにより立ち上げられたプロジェクトなのです。
昨年開催された第1回目では、仁和寺を貸切り、皇室ゆかりの寺院ならではの法要・護摩祈願や雅楽の演奏などの文化体験と共に、髙山氏の料理が振る舞われた
初回は、2022年5月20日~22日の3日間、京都の世界遺産、仁和寺にて開催されました。エグゼクティブシェフとしてこのプロジェクトの指揮を任されたのが、予約が取れないだけでなく、マスコミの取材、ミシュランや食べログなど掲載もすべて断っている髙山大氏です。「最初は、僕は適任ではない」と断り続けたという髙山氏ですが、最終的に国宝の舞台に立つことを決意し、どのような思いで挑んだのか話を伺いました。
「僕じゃない」と思ったからこそ、僕がこのプロジェクトで料理する意味を熟考
日本一予約困難といわれる伝説的なイタリアンをつくり上げた【メゼババ】髙山大氏。2022年1月にはイタリアンからの脱却を宣言した
このプロジェクトを立ち上げた株式会社ELternalの代表小久保隆泰さんとは長年のお付き合いがあり、僕のよき理解者です。国宝という空間で特別な時間を僕の料理でお客様を満足させる、という挑戦の場を提案してくださったのはとても嬉しいことですが、即座に僕は適任ではないとお断りしたんです。だって京都の国宝のお寺で、富裕層の方々に向けてのイベントですよ。そこで振る舞われる料理といえば誰もが京都の日本料理の重鎮、あるいはミシュランの3つ星を持つスターシェフを期待しますよね。
でも、小久保さんから、「今までとは違うこと、やったことがないことをやらないとイノベーションは起きない。新結合で化学反応を起こそう。忖度とか、権威とかそういうことと無関係で来た髙山さんだからできること」など熱く口説かれているうちに、「僕は人に美味しいと言ってもらってはいるけれど、実際社会の役に立っているんだろうか?」と密かにモヤモヤしていた心の曇りがもしかしたらこのイベントで少し晴れるのかな?と考えるようになったのです。
仁和寺の天皇しか入れないという特別な場所で、どんな料理が食べられるのかと期待してくるお客様に満足してもらえる時間を共有できるなら、それはまさに「自利」と「利他」、どちらも満たせるということ。「自分の幸せ」と「他人の幸せ」が両立できる理想の形を実現し、それが日本の観光業に貢献することになるなら僕がやる意味も見出せるにちがいない、という確信に至りお話を受けることにしました。
「お客様、食材の生産者、主催関係者……、それぞれの膨らむ思いと交わるように、思い切り自分のエゴを拡張させるしかないと思った」と語る髙山氏
このプロジェクトに挑むからには、特別な場所だから、極上の食材を使っているんだから、ということに甘んじてはいけない。国宝だからという遠慮や気後れで中途半端になってしまうのはもってのほか。全身全霊をかけてやりたいことをやり、自分自身が楽しむ。自己満足を思い切り拡張させていけば、イノベーションを起こして未来に日本の良い文化をつなげていきたいという夢を語る小久保さん、厨房まで使わせてくれた仁和寺の方々、そして、どんな体験ができるのかワクワクして集まってくるお客様の期待など、大きく膨らんだ皆さんの気持ちと交わるに違いない。ある意味、“無の境地”になって自分のためだけに精一杯頑張る。そんな決意を持って未知の舞台に踏み出したのです。
「一番心を砕いたのは、緊張感を和らげ、楽しんでもらう雰囲気づくりだったかもしれない」
おもてなしは、美味しい料理をつくっていればいいというものではありません。むしろ料理を美味しく感じられる雰囲気をつくれるかどうかにかかっていると思っています。これは自分の店でも同じ。僕は予定調和が嫌いなんです。だから自分のお店では店を開けるまでメニューは決めていない。お客さまの表情を見て量も味付けも一人ひとりに寄り添いたいと思っているからです。バーテンダーが飲む人の好みによってアルコールの量や甘さ、酸味などを調節したり、鮨職人さんがネタに合わせてしゃりの温度を変えたり、人によって握りの大きさを調節したりするように。こういったことを、イベントだからとか、いつもと違う場所だからできない、ということにしたくない。だから、いつもと同じようにお客様を迎えて一人一人の表情を見るまでメニューの詳細を決めませんでした。
メニュー考案中の髙山氏。その日、仕入れた食材やお客さまの雰囲気を見て決めているという
スタッフはドキドキ、ハラハラしていたかもしれませんね。でも理念を共有できるスタッフとチームを組んでいたので、そのドキドキを楽しんでくれていたようです。スタッフにまずお願いしたのは、お客さまの緊張をほぐし、笑顔になってもらうために話かけること。美味しさって気持ち次第で感じ方も変わりますから。テンションを上げて料理を味わってもらうって大切なことだと思っています。
京都の食材の素晴らしさ、そのプライドの高さに驚愕! 新たな知見を得る経験に
鶏、牛、貝類でとっただしと骨切りし、粉を打って揚げたあいなめのお椀。器も少し空間を意識して和のものも取り入れた
料理のスタイルは、お寺だからといって和に寄せるというようことはしないで、「髙山の料理」を貫きました。僕にはそれしかできないですから。ただ、野菜、魚介などの食材は、お客さまの期待に応えるべく京都や明石などできるだけ地ものを使いました。衝撃を受けたのは魚介類。京都でピンのピンを扱っている仲買さんを紹介してもらうことができ、今まで扱ったことのない極上品にテンションが上がりました。値段も目が飛び出るほど高かったですけど(笑)。東京でも朝〆た魚がその日のうちに届きますが、京都は「明石でさっき〆た魚」って、ほんとうに“さっき”なんですよ。包丁を入れると筋肉がまだピクピクしていて……、全然違う。魚介はやっぱり距離が大事なんだな、ということを体感しました。
大舞台をやり切ることができたこの経験は、一生の財産に。このプロジェクトを続けていくことも目標にしたい
慣れない場所でのサービスのため、段差にひっかかってお椀をこぼしてしまったり、いいコンディションに持っていけなかったために使えなかった食材があったりと失敗もあったけれど、スタッフ全員が気持ちを一つにし、一切の妥協をすることなく成し遂げることができたのは、大舞台で挑戦するという機会を与えられたからこそです。この体験は私たちにとって一生の財産になりました。お客様も含め、関わった人たちすべての世界が広がる特別な体験。このプロジェクトは、次に繋げるべきことだと確信しています。
挑戦者をサポートし、必ず成功するシステムをつくる
お客さまの目の前で出来立ての料理を提供する仕様に変更。より臨場感や料理を楽しんでもらうために、髙山氏から提案されたスタイル
既に「やってみたい!」と名乗りを上げている友人もいます。例えば、【成生】の志村剛生さん、【日本橋蛎殻町 すぎた】の杉田孝明さん、【おそばの甲賀】の甲賀宏さんなど。一流と言われる人はもちろんですが、2番手で頑張っている若手がチームを組んだり、地方の料理人だったり、ソムリエやサービスの人たちも名乗りを上げて欲しいですね。特に形は決めず、「日本の魅力を発信する」「高い価値を求めてくるゲストを満足させて、人生最高の1日を提供できる」という信念を持って挑める人ならどんなことでもやり遂げられるシステムをつくります!
場所も京都に限らず、日本中の国宝、重要文化財、あるいは指定されていなくても歴史や文化を守り伝えている神社仏閣と手を組んでいきたいですね。日本には16万の神社仏閣があるそうですから。
皇室ゆかりの仁和寺ならではの法要・護摩祈願を体験するゲスト
「ザ レジェンダリー ジャパン」は、まだ走り始めたばかりのプロジェクトですが、どこかに1箇所の地域に集中するのではなく、いろんな場所で、いろんな人たちがベストを尽くすそんな場に成長させていきたいですね。(運営の)小久保さんは、「料理人やサービスマン、生産者、仲買人など食にまつわる人にとっての武道館のような存在にしたい」と言っています。若い人たちは、「いつかはレジェンダリーで最高の料理を披露したい」、ベテランは「レジェンダリーで腕試ししたい」と、生産者さんは「レジェンダリーで使ってもらうために」と食にまつわる人たちの目標になる、そんなイベントになるよう、知恵を絞り、人と人をつなげ、日本中に輪を広げていきたいと思っています。
【mesebaba(メゼババ)】
オーナーシェフ 髙山 大(たかやま はじめ)
1974年、宮城県生まれ。20歳より都内イタリア料理店に勤務し、料理人としてキャリアをスタート。イタリアに渡り、フリウリ、トスカーナ地方にて数年間修業し、帰国後2013年、東京・亀戸で【mesebaba】をオープン。食材に歩み寄りその魅力を引き出す優しさと気迫が共存する料理はもちろん、客一人一人のコンディションにも配慮したホスピタリティで訪れる人を魅了。マスコミの取材はほぼ封印しているにも拘らず「日本一予約困難なイタリアン」「幻のイタリアン」と言われるほど特異な存在に。
Information
【メゼババ】が亀戸から表参道へ移転2022年元旦には属性に甘んじてはいられないと「イタリア料理からの脱却」を宣言。“守破離”の“離”を体現すべく、つくり上げてきたものを壊し、「髙山の料理」の構築を目指して探究を続けている。2023年、外苑前に移転。外食とおうちご飯の境界をなくすような空間に。
住所・電話番号:非公開
撮影/鈴木 卓也 取材・文/藤田 実子
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