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更新日:2017.11.27旅グルメ

世界一のワイン造りを目指す、高山村ワインのフラッグシップ【信州たかやまワイナリー】fromおいしいニッポン物語(第5回)

ヒトサラの新コンテンツ「おいしいニッポン物語」から秋にぴったりの旅の記事をご紹介。第5回は長野県・高山村への旅。知られざるワインの魅力に触れる旅へ出かけよう

世界一のワイン造りを目指す、高山村ワインのフラッグシップ【信州たかやまワイナリー】fromおいしいニッポン物語(第5回)

自治体と民間がタッグを組んでつくった、高山村が誇るワイナリー

 高品質の国産ワインを、新たな村の名産に―。
 そう目標かかげた高山村は、なんと年2015年に村としてワイン振興のための専門職員を採用。ワインの名産地となるべく、本腰を入れた。そして2016年ついに、村の支援を受けて、村内の13人のブドウ栽培者が出資して設立した【信州たかやまワイナリー】が竣工する。
 まさに「おらが村のワイナリー」の誕生だ。

    2016年誕生したばかりの【信州たかやまワイナリー】

    2016年誕生したばかりの【信州たかやまワイナリー】

 このワイナリーの醸造責任者に指名されたのは、メジャーなワインメーカーから転職して高山村にやってきた鷹野永一氏。前出の自治体の専門職員として就任した人物だ。こうして醸造用ブドウを供給する13人の栽培家とそれをサポートする村役場のトライアングルが出来上がったのである。
 早速まだできたばかりの、ピカピカのワイナリーを鷹野氏に案内してもらう。
 ワイナリーで一番こだわったところを聞くと、こんな答えが返ってきた。
「一番気を使ったのは衛生管理です。特に排水には神経を使う。雑菌予防のため高圧洗浄しやすいように角度を丸くした水路の設計など独自に考えました。虫を取る機械では、取った虫が外部から入ってきた虫なのか中から発生した虫なのかを細かくモニタリングしています」。

    左:独特の排水溝の形は、鷹野さんがこだわったところのひとつ<br />
右:ワインにストレスをかけないよう、収穫したブドウの果汁を圧縮機から重力を利用して下のタンクへ落とす

    左:独特の排水溝の形は、鷹野さんがこだわったところのひとつ
    右:ワインにストレスをかけないよう、収穫したブドウの果汁を圧縮機から重力を利用して下のタンクへ落とす

大企業で培った豊かな経験を生かした、ワイナリーづくり

 醸造の仕方も鷹野氏ならではの経験が光る。ワイナリーを建てる土地の高低差を利用し、収穫したワインに負荷をかけないように醸造するグラヴィティ・フローシステムを採用。
 また、高山村とワイナリーの置かれている土地の特徴を理解したうえでその気候環境を活かしているのも面白い。「冬には醸造所内は零下5度くらいになるんですが、その温度になると酒石が自然と沈殿して、除去しやすくなるんですよね」気候条件もうまく利用することにより作業の軽減につながるという。他のワイナリーの設備を見に行くと、それぞれの特徴を活かしてどんなワインを作りたいのか即座にわかるという。 “ワインメーカーで経験していないのは工場長だけ” という鷹野氏が大手メーカーで培った経験と知識が、様々なところで活かされているのだ。

    【信州たかやまワイナリー】の醸造責任者 鷹野永一さんが現在のワインの状況をチェックするため、定期的に確認

    【信州たかやまワイナリー】の醸造責任者 鷹野永一さんが現在のワインの状況をチェックするため、定期的に確認

 こちらで作られる一番数量の多い『ヴァラエタル・シリーズ』は高山村産のブドウ100%で作られる。もともとその品質の高さから、大手メーカーの引き合いも多い高山村産のブドウ。醸造開始初年度の2016年、栽培地の中で醸造されるワインへの期待を込めて出資者でもある栽培者から丹精込めて育てられたブドウが寄せられた。それぞれが思い入れのあるブドウ品種だ。
 取材時は、2016年産のブドウを2017年の5月に木樽に入れて熟成させている状況だった。鷹野氏は定期的にテースティングしてワインの状態を確かめる。この時は仕込んでから4か月目。思っていたより熟成が早く進んでおり、12月上旬にはビン詰めできるかどうかを判断するという。その後約2か月のあいだ静かに休ませて2018年の早い時期の出荷を見込む。

    木樽の中で眠る、メルロー種。初リリースは2018年初旬を予定

    木樽の中で眠る、メルロー種。初リリースは2018年初旬を予定

気軽に飲めて、皆から愛されて欲しいー高山村のワインに込める思い

 【信州たかやまワイナリー】の初リリースワインは、2017年春に誕生。2016年に村内で採れたブドウを使って作った「Naćho」というワインだ。「なっちょ」という呼び名は村の言葉で「ちょっとどうだい?」というもの。気軽にぐびぐびと楽しめる地元産のワイン、という思いを込めて名づけられた。さらに夏にはソーヴィニヨン・ブランとシャルドネをリリース。果実味をシャープに活かした前者に対し、樽熟成とステンレスタンク熟成を絶妙なバランスで仕上げた後者ははリリースしたばかりでも深みを感じさせるワインに仕上がっている。「まだまだ安定していないですが、凄いポテンシャルがあります」 と鷹野氏も自信を見せる。
 「この夏にはシャルドネやソーヴィニヨン・ブランを出荷することができました。今後も生産者が気持ちを込めて作ってくれたブドウを私は自分なりのやりかたでワインに仕上げていきます」。

    左から、ファミリー・リザーブの『Naćho』白・ロゼ ともに(1,620円税込・完売 ※村内限定発売)。高山村のブドウのみで作る『Varietal Series』シャルドネ2016(2,970円税込)、ソーヴィニヨン・ブラン 2016(2,970円税込)

    左から、ファミリー・リザーブの『Naćho』白・ロゼ ともに(1,620円税込・完売 ※村内限定発売)。高山村のブドウのみで作る『Varietal Series』シャルドネ2016(2,970円税込)、ソーヴィニヨン・ブラン 2016(2,970円税込)

 ワイナリーはその土地のもつ特性や気候条件などの要素が非常に重要と言えるだろう。しかし鷹野氏はそれにやや異論を唱える。「確かに土地の傾斜や日照時間といった特性は大切な要素の一つではありますね。しかし、その条件を利用してさらに魅力を引き出し想定されうるブドウやワインを作っていくのは、そこで働く人間の思いなんです」
 このワイナリーの周りでは、代表取締役の涌井一秋さんが自治体と協力し、かつて小区画の遊休農地だった土地を借りて、ワイン用のブドウを植えている。そういったことが可能なのも、自治体と協力して運営するワイナリーだからこそだ。
 そのブドウが成長し、収穫するまでまだ時間はかかる。けれど、数年後にはワイナリーの周りに美しいブドウ畑がひろがり、遠く北アルプスを見渡す美しい光景が現れるだろう。自分が今まで得たものをすべて地域の小さなワイナリーで表現することで村のワイン作りに大きく貢献している鷹野氏をはじめ、ここには自分の人生をかけた男たちのロマンがある。

    ワイナリーの周りに去年植えられたばかりのブドウの苗木

    ワイナリーの周りに去年植えられたばかりのブドウの苗木

 鷹野氏は、まだ小さなブドウの苗木を眺めながら顔をほころばせてこう話す。
「これからはワイン造りを行いながら周辺の開発、例えばこの眺めのいい風景を楽しめるカフェやワインを楽しめるコミュニティスペースを作って行きたいですね。ウチが村のマグネットみたいになって、ここからブドウ畑や温泉に人々が周遊していく、そんな風になればいいな、と思っています」。

株式会社信州たかやまワイナリー
  • 住所:長野県上高井郡高山村大字高井字裏原7926
    電話:026-214-8726

この記事を作った人

撮影/小西康夫 取材・文/嶋啓祐

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