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更新日:2018.08.30食トレンド 連載

【INUA(イヌア)】(飯田橋)|【noma】の正統で華憐な遺伝子 ~ヒトサラ編集長の編集後記 第25回

料理界に革命を起こしたと言われた【noma】。東京に一時オープンしたときは、アリの料理を出すということで大きな話題になりました。その【noma】出身のシェフの新店が東京にオープンしました。それが【INUA】です。いま世界のフーディーが最も注目するお店のひとつ。オープン直後にお邪魔しました。(小西克博/ヒトサラ編集長)

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生きとし生けるものに内在する精神とは

 想定外という言葉が一時流行りましたが、それがワクワクするようなサブライズによってもたらされるのであれば、こちらのテンションも上がろうもの。
 異常気象の酷暑と大雨でしばらく気分が冴えなかったのですが、この新しいレストランで食事を始めたら、目の前に広がる世界の豊かさに驚かされっぱなしです。

 今年6月にオープンした話題の【INUA】は、あの【noma】出身のシェフが、北欧先住民イヌイットの神話に由来する「生きとし生けるものに内在する精神」の意味を店名に掲げたイノベーティブの最先端ということで、世界中から注目を集めています。飯田橋のKADOKAWA本社の9階をすべて使った広いフロアにはゆったりとした席が60席ほど。北欧風のシックなトーンでまとめられ、広いキッチンではヘッドシェフのトーマス・フレベルさんのもと、たくさんのスタッフがきびきびとした動きを見せていました。

柑橘と南国のイメージから

 ジャック・ラセーヌのシャンパンに合わせてシトラスと題されたお皿からスタートです。 
 沖縄のスナックパインに柚子の花の塩漬け。オリジナルの七味がかかっています。刺激的で夏らしい爽やかな一皿です。
 2皿目に枝豆の料理。このあとも豆のバリエーションはいくつか続くのですが、これはロケットの白い花につつまれた香ばしい焼豆。それにパンプキンシードオイルとヤリイカの出汁が旨味を加えます。合わせるのはピンクのラベルが印象的な茨城県のパラダイスビア。自然栽培の若手農業集団として注目を集めている作り手です。
 そして3皿目はバナナパイ。味噌が塗られた海藻でつくったレモングラスの下に沖縄のバナナを敷いたクリスピーなパイなのですが、酸味と甘味と塩味のハーモニーが素晴らしく、またクリスピーな食感と果実のまろやかさが絶妙。コリアンダーの風味が島を包む風のように余韻を残します。心地よく南国の島に誘われていく感じです。

    『バナナパイ』~味噌とバナナのクリスプパイ~

  • 『赤いフルーツ』~赤いフルーツと蜜蝋のジュース~

  • 『シトラス』~沖縄のスナックパインとシトラス~

 続いて赤いフルーツと題された果実と花のお皿。スイカやプラム、チェリートマト、ピタンガーに、花形の昆布はハスカップベリージュースで煮てあり、赤い花はグリルしたパプリカ。それらが蜜蝋のジュースに浸されています。昆布の花が出汁の役割もはたしているのか、ややねっとりした食感のなかに出汁の甘さも感じ、出されたオーストラリアはプールサイドのロゼ2017のすっきり感が気持ちいいマリアージュに。

森の旨味が凝縮したマイタケに陶然

    『ゆば』~湯葉に包まれた野菜の花~

 湯葉の皿が出てきました。出来立ての温かい湯葉に包まれているのは、ナスタチウム、きゅうり、フェンネル、からし菜などの花。花には薄味の出汁が沁みていて、それを山わさびと米麹のソースが味を深めます。花がここまで美味しかったとは少し驚きました。
 われわれが席に着いたときはまばらだったテーブルのほとんどが埋まり始めました。外国人客の姿も多く目につきます。

    運ばれてきたマイタケの鍋。5日冷蔵熟成、3日スモークさせたマイタケにスープは松の木と昆布の出汁と味噌ウォーター&パインダシ

 そしてメインというべきなのかどうなのか。目の前にサービススタッフが持ってきてくれたのはアツアツの黒い塊。これ、マイタケです、と。
 訊くとマイタケを5日間冷蔵熟成、3日間燻製したもので、昆布出汁と味噌ウォーター、パインダシで煮てあるものだそうです。切り分けてもらったものを少し口に含んでびっくり。マイタケは良質の肉を凌駕した旨味の塊であり、薬膳料理の風味もある滋味深い出汁は、目をつぶるとその先に深山が広がるような素晴らしいもの。噛むほどに旨味がじんわりと染み渡り、陶然というのはこういうときに使う言葉なのか、と思わせるほど。いやはやこれはうっとりするお皿です。合わせたお酒はドメーヌ・ヴァレットのプイイ・フュイッセ2012。
 希望を言えば、ここでパンが欲しかった。それも【フロリレージュ】で出されるような白い酒粕の蒸しパン。おじやにして食べたいという人や、うどんを入れたいという人がいたというのも頷ける話で、今回一番驚いた料理でもありました。

    『舞茸』~熟成・燻製させた舞茸~

森と海が交錯する旅

 ナスにクルミのオイルを吸わせて焼いた優しい小品のあとに2皿、海の幸が登場します。ひとつはタラバガニと豆腐のお皿。どちらも濃厚でしっかりとした味を感じるもの。それに海藻のピクルスとウニの料理。これはキリンサイやアカモク、もずく、みつでそう等10種類の解消で構成されたもので、昆布と山椒の葉を一緒にすりつぶして味を抽出した出汁を掬うと、どこか浜辺の風景を感じます。ウニのふくよかな甘さがそれに立体感を与え、浜辺そのものを食べているような感じがしてくるのです。
 ワインはサンセール。セバスチャン・リフォーの2013です。

  • 『かにと豆腐』~タラバガニと豆腐~

  • 『海藻とウニ』~海藻のピクルスとウニ~

 トリュフの香りとともに登場したのが、もうひとつのメインかとも思えるエノキのステーキ。肉料理級の存在感で、小さいナイフで切って卵黄にからませ口に入れるとこれまた先ほどのマイタケ料理にも匹敵する旨味の凝縮感。これは参ったなといった感じです。
 ふだん我々が目にしているどちらかといえば添え物に近い食材をメインの舞台に引き上げ、いずれ劣らぬ主人公としてスポットライトを当てるこのシェフの目線に、小さきものへの愛を感じてしまいました。お酒はエルヴェ・スオーのシラー2016。北ローヌの高地のシラーにはスミレの香りを感じ清涼感が増します。
 タコのグリルが出てきて、これは真空で組織を壊して蒸しあげられた柔らかいもの。かやの美のソース。濃厚なチョコレートのような風味も感じ、食事のシメへの導入をさりげなく告げてくれます。

    『えのきのステーキ』~バナナの葉に包んで焼いたえのき、卵黄のソース~

伝統食に光を当てて

 最後はたきたてのご飯。
入っている具は蜂の子です。【noma】はアリを料理につかったことで話題になりましたが、最後に蜂の子をもってくるあたりは、その遺伝子の堂々たる継承者としての自負なのでしょうか。
 かつての日本人の伝統食に光を当てる、とトーマス・シェフは語ります。
 生後15日目のミツバチの子を香ばしくフライにしたものがゆめぴりかの上にたっぷり乗っていて、グリルしたハマナス、マリーゴールド、アカシアなどの花とともに混ぜていただきます。添えてある香の物もフェンネルや桜やアカシア等の花。ソースは野菜の出汁とバターを乳化させたもの。蜂の子はカリっとしていて香ばしく、ミルキー。それに花の香りが鼻腔をくすぐります。ミツバチが飛び交うお花畑のなかでいただく贅沢な贅沢な炊きたてご飯です。お替りをしてしまった。

    『ごはんと蜂の子』~炊き立てのゆめぴりかと蜂の子、ハマナスを添えて~

  • たっぷりと蜂の子を混ぜていただきます

  • フェンネルの花、さくらの花、のピクルスとともに。

 食事を始めた頃はまだ明るかった外の景色はもう真っ暗。結構時間も過ぎたようで、フロアの灯りも少し落とし気味になりました。
 席を移動してバーカウンターの脇でデザートをいただきました。
 さっぱりした1皿めは、豆を蒸かしたもの。下にはサルナシ、松ぼっくりをシロップで煮たもの、上にはトウヒ、つまり松の新芽がたっぷりかけられ、まだまだ森の余韻は続きます。
 2皿目はカボチャの種でつくったアイスを餅で包んだもの。米麹を発酵させたものや木の実のローストなども入っていて、昔食べたことのある酸っぱいわらび餅のよう。

  • 『トウヒとさるなし』~豆乳、トウヒとさるなし~

  • 『餅』~かぼちゃの種と黒麦麹~

    デザートはライトを落としたこちらの席で・・・

 そういえばシェフのトーマスさんは、ロッククライミングを趣味とする自然愛好家。師であるレネ・レゼピさんから学んだことで一番重要だったことは、自然への理解の深まりだと語ります。
 このディナーは、彼の案内で、森や浜辺を歩き、お花畑で憩い、またゆっくりと自然のなかを散策する旅でした。食を通じての自然への共感、理解、そしてその先にある先住民の叡智や神話へのオマージュという面もじわじわ感じてくるのでした。
 懐かしい未来― 最後にそんな言葉が頭を過りました。

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この記事を作った人

小西克博/ヒトサラ編集長

北極から南極まで世界を旅してきた編集者、紀行作家。

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