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更新日:2018.03.29食トレンド

「アジアのベストレストラン 2018」華やかさと熱気に触れた、マカオの夜~ヒトサラ編集長の編集後記 第24回

2018年3月27日夜、マカオのウィン・パレスでサンペレグリノとアクアパンナがスポンサーを務める「アジアのベストレストラン50」の授賞式が行われました。今年は日本のレストラン11店がトップ50入りを果たすなど大躍進。現地へ飛び、その熱気を体感したヒトサラ編集長・小西克博がレポートします。

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 2018年版「アジアのベストレストラン50」の発表が終わりました。これは英国ウィリアム・リード社が運営する「世界のベストレストラン50」のアジア版。若いシェフを中心にいま世界で最も注目されているレストラン・アワードです。

 今回はアジアのベストレストラン50店の中に、日本のレストランが11店も入るという快進撃。さっきまで私はセレモニー会場のあるマカオのウィンパレス・ホテルにいてその華やかさに驚き、未だ熱気冷めやらぬまま部屋に戻り、これを書き始めています。

 1位こそ【ガガン】(バンコク・インド料理)が4年連続で選ばれたものの、日本の【傅】(東京・日本料理)と【フロリレージュ】(東京・フレンチ)がそれぞれ2位と3位に輝き、オリンピックで言えば、「祝・銀銅メダル獲得」といった感じ。
 この賞の牽引役【NARISAWA】(東京・フレンチ)は6位でしたが、成澤シェフには「シェフズ・チョイス賞」が授与されました。そしてここもまた世界的に名声を獲得している感のある【龍吟】(東京・日本料理)が9位。これでベスト10に4つの日本のレストランが入ったことになります。

 シェフたちの日頃苦労している姿を見ているだけに、男泣きする【フロリレージュ】の川手シェフや、今回17位に初ランクインした【ラシーム】高田シェフの後ろ姿には正直胸を打たれました。2位にランクインした【傳】長谷川シェフの自己韜晦的な、かぶりものパフォーマンスにも、静かな感動を覚えました。
 
 その他、20位には【レフェルヴェソンス】(東京・フレンチ)、27位【鮨さいとう】(東京・寿司)、28位【イル・リストランテ・ルカ・ファンティン】(東京・イタリアン)、34位【HAJIME】(大阪・フレンチ)、38位【カンテサンス】(東京・フレンチ)、48位【ラ・メゾン・ドゥ・ラ・ナチュール・ゴウ】(福岡・フレンチ)と、日本のレストランのための賞なのかと言わんばかりのラインナップです。

    4年連続でNo.1の座を保持した【ガガン】ガガン・アナンドシェフ

    4年連続でNo.1の座を保持した【ガガン】ガガン・アナンドシェフ

    2017年の11位から2位へ躍進、【傅】長谷川在佑シェフ

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    昨年の14位から3位と大幅に順位を上げた【フロリレージュ】川手寛康シェフ

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    大阪【ラシーム】は初登場で17位、「初登場最高位賞」を受賞した高田裕介シェフ

    大阪【ラシーム】は初登場で17位、「初登場最高位賞」を受賞した高田裕介シェフ

 ランキング以外においても、「日本」というキーワードが、裏に表に散りばめられています。
 例えば、16位【Ta Vie】(香港・フレンチ)佐藤シェフは日本人ですし、41位【Ronin】は香港の日本料理店です。45位のコロンボのお店は店名が【Nihonbashi】、49位のムンバイのお店は【Wasabi By Morimoto】。
 もっと詳しく見れば全部のお店に何かしら日本的なるものが入り込んでいることでしょう。

 ランキングだけを見ると、これはどうか? という声も聞こえて来ますが、ランキングというのは、ショーを引き立てる見せ方のひとつの要素にすぎず、この賞の本質は違うところにあるような気がします。
 現段階で見えてくるもの、それはいいも悪いも、いまのトレンドみたいなものでしょうか。
 何かはっきりした基準があって、それを遵守する審査員がいてといった旧来のモノサシでは測れない、でも勢いがあってみんながどこかイケてると感じている何か。ファッションにも通じるような時代性を私はここに見ることができると思います。

 なので、選ぶ人のセンスがこの賞の未来を左右します。
 6つのリージョンに分けられたアジアでは、それぞれにチェアマンがいて、彼らが選考委員を決め、現場優先(必ず1年以内に食べたことのある店を選ぶ)、秘密遵守(自分が選考委員だと他言しない)等の厳しい条件を彼らに課しています。そして選考委員の何人かは毎年変わるのだそうです。
 日本リージョンのチェアマンをつとめるコラムニストの中村孝則さんは言います。
「この賞の特徴は、評価が味だけじゃないということです。多様性を大事にしますし、楽しさも重要な要素です。シェフ間の戦略的コラボレーションも行われていますが、ここではお互いの地域性を学べるし、テクニックやお客様を“シェア”できると言った具体的メリットもある。女性シェフを応援したいという気持ちも強いですし、やはり全体に年齢が若いです」。今回は最優秀女性シェフにバンコク【ペースト】のサトンガンシェフが選ばれ、日本から【志摩観光ホテル】の樋口シェフが、プレゼンテーションを行いました。

    31位に入賞し「エリート®ウォッカ 最優秀女性シェフ賞」を受賞した、【ペースト】ボンコック・“ビー”・サトンガンシェフ

    31位に入賞し「エリート®ウォッカ 最優秀女性シェフ賞」を受賞した、【ペースト】ボンコック・“ビー”・サトンガンシェフ

    女性シェフとしては初めてゲストスピーカーとして招待された【志摩観光ホテル】総料理長、樋口宏江シェフ

    女性シェフとしては初めてゲストスピーカーとして招待された【志摩観光ホテル】総料理長、樋口宏江シェフ

 受賞式前後のパーティで話したシェフたちの反応はさまざまでしたが、さすが世界の舞台に立つ人たちだけあって、喜びの中にも実にクールに現状を見ているなという印象でした。

【HAJIME】米田シェフは、もっと上位にランクづけされたいとの思いを隠すことなく、でも自分はクオリティ重視で世界発信を続けるというスタンスでしたし、【フロリレージュ】川手シェフは、順位以上に、努力の継続が認められる喜びと料理人でいられることの喜びを語っていました。

 従業員をサステナブルな環境で働かせることに人一倍心を配って来た生江シェフの【レフェルヴェソンス】に、「アジアのサステナブル・レストラン賞」が授与されたこともこの賞ならではかと思います。

 名誉賞とも言える「シェフズ・チョイス賞」に輝いた【NARISAWA】の成澤シェフは言います。「常に動いてること、そのことがこの賞らしい。これだけ毎年新しい店が現れ、順位も変わることにエネルギーを感じます。勇気をもらえます」。成澤シェフはまた、日本が多く選ばれているのはそれだけ選考委員が日本に食べに来ていることだと分析し、食材もさることながら日本には先生がいっぱいいてその価値をしっかり認識すべきだと繰り返します。

【ガガン】のアナンドシェフも実は同じことを言ってました。いや、今回「ライフタイム・アチーブメント賞(特別功労賞)」を受けた、いまやレジェンドになった感のあるアンドレ・チャンシェフも、アイデンティティを語るなか自分の足元の重要性を説いていました。

    昨年同様、34位と順位を維持。大阪【HAJIME】の米田肇シェフ

    昨年同様、34位と順位を維持。大阪【HAJIME】の米田肇シェフ

    「アジアのサステナブル・レストラン賞」を受賞、【レフェルヴェソンス】生江史伸シェフ

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    5年連続で日本の首位を保持してきた【NARISAWA】の成澤由浩シェフ

    5年連続で日本の首位を保持してきた【NARISAWA】の成澤由浩シェフ

    「ダイナースクラブ®ライフタイムアチーブメント賞(特別功労賞)」を受賞したアンドレ・チャンシェフ

    「ダイナースクラブ®ライフタイムアチーブメント賞(特別功労賞)」を受賞したアンドレ・チャンシェフ

 ガガンに負けた、と笑いながら【傳】の長谷川シェフがやって来て言いました。
「僕が2位に終わったのは、そうですね、やはりまだガガンのほうが僕より多くのお客様を喜ばせたからなんだと思います」

 当たり前のことですが、お客様をどれくらい楽しませたのか、これは昔も今も、サービスの基本には違いありません。客商売であるレストランの基本。昔からあるそんな基本を現代風に再構築する。それがいまのトレンドなら、このトレンドは別に奇妙なトレンドではなく、むしろ基本に忠実なことを多様に表現しているのかなとも思えてきたのです。(2018.3.28)

料理人を目指す人々へ―

ガガン・アナンド氏、アンドレ・チャン氏からメッセージをいただきました。

ガガン・アナンド氏

アンドレ・チャン氏

以下、2018年「アジアのベストレストラン50」の順位は以下の通り。

1位【ガガン】バンコク・タイ
2位【傅】東京・日本
3位【フロリレージュ】東京・日本
4位【ズーリング】バンコク・タイ
5位【オデット】シンガポール・シンガポール
6位【NARISAWA】東京・日本
7位【アンバー】香港・中国
8位【ウルトラバイオレット・バイ・ポール・ペレ】上海・中国
9位【日本料理 龍吟】東京・日本
10位【ナーム】バンコク・タイ
11位【ミングルス】ソウル・韓国
12位【バーント・エンズ】シンガポール・シンガポール
13位【8 1/2 オット・エ・メッツォ・ボンバーナ】香港・中国
14位【ル・ドゥ】バンコク・タイ
15位【ロウ】台北・台湾
16位【タビ】香港・中国
17位【ラシーム】大阪・日本
18位【ムメ】台北・台湾
19位【インディアン・アクセント】ニューデリー・インド
20位【レフェルヴェソンス】東京・日本
21位【ロカフォーレ】バリ・インドネシア
22位【大班樓(ザ・チェアマン)】香港・中国
23位【ワク・ギン】シンガポール・シンガポール
24位【龍景軒(ロン キン ヒン)】香港・中国
25位【ミニストリー・オブ・クラブ】コロンボ・スリランカ
26位【ジョンシク】ソウル・韓国
27位【鮨さいとう】東京・日本
28位【イル・リストランテ ルカ・ファンティン】東京・日本
29位【レザミ】シンガポール・シンガポール
30位【福和慧(フー・フア・フエイ)】上海・中国
31位【ペースト】バンコク・タイ
32位【ネイバーフッド】香港・中国
33位【イート・ミー】バンコク・タイ
34位【Hajime】大阪・日本
35位【ジェード・ドラゴン】マカオ・中国
36位【コーナー・ハウス】シンガポール・シンガポール
37位【ボラン】バンコク・タイ
38位【カンテサンス】東京・日本
39位【イッサヤ・サイアミーズ・クラブ】バンコク・タイ
40位【ベロン】香港・中国
41位【ローニン】香港・中国
42位【トク・トク】ソウル・韓国
43位【ザ・ダイニングルーム・アット・ザ・ハウス・オン・サトーン】バンコク・タイ
44位【ジャーン】シンガポール・シンガポール
45位【日本橋】コロンボ・スリランカ
46位【カプリス】香港・中国
47位【祥雲龍吟】台北・台湾
48位【ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ】福岡・日本
49位【ワサビ・バイ・モリモト】ムンバイ・インド
50位【ホワイトグラス】シンガポール・シンガポール

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この記事を作った人

取材・文/小西克博(ヒトサラ編集長)

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