絶品イタリア料理にチーズ工房も! 住宅地に佇む【セルヴァジーナ】は噂通りの名店だった
駒込にある【オステリア・セルヴァジーナ】は東京でもかなり特殊なイタリア料理店だ。オーナーシェフの高桑靖之は南イタリアのプーリア料理を標榜しているが、どっぷりと伝統的なプーリア料理のみのレストラン、というわけではない。むしろ楽しみはプーリア料理以外の部分にもあるのかもしれない。「セルヴァジーナ」とはフランス語でジビエ、イタリア語では野禽という意味。事実高桑シェフは自ら猟銃を持って鳥を撃ち、山に分け入っては野草を採って料理に使うと野生的な料理人。その大胆かつ、野性味溢れるコース料理を是非一度体験してみてほしい。
日本の野趣をイタリア料理店【オステリア・セルヴァジーナ】で味わう
【オステリア・セルヴァジーナ】は駒込駅の近くにあるのだが、地元か、あるいはなにか特別な用でもなければ駒込駅を訪れることは普通そうそうないだろう。【オステリア・セルヴァジーナ】そんな駒込において異彩を放つ、知る人ぞ知る孤高の名店、そんなイメージだ。高桑靖之シェフは遅咲きの料理人だが、イタリア料理を志してから南イタリア、プーリアの名店【チブス】などで修行、自然と共生する南イタリアの料理感を日本に持ち帰って自分のフィルターを通して展開する貴重な料理人のひとりだ。
住宅街にある【オステリア・セルヴァジーナ】は現在チーズ工房「カゼイフィーチョ」も併設して営業中
そもそも「セルヴァジーナ」とはフランス語でいうジビエ=野禽という名が示す通り、高桑シェフは自ら猟銃を持って野に分け入って鳥を撃ち、川を遡って山菜やキノコをとり、自ら調理して提供するという実にアクティブなスタイルを標榜している。時には深夜に東京を出て山に入り、山菜を山ほど手に入れてはトンボ帰りしてそのまま夜の営業、ということもあるそうだ。そんなシェフ自らが撃った鳥や、採ってきた山菜を使った料理が味わえると聞いて心惹かれない人はいないだろう。
先日訪れた【オステリア・セルヴァジーナ】は長い冬が終わり、プーリアに訪れた春を祝う、そんな料理の連続だった。
大胆かつ、野性味溢れるコース料理
高桑シェフ自らが作る牛乳のフレッシュチーズ「ジュンカータ」優しい味わいとほろ苦いオリーブオイルの組み合わせ
最初に登場したのは高桑シェフが自ら作ったプーリア風牛乳のフレッシュチーズ「ジュンカータ」。高桑シェフは昨年のコロナ禍を機にレストランを改装、チーズ工房を併設し手作りチーズの製造と販売まで始めた。またしても寝る時間がなくなるのに!と思わざるをえないが、このフレッシュチーズたるや冷たくキリッと冷えて実に滑らかな舌ざわり。おだやかでミルキーな味わいで、これに野趣あふれるプーリアのオリーブオイルとケイパーの花の塩漬けがいいアクセントとなる。これにあわせるのは同じくプーリアのノンフィルター自然派スパークリング。期待はさらに高まる。
旬のサワラを柿酢でマリネ、皮目を炙って香ばしさをプラス。そしてトッピングは高桑シェフ自ら山で摘んできた野草の数々
冷たい前菜はサワラのマリネ。柿酢のマイルドかつナチュラルな酸味が、皮目を炙ったサワラの香ばしさとよくマッチしているが、この料理の主役はさまざまな野草たち。クレソン、セリ、ヤブカンゾウ、全て高桑シェフが荒川上流の山奥で摘んできたものだ。苦味、辛味、香ばしさ、力強さ、山の生命そのものを口にしているような味わいは市販の野菜では味わえない。
茶巾包のようなフレッシュチーズ「ブッラータ」は中に濃厚な生クリームが忍ばせてある、プーリアが本番のフレッシュチーズ
もうひとつの手作りチーズは牛乳のフレッシュチーズに生クリームを詰めたブッラータ。濃厚すぎないチーズの味わいにまたしても香り高いオリーブオイルと甘さも酸味も兼ね備えたミニトマト。素材が命の南イタリア料理とは、よく耳にする言葉だがこうして目の前にすると素材から来る力強さがひしひしと伝わって来るのだ。
これも高桑シェフが摘んできたつくしをたっぷりと使ったイタリア風オムレツ「フリッタータ」ほろ苦さが絶妙
今度は温かい前菜で、つくしを使ったイタリア風オムレツ「フリッタータ」。つくしはもちろん高桑シェフが山から採取してきたフレッシュそのもの。これを軽くソテーして卵は半熟のふわふわ、とろとろ。余熱でほんのり日がとった生タイプのパンチェッタの塩味がちょうどいい塩梅。こんなに美味しいつくし料理(しかもイタリアン)にはなかなか出会えない。
ポタージュスープを思わせるような優しいテクスチャーの「新玉ねぎのスープ」トッピングの鴨胸肉のハムは、高桑シェフ自らがしとめてさばき、ハムにした自家製
もうひとつの温かい前菜が新玉ねぎのスープで、鴨ハムとふきのとう諸葛菜の花。玉ねぎはあまくてみずみずしく、高桑シェフの母上が飽きたから送ってくれたフキノトウはほろ苦くて切ない。そして鴨は高桑シェフ自らが仕留め、さばいて胸肉を熟成させてハムにしたもの。豊満な熟成香が醸し出す豊かな旨味。これもまた極上の一皿。
あさりのスープをたっぷりと吸い込んだ手打ちパスタ「トロッコリ」。素朴な器もプーリアのトラットリアで見かけるタイプ
ここまではいわば春の食材をふんだんに使った高桑料理、という感じだがパスタは一転してトラディショナルなプーリア料理。太めのうどんを重合わせる手打ちパスタ、トロッコリに大粒でジューシー、こぼれ出しそうな旨味のアサリをあわせる。アサリから出たスープを手打ちパスタがすっかりと吸い込み、イタリアンパセリがいいアクセントに。
メインは子羊のローストと自家製のプーリア風サルシッチャ「ニュンマレッディ」赤ワインがほしくなる肉と、のびるやアザミの葉のつけあわせ
最後のメイン料理もプーリア感満載で、後半戦は高桑シェフもプーリア度のギアを一気に上げてきた感がある。子羊のローストを自家製のプーリア風サルシッチャ「ニュンマレッディ」。プーリアの中部、チステルニーノやマルティーナ・フランカといった街では肉屋が惣菜を料理して食べさせてくれる「フォルネッロ」という営業形態が人気。手作りのサルシッチャやポルペッティーネを食べ、羊や豚、牛、あるいは馬を焼いてもらって食べるのがこれが実にリーズナブルで美味しいのだ。高桑シェフのニュンマレッディはこのフォルネッロの料理をイメージしたもの。豚の正肉の他にレバー、肺、腎臓などを入れて網脂で包んであり、味わいはかなりワイルド。
これは赤ワインが欲しくなると思っていたら、軽快でエレガントなプーリア固有品種ネロ・ディ・トロイアが出た。もうひとつの子羊はとても柔らかく、まだ汚れが一切ない実にピュアな味わい。これだけ硬軟強弱取り揃えたメニュー構成であるのに、その主題は一貫して春のプーリア、実に素晴らしい2時間だった。
高桑シェフの手作りは料理や食材にとどまらず、食後酒やハーブティ、その上なんとテーブルも手作り。手作りならでは落ち着く空気が店内に満ちている
ナポリ、あるいはシチリア、ローマ、ヴェネツィアなどに比べるとプーリア料理というのは一般的にはさほど日本では馴染みがない。しかしプーリアはイタリアを代表する野菜の大生産地であり、オリーブオイルとワイン、そしてパンやパスタに使われる硬質小麦の生産量でもイタリア屈指を誇る食材王国なのだ。そうした豊富な食材を極力シンプルな調理法で食べるというのは、日本人の食習慣にも実によくあっていると思う。
しかも「これがプーリア料理です!」というようなことは決してない、高桑シェフ独特の抜け感がまた居心地をとても良いものにしてくれるのだ。いまの季節は山の恵みである山菜中心で、夏は伝統的なプーリア料理、秋にはキノコや狩猟肉が登場するというから一年を通して季節が移ろいゆくが如く、その料理も姿形を変えて登場するのがまた楽しみだ。住宅地に佇む「セルヴァジーナ」はやはり噂通りの名店であった。
この記事を作った人
TEXT:池田匡克
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MEN'S Precious編集部
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記事元:MEN'S Precious
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