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更新日:2021.12.05グルメラボ

料理人人生62年、【赤坂璃宮】譚 彦彬シェフが辿り着いた広東料理の真髄とは

日本を代表する中国料理人の一人、譚彦彬シェフが【赤坂璃宮】をオープンしたのは今から25年前の53歳の時。今年で25年という節目に、自身の集大成となる『広東名菜 赤坂璃宮 譚彦彬の味』を出版。戦中に生まれ、日中国交正常化前の戦後復興期に青春時代を送り、高度経済成長期、バブル絶頂期、リーマンショック、震災、コロナ禍と激動の時代を料理人として生きてきました。そんな譚さんがあらためて思う“広東料理”とは。お店の人気料理のレシピも含めてご紹介します。

料理人人生62年、【赤坂璃宮】譚 彦彬シェフが辿り着いた広東料理の真髄とは

広東料理の真髄、それは受け継がれてきた調理技術

16歳のときに、料理人の道に入り、以来62年広東料理一筋の譚彦彬シェフ。戦時中に生まれ、戦後復興期、バブル景気、リーマンショック、コロナ禍と、激動の時代を料理人として生きてきました。
【赤坂璃宮】をつくり、25年という節目を迎えた今、ずっと変わらないのは、「本場に負けない広東料理をつくりたい」という思いだと振り返ります。


「オープン当時は、本場そのものの料理を出しても、お客様に受け入れていただけないこともありました。そこで、日本人の方にも喜んでもらえるように、四季折々の日本食材を取り入れ、自分なりに”うまい”と思う食材を組み合わせて、創意工夫を重ねてオリジナルの料理もたくさん作りました。そうした料理を、”これは、広東料理じゃないよ”って言う人もいたけれど、私は、こうした料理も正真正銘の広東料理だと胸を張れます。

そもそも、料理というものは日々進化するもの。どんなジャンルでもその時代のシェフたちが創意工夫を凝らして積み上げて作られていくものですから」と話してくれました。

    【赤坂璃宮 銀座店】店内

    【赤坂璃宮 銀座店】店内

広東料理とは何か。その質問を自分なりに突き詰め、辿り着いた答えは、広東料理独特の調理技法にその真髄があるということでした。日本の食材を使ったり、組み合わせる食材や調味料は独自で編み出したものだけれど、基本の調理技法は頑なに守る。それが譚流なのです。

「大きな鍋で一気に香りをたたせて炒めたり、蒸しあげたり、乾貨を伝統的な手法で戻して味を出したりという独自の技法があります。味の要となるスープなども本場同様に手間をかけてつくります。そうした広東料理の基本は崩しません」

ここで少し、広東料理の調理技術の幅広さをご紹介しましょう。

まず、はずせないのが「炒(チャオ)」。読んで字のごとく炒め物ですが、炒を制すれば一人前。そう言われるほど、最も重きを置かれる技術です。しかも、この「炒」も一筋縄ではいかないのです。「油泡」「清炒」「炒」「煎」「爆」など、炎の扱い方、炒め方が違う技術が多数存在。一瞬の火の入り具合の見極め方を会得するのはなかなか難しいといいます。

    『広東名菜 赤坂璃宮 譚彦彬の味』より。ハタの炒め物は「油泡」で

    『広東名菜 赤坂璃宮 譚彦彬の味』より。ハタの炒め物は「油泡」で

「油泡」は、副菜などは加えず主となる食材のみ優しく炒める手法。「清炒」は野菜や魚介などをシンプルに塩で炒めること。さらに「煎」は、少量の油で食材の両面を炒り焼きにすることを言い、太刀魚などの魚、牛肉など厚みのある食材を焼く際に用いることが多い技法です。

広東料理の味のベースとなるスープ「湯」も、「頂湯」「上湯」「二湯」「例湯」と、実にさまざまな種類があります。「頂湯」は、広東料理でも最上級のスープのこと。あらかじめとっておいた上湯に、豚肉と丸鶏、金華ハムを加え、6時間蒸籠で蒸した黄金のスープです。一方、「二湯」は上湯をとった残りのガラに、豚スネ肉、丸鶏などを加えて6時間ほど炊いた、炒め物からカジュアルなスープにまで幅広く使う万能調味料的なスープ。「例湯」は、食材を水から煮込み、その食材の旨みと味わいでスープにするレストランの日替わりスープを指します。

また、スープは、広東料理の華である乾貨を代表するフカヒレなどにも使われます。戻したフカヒレにじっくりと時間をかけてスープの旨み吸わせて味を凝縮した味わいは、広東料理ならではの美味です。

    『広東名菜 赤坂璃宮 譚彦彬の味』より、『フカヒレの煮込み』。黄金色に輝く太い繊維質の魚翅を麺の如く味わうのが、広東料理ならでは

    『広東名菜 赤坂璃宮 譚彦彬の味』より、『フカヒレの煮込み』。黄金色に輝く太い繊維質の魚翅を麺の如く味わうのが、広東料理ならでは

ほかにも、「蒸(蒸す)」「炸(揚げる)」「白灼(湯引き)」「拌(和え物)」など、さまざまな調理法がありますが、それは、『広東名菜 赤坂璃宮 譚彦彬』をぜひご覧ください。中国料理の技法の幅広さに触れられると共に、それぞれの調理法にプロならではの丁寧な下拵えと、それぞれの調理のコツ・技法がレシピとして掲載されています。

さて、最後に譚さんが、特別に家庭でも比較的に簡単にできる炒め物1品を本から紹介してくれました。この、『豚バラ肉とネギ生姜の炒め物』は「爆」と呼ばれる炒め方で調理します。「爆」は、強火で瞬時に炒める調理法のこと。素材の食感や持ち味を損なわぬよう、強火でスピーディに炒めてください。
そして、炒める前の下味をつける行程など、手順を省かずに、丁寧につくることが、プロの味に近づく秘訣です。

赤坂璃宮人気の一品!
『豚バラ肉とネギ生姜の炒め物』

    『豚バラ肉とネギ生姜の炒め物』。家で作る場合は、何度も挑戦して、炒め方を研究してみよう

    『豚バラ肉とネギ生姜の炒め物』。家で作る場合は、何度も挑戦して、炒め方を研究してみよう

材料

材料(3人分)
豚バラ肉(3cmの短冊切り) 250g
しょうがスライス   6枚
長ネギ(3cm 幅に切る) 12切れ

 [豚肉の下味用A]
 溶き卵  大さじ1
 醤油  小さじ1
 胡椒 少々
 片栗粉 少々
 ピーナッツ油 大さじ2

 [合わせ調味料B]
 二湯(なければ水)大さじ1
 醤油 大さじ1/2
 砂糖 小さじ1/3
 コショウ 少々
 片栗粉 少々

ピーナッツ油 大さじ2
塩漬け生胡椒 小さじ1
紹興酒  大さじ1
ゴマ油   小さじ1

作り方

1. 豚バラ肉はボウルに入れ、A のピーナッツ油以外の材料を加えてもみ込み、下味をつける。次にA のピーナッツ油を回し入れてさらに混ぜる。

2. 180℃に熱した揚げ油で、ショウガをさっと揚げる。続けて1 も、八分通り火が入るように油通しする。ザルにあけ、余分な油を切る。

3. B をよく混ぜておく。

4. よく熱した鍋にピーナッツ油を入れ、長ネギを焼く。色づいたら2 のショウガと塩漬け生胡椒を炒めて香りをたたせ、2 の豚バラ肉を加える。

5. 紹興酒を入れてさっと炒め合わせ、3 を加えて炒め、仕上げにゴマ油を振り入れる。

『広東名菜 赤坂璃宮 譚彦彬の味』詳細

  • 料理人人生60年を超えてもなお、進化し続けている譚彦彬氏、集大成の一冊。譚氏は広東料理の第一人者であり、数々の名作料理を生み出してきました。氏が総料理長を務める「赤坂璃宮」は今年10月、25周年を迎え、それを記念する本書では、半生を振り返る自伝を掲載。調理技法別に構成され、美しく迫力ある料理写真とともに料理レシピ85品を掲載しています。

    『広東名菜 赤坂璃宮 譚彦彬の味』
    6,930円/世界文化社刊

この記事を作った人

写真/久間昌史 取材・文/山路美佐

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