三つ星レストランのスーシェフが独立! お魚愛に溢れたフレンチ|表参道【NeMo】
【カンテサンス】で5年スーシェフを務めていた根本憲一さんが独立。【ベージュ・アランデュカス東京】からヘッドソムリエを迎え、青山に【NeMo(ネモ)】をオープン。どんなお店かと伺えば、そこはナチュラルで柔らかな空気が流れているレストランでした。スペシャリテは魚愛に溢れた根本シェフがつくる魚料理。目の前で焼きあげるピタパン、パンなど、リラックスしながらもライブ感溢れるフランス料理がいただけます。
名店出身のシェフが巻き起す、ガストロノミーの新風
幼い頃の食の思い出ーその潜在的な美味しさの記憶に導かれるようにして、料理の世界にのめり込んでいった1人の料理人がいる。海と山、伊豆下田の大自然に触れながら育った彼は、釣り好きだった祖父の影響で幼稚園から釣りを覚え、小学校に通う頃には既に船に乗っていた筋金入りの太公望。
「自分で釣った魚を料理するのが大好き」と語るその目はキラキラと輝き、まるで少年のようなあどけなさ。そう、おそらくフランス料理界一の魚フェチにして魚愛に満ちたシェフ、それがここ【ネモ】の根本憲一さん。5年間に及ぶ【カンテサンス】での修業時代、魚に関してはあの岸田周三シェフも一目置いていた実力の持ち主だ。
南青山の住宅街にひっそりとオープン。ビルの半地下というシチュエーションも、どこかお忍び感を誘う。だが、店内は予想に反して明るく、リゾート地のカフェのような気さくな雰囲気。
そのモダンフレンチレストラン【ネモ】が、表参道の外れにひっそりとオープンしたのは今年の6月18日。駅から徒歩10分余りという決して便利とは言えない立地ながら、既に、ランチは連日ほぼ満席の盛況ぶり。「先輩達から、最初の2~3ヶ月は暇だよと聞いていたので、ちょっと驚いています」と、嬉しい悲鳴をあげる根本シェフは、今年37歳。
パリで1年半ほど研鑽を積んだ後、修業の仕あげに【カンテサンス】を選んだ根本シェフだが、最初の修業先は早川から青山に移転して間もない【レ クレアション ド ナリサワ】(【NARISAWA】)。2004年、根本シェフ20歳の時のことだ。「それはもう半端じゃない過酷さでした。でも、そんな中でも成澤由治シェフの言動には愛が感じられて、3年間頑張れました。最初に厳しく鍛えられたおかげで、後の仕事場は、比較的楽でしたね。」日本を代表する二つのグランメゾンでみっちりと学んだ経験を、ここでは自らのテイストを通して表現しようと考えている。
ディナーでもあえてクロスは引かず、木肌の温もりを生かしたテーブルは、初めて訪れる緊張感を解きほぐしてくれる。奥は個室もあり、子供連れもOKだ。
ホワイトウォークの扉を開ければ、サンドグレイの壁に包まれた店内は、木をふんだんにあしらったナチュラルな空間。敢えてクロスを引かずに無垢な木の風合いを生かしたテーブルは、素肌感覚の心地良さを感じさせる。それも、根本シェフの「リラックスして食事を楽しんで欲しい」との思いゆえだろう。
気取りのない店内は、どこか友人宅を訪れたかのような寛ぎ感でいっぱいだ。とはいえ、サービスを担当するマネージャー兼シェフソムリエの寺島唯斗さんは、あの【べージュ・アランデュカス】出身。シェフとソムリエ、共にグランメゾン出身の2人がタッグを組んで始めた店だけに、カジュアルな趣の中にもさりげない上質感と折り目正しさが漂う。ハレの日のレストランとしての昂揚感も充分だ。
釣り魚が大好きなオーナーシェフの根本憲一さん。一級船舶の免許を持ち、自ら船の操縦もできるそう。主な釣り場は、伊豆下田沖から神津島にかけて。
料理は、前菜からデザート3品を含む全10品のコース16,500円(税込)のみ。そのうち、メインの肉と『ネモケバブ』を除く5品が魚介というメニュー構成からも、根本シェフの魚に対する思い入れの深さが伺われよう。
中でも、愛着のある魚の一つが伊豆下田から直送の“ウメイロ”。イサキに似たスズキ目フエダイ科の魚で、別名オキタカベ。市場にはめったに出回ることのない高級魚だ。旬は春から夏と言われているが、「年間を通して味は落ちません。クセのない白身魚で、脂ののりも程よく上品な旨味のある魚です。」とは根本シェフ。聞けば、魚は市場を通さず、釣りに行く際、一緒に乗船したことのある知り合いの漁師から直接送ってもらっているそうで、なんと漁港直送ならぬ漁師直送!質と鮮度の良さは推して知るべしだろう。
きちんと血を抜いた後は、素早く氷〆にし、冷やして届けてもらっているそうで、釣り上げてから厨房に届くまでできるだけ人の手が触れることを避けるなど魚への負荷を軽減する努力を惜しまない。もちろん、火入れにも一家言を持つ。
穴子のフリット。対馬産の肉厚の穴子を、マカデミアナッツ入りの衣をつけて揚げた後、ローストしたマカデミアナッツを擦りかけている。芳ばしいナッツの香りが鼻腔をくすぐる中、サクっと軽やかな衣とふわふわの穴子との食感のコントラストに思わず笑みが溢れる。
根本シェフによれば、焼き始める時のフライパンの温度が大切、と力説する。曰く「ウメイロのようにあまり身の厚くない魚はフライパンをある程度熱してから焼き始め、アラやクエのように身が厚めの魚は、、フライパンが常温の状態からゆっくりと火を入れてながら焼く」のだとか。
また、魚の身質によっても微妙に焼き加減を調節。皮めをしっかり八〜九分目まで焼き、身の方に返したら軽く温める程度に焼くという焼き方は定石通りだが、同じレア加減でも筋肉質の魚はしっかりめ火を入れるのが根本流。
「同じ白身魚でも、このウメイロや鯛などは、中心がギリギリ生に仕上がるよう火を入れますが、食べた時にもちっとする筋肉質の魚はしっかりと火を入れる。それでも不思議にレアな食感になるんです。反対に、本当にレアに仕上げるとテクスチャーが悪い」とは根本シェフ。こうした食材への細やかな洞察力、食材を見極める力は岸田シェフから修得したものなのだろう。
梅色のポワレ。皮はパリッ、身は中心部分をややレア気味にしっとりと焼きあげている。魚の出汁をベースに揚げたエシャロットやブールノワゼット、トマトコンフィなどを合わせたソースを添えてある。付け合わせの野菜もエシャロット。
一方、成澤シェフから学んだのは「お客様を楽しませる心」。客の前でのパフォーマンスがその一つで、ここでは焼きたてのパンをワゴンで客席まで運び、湯気が立っていそうなほどアツアツを目の前でカットする。ナイフを入れた瞬間のサクッという快音には、小さな歓声があがりそうだ。
そして、更に場を盛り上げてくれるのが、コースの中盤に登場する『ネモケバブ』。ドネルケバブのアレンジ版で、こちらもワゴンで登場。しかも、ピタパンを客の目前で焼き上げるサプライズ付き。その場で自家製鴨ハムを挟み、手でどうぞ、というサービスは、新しいスタイルのゲリドンサービス?とも言えそうだ。
ケバブの中身は、自家製鴨ハムとレタス、きゅうりなどの野菜数種。ミックススパイス入りのオリジナルソースが食欲をそそる。コース内容はその時々で多少変わるため、『ネモケバブ』を必ず食べたい方は、予約の際に一言どうぞ。
繊細な根本シェフの料理に合わせ、ワインは、ナチュールからグランヴァンまで幅広い品揃え。フランスワインに固執することなく、各国のワインを取り揃えて行く予定だそう。ちなみにペアリングは、11,000円~。グラスワインも豊富に揃う。グランメゾンのクォリティを、ラフに楽しめる等身大のファインダイニングと言えそうだ。
ソムリエの寺島さんが料理に合わせたペアリングのワイン6種。「シェフの料理は繊細なので、主張しすぎることのない、五味とフレーバーのバランスが取れたワインを選んでいます。」とのこと。グラスワインは1,200円~。
撮影/岡本裕介 取材/森脇慶子
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