古典を再構築した新たな美味、TPOで使い分けできるサービスなど革新が詰まった次世代フレンチ|人形町【ars(アルス)】
古典、モダン、イノベーティブ、レストラン、ビストロなどさまざまな経験を積んだ髙木和也シェフ。2021年4月、料理もサービスもワインも既成概念に縛られることなく、いいとこ取りの画期的なお店をオープンさせました。どんな「いいこと」があるのでしょうか。
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カウンターはレストラン、テーブル席はビストロ
既視感のある料理ながら、想像を超える味わい
シェフの世界観、「心地よいちぐはぐ」を楽しむ
レストランとビストロが両立?! 常道を超えていく新世代シェフのお店へ
レストランであり、ビストロでもある画期的な新スタイル
縦長なお店で、一番奥がキッチン。「臨場感のあるカウンターがいいな」と勝手に座ってはいけません。【ars】には2つの顔があり、カウンター4席は完全予約制で11,500円(税込)のコース料理を提供するシェフズテーブル。でも、テーブル席はアラカルトで楽しめるビストロなのです。
カウンターはコース料理のみで要予約。テーブル席のアラカルト料理は500円〜
時にレストランとして利用することもできれば、普段の食事、あるいはちょっとつまみながらワインを飲みたいなとふらりと立ち寄ったり、気の置けない仲間とアラカルトで前菜やメイン数品を頼んでカジュアルに楽しんだり……。1つの空間の中に、レストランとビストロ、2つの顔を持つお店なのです。
今回は、特別感のあるカウンターのお料理を中心に紹介します。
丁寧な仕事と探究心で、クラシックとモダンが調和する個性的な皿へ昇華
オープンキッチンを目の前に、クリテイティブな料理を楽しめる完全予約制のカウンター席
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カウンターは9品11,500円のコースのみ、要予約
伝統と革新が共存するパイ包み焼き、フォアグラのお皿
多彩なワインで楽しむペアリング
厚みのある個性的な木のカウンターエリアは、紫とゴールドの菊花模様の壁紙も印象的。たった4席ということもあり、シェフズテーブルに招かれたような特別感があります。完全予約制のこの席では9品11,500円のコース料理のみを提供。オーナーシェフ・髙木和也さんの信念でもある、クラシックとモダンが調和するガストロノミーを、調理風景を見ながら臨場感たっぷりに堪能することができます。
『パイ包み焼き』
オマール海老のパイ包み焼き ビスクソース パイは芳ばしくサクサクの焼き上がり、フィリングはしっとり。絶妙な火加減で楽しませてくれます
「僕の料理の特徴は、まず既視感のあること。でも、食べると“あれ? 想像していたのとは違う”と感じてもらえるような食感や味わいにしています」と話す髙木シェフ。スペシャリテのパイ包み焼きは、パイはサクサク、中身はしっとりジューシーで食べた人を魅了します。「パイとフィリングの火入れ加減をジャストなタイミングで両立させるのが難しいんです」。確かに、パイが生焼けだったり、フィリングがパサついていたりするパイに遭遇したことが何度かある。
「フレンチ料理人の腕を試される一品。これを極めたいと思いました」と髙木シェフ
髙木シェフ自身も、レストランを食べ歩くなかで改めてパイ包み焼きの難しさを痛感。食べる人をがっかりさせないために修練を積まなければと、どんなに忙しいときでも火入れに失敗しない方法を編み出したそうです。そういった、探究心の強さもシェフの魅力であり、実力として確実に蓄積されているのです。
『フォアグラのテリーヌ』
フォアグラとパン・デピスのメレンゲ 菊芋のピュレとデコポン 脂っこいというフォアグラのイメージからは程遠く、軽やかな食感
フランスの出汁、フォンを引くのも決して手抜きをせず、一つ一つ丁寧に基礎を固めて、ブレない土台を作る髙木シェフ。その上で、教わってきたことを鵜呑みにするのではなく、なぜそうなのかを検証し、試行錯誤を重ねて新たな美味を再構築していくそうです。そんな中で生まれたもう一つのスペシャルテがフォアグラのテリーヌ。「【レフェルヴェソンス】や【ラ・フィネス】で働いていたとき、血抜きの仕方や火入れの温度、時間などシェフと一緒に実験的に色々試していました」と髙木シェフ。
パン・デピスに入っているシナモン、ナツメグ、クローブなどのスパイスを使い、薄い板状にしたメレンゲでデコレーション
修業時代の経験をもとに独自に編み出した「現段階ではこれがベスト」という火入れで、自信を持ってスペシャリテとして出しているフォアグラのテリーヌ。相性の良いパン・デピスは、「軽やかに味わっていただきたいから」とメレンゲに仕立てられています。
濃厚な味わいながらも驚くほどライトな食後感。「脂を酸化させないこと、これも胃もたれしない重要なポイントなんです」。見えないところまで徹頭徹尾の配慮と手間暇で食材のよいところだけを引き出してくる髙木シェフ。美味しさへの飽くなき探究心に頭が下がります。
『前菜3点盛』
コースの2皿目、カニクリームコロッケ・竹炭のチュイル・馬肉のタルタル
「既視感がありながら予想を裏切る味わいを目指している」というシェフの言葉がよくわかるのが前菜の3品。丸いコロッケは、「カニクリームです」と言われて口に入れると、クリームがとろーりではなく、ほぼカニ! 新玉ねぎのムースを竹炭でコーティングした葉巻のような一品は見た目もユニークで既視感というより独創的な一品ですが、馬肉のタルタルは、昆布締めにしている意外性、旨みに、生ではなく固めた卵黄を散らしたり、山椒の葉で日本の季節感をプラスするなど遊び心にあふれています。
髙木シェフが実際に飲んでおいしい、料理に合うと思ったワインたち
フランスを中心にしながらも、イタリア、スロベキア、ポーランドなど価格も味わいも多様なラインナップ
ワインは、カウンターのコース料理ならペアリング(基本は6種・6,600円、+1,900円でシャンパーニュ)がオススメです。既成概念にとらわれず、料理を作った髙木シェフ本人がセレクトするので、説明にも熱が入ります。フォアグラには日本酒、寺田本家の「醍醐のしずく」を合わせてくるあたり、お酒好きならきっと話が盛り上がるでしょう。
いろいろな要素が混在しながらも不思議にまとまりを見せる飽きのこないインテリア
インテリアも料理も、「心地よいちぐはぐ」をテーマにしているとのことで、確かにじっくり店内を見回してみると、椅子の色が違っていたり、洋と和が混在していたり、ビストロは大理石風のテーブル、カウンターは木などいろいろな要素がミックスしているけれど、一つの世界観ができあがっています。
料理も、流行りだけを追いかけるのではなく、古典を踏まえた丁寧な仕事を重ね、なおかつ、そこに現代的な視点、科学的な理論、現代の調理器具などを総動員。「いいとこ取り」の工夫で美味しさを進化させています。
既成概念にとらわれず、当たり前を超えて常にベストなものを追求、調和させて世界観を膨らませていく髙木シェフの今後の料理、活躍が楽しみでなりません。
シェフプロフィール:髙木 和也
1985年、千葉県生まれ。西麻布の【L'Effervescence】で部門シェフ、新橋の【Restaurant La FinS】でスーシェフなど、都内の星付きレストランで研鑽を積む。その後、渋谷の【Calie】と表参道の【L'Evol】で料理長を務めた。33歳からは独立のための店舗経営の勉強を兼ねて、レストランコンサルタントの会社で働き、30店舗以上の新店舗プロデュースに関わり、退社後も個人コンサルタントとして活躍。2021年4月、独立を果たす。
撮影/佐藤顕子 取材・文/藤田実子
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