心と身体をととのえる旅へ ~福井県ウェルネスツアー~
毎日、慌ただしい時間を過ごしている私たち。知らないうちに頑張りすぎて疲れている人も多いのではないでしょうか。今回訪れたのは福井県。観光はもちろん、日本海や里山など大自然育まれた食を楽しみながら心身をリフレッシュし、ウェルネス(健康)になる旅に出かけましょう。
食と歴史を通じて里山の自然を体感。
心を鎮めて参拝したい荘厳な「大本山永平寺」
福井県に行くなら見逃せない場所の一つが「大本山永平寺」。フランスで発行されている旅行ガイド「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」でも二つ星を獲得した、国内外から注目されるお寺です。
永平寺は、道元禅師(どうげんぜんじ)によって開かれた坐禅修行の道場。1246年に吉祥山永平寺と改められました。780年近く経った現在も永平寺の修行は禅宗の中で最も厳しいと言われ、約150名の修行僧たちが修行生活を送っています。
通常、一般の人は通ることができない「唐門」。樹齢500年と言われる大杉が連なる
永平寺は33万平方メートルの敷地に70を超えるお堂と楼閣があり、なかでも「山門」、「仏殿」、「僧堂」、「大庫院(だいくいん)」、「東司(とうす)」、「浴室」、「法堂(はっとう)」など修行に欠かせない7つの建物「七堂伽藍(しちどうがらん)」が回廊で結ばれています。
見どころはたくさんありますが、特に156畳もの広さを誇る大広間「傘松閣(さんしょうかく)」の天井は必見。昭和初期の有名な画家144人による230枚の日本画が埋め込まれており、圧巻の眺めです。
花鳥風月をあらわした日本画の中に鯉2枚、唐獅子2枚、栗鼠(りす)1枚の計5枚の絵が隠されている
回廊を歩いていると、通り抜ける気持ちの良い風を感じることができます。境内の木々は春夏は生命感あふれる濃い緑になり、秋は美しく色づき、冬は真っ白な雪景色になるなど、四季折々の景色が楽しめるのも魅力的です。
鳥のさえずりが聞こえる境内では思わず深呼吸したくなる
坂井市・竹田【la clarté】の
素材の魅力を引き出す薪オーブンを使った絶品料理
次に訪れたのは、坂井市丸岡町竹田地区にある【la clarté(ラクラルテ)】。地元で惜しまれつつも閉園となった保育所をリノベーションし、2017年に誕生したレストランです。オーナーの松下ひかりさんは元舞台照明のプロという異色の経歴の持ち主。2021年には「ミシュランガイド北陸 2021 特別版」でビブグルマンを獲得し、県内外から多くのお客さんが訪れています。
石積みの壁とバタフライ型の屋根が目を引く
店内に入ると広々としたオープンキッチンと、窓から光が差し込む開放的な空間が現れ、木のぬくもりを感じられます。こちらでいただけるのは、オーナーこだわりの薪火のオーブンを使った料理。肉料理はもちろん、パンやスイーツまで薪火を使って焼き上げ、食材の旨みを最大限に引き出します。
オープンキッチンの奥には料理の要となる2台の薪オーブンがある
300℃にまで達するという薪火を巧みに操り、繰り出される料理は、豪快でありながらもオーナーシェフ・松下さんの確かな技術と細やかなセンスが光ります。では、今回いただいた料理をいくつかご紹介しましょう。
甘エビとカラフルな野菜の組み合わせが目にも楽しい『三国産「ふくい甘エビ」のバーニャカウダ』
地元三国港で水揚げされた甘エビをメインに、とみつ金時や上庄さといも、カラフル人参など福井県産の野菜10種類が彩り豊かに並ぶ『三国産「ふくい甘エビ」のバーニャカウダ』。新鮮な甘エビの殻でだしを取り、濃厚なエキスをしっかりと抽出したソースをつけると、口のなかに甘エビの旨みがダイレクトに広がります。
【la clarté】のコース料理には必ず登場するボリューム満点のプラトー『けやきプレート』
そして、【la clarté】の名物料理がこちらの『けやきプレート』。地元のケヤキから切り出された分厚い一枚板のプレートに、自家製のソーセージに生ハム、牡蠣のオイル漬け、こんかさばのキッシュ、真鯛と白子のフリットが盛り付けられています。
一番人気の自家製ソーセージは福井産の荒島ポークを使ったもの。薪オーブンでじっくり焼き上げられることにより肉の旨みがぎゅっと閉じ込められ、ナイフを入れた途端じゅわっと肉汁が溢れ出てきます。「子どもたちが食べても安全なソーセージをつくりたかった」という松下さん。子どもから大人までファンが多いソーセージには作り手の愛情が込められています。
味が染み込んだ油揚げとプチプチとしたそばの実の食感がおもしろい『あげご飯』
【la clarté】では、地元の食の魅力をもっと多くの人に知ってもらうため、竹田地区の食材も積極的に取り入れています。その一つが『あげご飯』。お店からも近い油揚げ専門店【谷口屋】の油揚げを使用しています。そばの実と昆布とともに炊き上げたごはんは思わずおかわりしたくなるほどやみつきになる味です。
右から「梅の酒」「爽」「鬼作左」
今回、食事とともに出された酒は、地元丸岡町で260年の歴史を誇る【久保田酒造】のものをペアリング。食前酒には福井県あわら市産の完熟梅を日本酒に漬け込んだ「梅の酒」を、食事には程よい酸味と旨みのあるスッキリした「爽」や袋から滴り落ちるしずくだけを採る方法で絞り出した雑味のない「鬼作左」がセレクトされました。洋風料理と日本酒の組み合わせは意外ながらもお互いの美味しさを一層引き出していました。
県産の木材を薪に使う、地域食材を使うなどフードマイレージを減らす取り組みも積極的に行っている
【la clarté】は、「ミシュランガイド北陸 2021 特別版」で、ビブグルマンに加えミシュラングリーンスターを獲得しました。このミシュラングリーンスターは、レストランが行っているサステナブルな取り組みに対して評価されるもの。
「地域にこの店があることでこれからも地元の食や自然の魅力を伝えていきたい」と語る松下さん。豊かな食材と美しい山々の景色にすっかり癒されるはずです。
【la clarté】
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電話:050-5384-4985
住所:福井県坂井市丸岡町山口64-31
店舗詳細はこちら >
三國湊のレトロな街並みを散策
昼食後はさらに北に移動し、漁港のある三国町へ。三国町は九頭竜川の河口に位置し、古くから水運を利用した物流拠点として栄えたエリアです。江戸時代、北海道から日本海を通る海運の要だった北前船の時代には寄港地「三國湊(みくにみなと)」として繁栄し、北前船で財を成した豪商たちが街の発展を支えました。
通りを歩くと、昔ながらの町家やレトロな建物を目にすることができます。その一つが【旧森田銀行本店】の建物。大正時代に三国の豪商として名を馳せていた森田家が創業した銀行です。
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1920年に竣工した建物は、建築家の山田七五郎が設計したもの
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内部は木と白漆喰の彫刻を基調とした広い吹抜け
地上2階建ての建物は鉄筋コンクリート造りとしては福井県内に現存する最古のもので、国の登録有形文化財になっています。天井の漆喰装飾やカウンターに使われている長さ7mものケヤキの一枚板など、当時の建築技術の粋を集めて造られた建物は圧巻。一気にタイムスリップしたような気分を味わえます。
次に訪れたのが【旧岸名家】。三国で代々、材木商を営んだ岸名惣助の住居で、こちらも登録有形文化財になっています。涼やかな音色を楽しめる水琴窟や、美しい瀬戸焼のトイレ、船が沈んでも浮くようになっている船箪笥など見どころがたくさん。時を超えて当時の三国商人の生活文化を感じることができます。
【旧岸名家】は三国独特の建築様式「カグラ建て」が特徴的
三國湊では街歩きのほかにさまざまな体験も楽しめます。その一つが、福井県郷土工芸品に指定された「三国提灯」。三國湊で唯一提灯づくりを手がける【いとや】では、絵付けした和紙を提灯の骨組に張っていく「本格的な提灯づくり」を体験できます。
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木型に竹ひごで骨組みをつくり、糊づけしていく
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子どもから大人まで楽しめる提灯づくりは海外の旅行客にも人気
骨組みに糊づけした後は絵付けした和紙を丁寧に貼り付けていきます。和紙は色紙を貼ったりスタンプを押したりなど、自由自在にデザインすることができます。クリエイティブ心を刺激され、2時間以上かけて絵付けする人も。
木型から外して乾かし、上下に木枠を取り付けたら完成。早い人であれば1時間くらいで出来上がります。世界で一つだけのマイ提灯はお土産はもちろん、旅の思い出にもぴったりです。
坂井市・三国町【Salvatore】、
高台からの景色と三国港の新鮮な魚介を使ったパスタを楽しむ
あっという間に夕方に。海を見下ろす高台に移動し、少し早いディナーをいただくことにします。やってきたのは、えちぜん鉄道「三国港駅」から車で5分ほどの場所にある【Salvatore】(サルヴァトーレ)。新鮮な魚介をはじめ、野菜や卵、牛乳に至るまで地元・三国でとれた素材を厳選。気軽な雰囲気で絶品イタリアンを楽しめるとランチにディナーに常に多くの人で賑わうリストランテです。
やわらかな灯りに包まれた店内
いただいたのは11月7日から12月中までの期間しか獲れない「せいこがに」を使ったパスタプレート。福井では越前がにのオスよりも一回り小さいメスのカニを、「せいこがに」と呼びます。この時期人気の越前がにですが、地元の人はむしろせいこがにを好んで食べる人も多いとか。
その理由は「内子」、「外子」と呼ばれる卵がたっぷりあるから。1人前につき1/2杯のせいこがにの身と卵をクリームとあえたソースが少し太めのパスタとからみ、贅沢な味わいに。かにの漁期に合わせての提供となるため、12月いっぱいの期間限定です。
毎年人気の『せいこがにのクリームパスタ』
またプレートに添えられた魚介も絶品! 身がしまり旨みが凝縮された活アジはその新鮮さにびっくり。昆布締めされた甘エビにはバフンウニの卵巣と塩だけで熟成させた「汐うに」が甘エビの甘みをより引き立てます。
さらに福井のご当地野菜の一つ、上庄里芋やさっぱりとマリネしたごぼう、ガーリックオイルに漬けた肉厚のしいたけなど野菜も充実。多彩な味や食感の変化を感じながらも調和のとれた贅沢な逸品に仕上がっていて、パスタとの相性も抜群です。
デザートにも地元食材がふんだんに使われている
デザートはプリン2種類のプレート。同じ三国町内にある【おけら牧場】から取り寄せた搾りたてのジャージー牛のミルクと平飼い養鶏の卵を使ったプリン(写真左)はコクがありつつもさっぱりとした味わい。福井でとれた紫芋のプリン(中央)はなめらかな口溶けで思わず頬が緩みます。添えられた柿のソースは甘みのなかにも程よい酸味があり、味のアクセントに。
真っ赤に燃える夕日が沈む様子は何ともドラマチック
昼も夜も人気の【Salvatore】ですが、今回はちょうど夕方に訪れたこともあり、三国の海に沈む夕日を眺めることができました。海から吹いてくる潮風が心地好く、ゆっくりとした穏やかな時間が流れるテラス席でティータイムもおすすめです。
手に汗握る!
大迫力の越前がにの夕競り
旅の最後に訪れたのは三国漁港。ここでは今が旬の越前がにの夕競りの様子を見学することができます。競り場に入ると、トロ箱に入った越前がにがトラックの荷台いっぱいに積み込まれ次々と運ばれていきます。
並んだそばから越前がにの目利きを始める仲卸業者たち
そもそも魚の競りといえば早朝が定番ですが三国漁港では、夕方に競りが実施されています。越前がにの漁場は沖合約20〜30kmほどの場所にあり、真夜中に漁港を出発したカニ漁船が港に戻ってくるのが夕方頃。鮮度の高いうちに競りを行うために、船から下ろした直後の18時から競りが始まるのです。
一定の大きさや重さなどの条件を満たす越前がには「極」と呼ばれ、何十万円で取り引きされる
18時になると競りのスタート。漁港内が仲卸業者たちでさらに活気づき、緊迫した空気が張り詰めます。新鮮な越前がにを手に入れるためのまさに真剣勝負。競り人が声を出す度に床一面に並んだ越前がにが次々と競り落とされる様子に、一同圧倒されました。
三国漁港では見学用のスペースも完備。競りの様子を部屋から眺めることができる
大迫力の競りの興奮冷めやらぬ中、帰路へ。
大自然に育まれた豊かな食の恵み、そして美味しいものを手に入れるための白熱した競りの様子や歴史情緒感じさせる街並みなど、福井をさまざまな方面から堪能する旅でした。まちの魅力、食の魅力にふれながら、あなたも福井でウェルネスを体感してみませんか。
撮影・取材・文/石原 藍
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