洗練されたクールなセンスと家庭的な温かみが共存するナチュラルモダンな和食店|神楽坂【KOMB】
神楽坂の路地の奥の奥。清楚な白い暖簾が目印のこのお店。店内に入ると、店主の原田アンナベル聖子さんが笑顔で迎えてくれます。懐石料理店で基礎を学び、その後は持ち前のセンスの良さで【虎屋菓寮】の料理開発にも携わったり、レストランと並行して料理教室、ケータリング、お惣菜の通販も行ったり、日本料理ならではの季節感や美しさを既存の店とは違った形で表現しようとしている原田さん。そのしなやかな魅力に迫ります!
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クール&ウォームのバランスが心地いい空間と料理
季節とできたてのおいしさを大切に
クライマックスは、お鍋と炊き込みご飯
原田さんの人柄を映した、軽やかながらも深みのある空間づくり
トチノキのカウンターなどナチュラルな風合いの木の温もり感をベースにしながら、白い壁、タイル張りなどでモダンな印象にまとめられた店内。お店に入る前、真っ白な暖簾、ちょっと洋風の扉にも気分が上がりますが、店内に一歩足を踏み入れた瞬間、「いい時間が過ごせそう」と確信できる空間なのです。
控えめに店名を染め抜いた白い暖簾が目印。踊っているような文字にこれから始まる楽しい時間が予感できる
「和食屋さんだけど、カウンターにパスタがあっても違和感のない雰囲気にして欲しいと、友人でベルリンに住む建築家・舟木嶺文さんに設計してもらったんです」と原田さん。洗練されているけれど、緊張感を強いられることのない程よいさじ加減、あらゆる年代の人にしっくりくる普遍性など、単に「おしゃれ」だけでは終わらない深みが感じられます。
原田さんのお店というよりも、お家に招かれたようなウォーミーな空間
実はここは、お店兼アトリエ。料理教室、ケータリング、お弁当(10個からの予約制)、お惣菜や梅シロップなどの通販商品の調理なども行っています。基本的にレストランとしての営業は、基本的に金曜・土曜・日曜のお昼と夜、6名以上の予約なら平日もOKというスタイルです。
実山椒や葉唐辛子など旬の食材で作ったお惣菜を瓶詰めにして販売。食事に行った時だけでなく、通販でも買える
「料理は好きですが、料理店を経営するのは難しいだろうなと思っていました。友人の要望で料理教室を始めたのがきっかけで、ケータリングを頼まれたりするうちに、アトリエがあった方が便利ということになり、だったら料理店としても営業できるような空間をということでこういうスタイルに。コロナ禍ということもあり、従来の飲食店の型にはめる必要がないということで、思い切って一歩踏み出せました」と原田さん。
季節感とできたてのおいしさに気持ちが上がる
「季節を大切に、というのがテーマです」と話す原田さん。料理店と旬の食材は切っても切り離せない関係ですが、その探し方、出会い方でお店の個性が出てくるもの。原田さんの場合、市場で探すというよりも、旅に出て食材に出会う、あるいは人と出会って食材に辿り着くなど、好奇心や人との繋がりを大切にしている印象を受けます。
長野・松本の山から届いた採れたてのタマゴタケ、アカヤマドリタケを奥能登の猟師さんから届いた猪と共に
たとえば9月のある日、コースのお鍋料理には、真っ赤なタマゴタケや和製ポルチーニとも呼ばれるアカヤマドリタケが使われていました。これらは、松本市のキノコ採り名人から送られてきたもの。「来週はこのキノコ採り名人や小布施の栗農家さんに会いに行ってきます」と楽しそうに話す原田さん。
奥能登の猟師さんから届いた猪の腿肉を薄切りにしてしゃぶしゃぶに
同じく鍋でしゃぶしゃぶするのは奥能登・珠洲市の猟師さんから届いた猪です。この猟師さんとは、能登にバチコを探しに行った時に出会ったそうです。食材が採れる場所の自然や生産者の人柄などを実際に肌で感じ、原田さん自身の感動も料理にこめるからこその臨場感も【KOMB】の魅力なのです。
季節や土地の味を大切にするだけでなく、できたてのおいしさも大切にしている原田さん。
9月のコースの先付けで出された胡麻豆腐は、胡麻を煎って、練ってと、豆乳と合わせて……と丁寧に作り上げた香りも味わいも濃厚な自家製です。
自家製の胡麻豆腐をさらに焼いて、香ばしさを際立たせている
「焼き立てっておいしいですよね」と笑顔で話す原田さん。魚やお肉も炭火による焼き立てにこだわっています。「焼き立てだけならお家のグリルでもできますから。やはり炭火の高温で芳ばしく焼き、炭の香りを纏わせて、お出ししたくて」。
胡麻豆腐のあとは、季節感たっぷりで目にも楽しい前菜の盛り合わせが。器も好きという原田さん。時代物から現代作家のモダンなものまで、器使いでも楽しませてくれます。
9月のコースの前菜は、カンパチの塩焼き、葉唐辛子とじゃこ、落花生の山椒煮、いちじくと胡麻だれ、新銀杏、さつまいもチップスで秋の始まりを味わう一皿に
そして、和食の醍醐味でもあるお椀は、蓋を開ける瞬間も楽しみな一品。9月は重陽の節句に因んで黄菊が散りばめられています。そして、昆布と鰹で丁寧にとられたおだしに甘鯛の上品な脂が溶け込んだ繊細なお汁のおいしさにため息……。
椀種はすり身にした甘鯛のしんじょと、香り、食感のよい丹波しめじ。黄菊の花弁と青柚で初秋の風情を表現
お椀の後は、酢の物、焼き物と続き、お鍋と土鍋による炊き込みご飯でクライマックスを迎えるというコースの流れ。合間に、アラカルトで用意されているシュウマイやじゃこと山椒、干し椎茸の甘辛煮などを頼むこともできます。
清澄白河の人気中国料理店【O2】で研修をした際に教えてもらったというシュウマイ。柔らかくてジューシー。2個700円
「お鍋ってみんなで食べると、ホッとするというか、幸せって思えますよね」ということで真夏以外は季節のお鍋を出している原田さん。滋賀県・信楽の中川一辺陶の手になる大きな土鍋でまとめて作り、一人一人によそってくれます。カセットのガスコンロではなく、土鍋とお揃いの炭火コンロを使うところにも原田さんの揺るぎない美意識を感じることができます。
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土鍋の炭火コンロ用に炭を起こします
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信楽の雲井窯、中川一辺陶の炭火コンロに炭を並べます
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「大きな土鍋で作るといいだしが出ます」と原田さん
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一人分ずつよそって熱々を出してくれます
お酒は、だしの旨味や旬の食材の魅力を繊細に引き出した原田さんのお料理に寄り添う優しい味わいのものが揃っています。そのセレクトは、食材同様に感性の合う人たちとの繋がりの中で、「私の料理のことをよく理解してくれていて、任せても大丈夫という人にお願いしています」と原田さん。
旬の香りを大切にした繊細な味わいの料理に合わせた品揃え
日本酒も柔らかな味わいのものをセレクト。唯一の焼酎『青鹿毛』は、麦を煎ったような香りが特徴。焼酎初心者にもお勧め
ワインは、自然派が好きな人の間では知らない人はいないと言われる福岡のワインショップ、【I.N.U.wines】によるセレクトをに加え、原田さんの友人でドイツワイン専門のインポーターからも仕入れています。また、日本酒は「蔵元が友人なので、真澄、手取川は必ずラインナップに入れています」とのこと。
ベースの洋服は黒。その上にアンティークコットンの白いロングエプロンというセンスの良い出立ちの原田さん
手間はかかっても、「できたてを食べて欲しい」という、客にとって最上のもてなしで目の前で料理を仕上げていく原田さん。「お客様をお待たせしてしまうこともあるのですが、おいしさのためには譲れないことなので、ご理解いただけたら……」と申し訳なさそうに話しますが、繊細さとタフさを兼ね備えた原田さんの人柄もお店の大きな魅力。季節感たっぷりのお料理と一緒にワインや日本酒お酒をゆっくり呑みつつ、料理が出来上がって様子も眺めつつ、原田さんと旅や食材の話をしつつ、がとても楽しいお店なのです。
お弁当について
お弁当は10個以上の要予約。写真の『季節のお弁当』1,980円ほか、そぼろ弁当、すき焼き弁当、プラントベースにも応じてくれます
撮影/佐藤顕子 取材・文/藤田実子
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