更新日:2025.02.14旅グルメ 連載
京都・綾部【田舎の大鵬】~ヒトサラ編集長の編集後記 第76回
京都市内から車を北へ走らせること約1時間半。綾部市の美しい里山のなかに【田舎の大鵬】はあります。ここは自然をまるごと味わうことができる野外レストランで、京都市内の有名中華【大鵬】2代目が考えるサステナブルな食事のあり方が詰まっています。
「デッキをまた新しくしまして」と迎えてくれたのは【田舎の大鵬】のオーナーシェフの渡辺幸樹さん。「いつかこういうスタイルでやりたいと思ってて、それが実現したのが3年前。それから日々改良です。すこしずつ深堀りしていってます」と日焼けした笑顔で笑います。
今回、我々は東京のシェフたちをふくめ10人あまり。バスをチャーターしてお邪魔しました。1日1組限定のお店なので、4人以上で伺うことが予約の条件になります。
確かに、のどかな田園風景のなか、放し飼いの厩舎があり、豚小屋があり、山羊がいたり、野菜畑があったり……。
「京都で中華料理をやってたときに鶏を届けてくれてたのがここの方で、それがご縁でこの場所に移住しました。父の田舎も綾部でしたので、馴染みはあったところなんです」。渡辺さんは、食事の前に一通り周囲を案内してくれ、それから今日のメインとなる鶏を捌きます。これは希望すれば体験させてもらえます。
鶏を捌くという行為は、都会生活に慣れてしまった現代人には非日常的かもしれませんが、我々は生物の命をいただいて生きているんだという食の原点をまずここで知ることができます。そしてそれらを育てているのがまさにこの里山に広がる大自然なのです。
そんな風景の中で食事は始まります。
渡辺さんの好きな作り手のナチュール・ワインが何本か用意されました。中華料理のみならずナチュール・ワインにも造詣が深い渡辺さんが選んでくれたものを飲みながら、まずは大根餅から。飲茶の代表的な点心ですね。近くでとれた大根と蕪でつくられています。辛子は近所の農家から仕入れた純国産の自然栽培物だそうです。いい香り。
2皿目は丹波の黒豆ですが、黒くなる前のものが使われていて、茶の葉で蒸されています。これも香りがすばらしく、豆がいきいきしていて食べはじめると止まらない感じです。
湯引いただけという鶏の臓物が出てきました。先ほど捌いたばかりのものです。味付けはシンプルに自家製の唐辛子を漬けた醤油、ナンプラーのみ。臓物ひとつひとつがつやつやと輝いていて、テーブルの全員でそれぞれ部位を確認しながら口に運びます。鶏の腸など普段はお目にかかることのないものも全部入っています。独特の食感と新鮮なモツにのみ感じる旨みが、醤油、ナンプラーで増幅されていきます。
後から添えられたのは蒸した人参。ごろっとした人参もここの畑のものですが、天然の甘さがおいしくて、モツの醤油の辛さを中和してもくれます。
「調味料なども基本、全部自家製です。水もここの地下水を使っています。野菜は自然のままにしてあるのと有機栽培しているものがあって、豚とかのエサは調理時に出る野菜のクズなどを利用しています。もちろん豚を大きくするのにコーンなどは必要なので、最低限の対応はしますが、なるべくここの自然を循環させられるように考えてやっています」と渡辺さん。
そう聞きながら目の前に広がる風景を眺めていると、この自然をぜんぶまるごといただいているような気持になります。これは本当に贅沢です。
鹿肉の干し肉炒めが出てきました。一週間くらい干した肉とニンニクの葉を炒めます。味付けは塩だけ。干し肉の旨みがニンニクの葉っぱの爽やかさと相まって、ナチュール・ワインの進む一皿です。
ちょっと箸休め的にと出てきたのが米湯。イセヒカリの煮汁に南京豆の香りが少し入っただけのシンプルなおもゆ。塩も入れません。とろんとして体に優しく浸透していきます。
メインの鶏が茹で上がりました。それと鍋が用意されます。
「鶏は調味料でどうぞ。鍋のスープはサルノコシカケとかミカンの干した皮とか山菜とかからとったスープです。まずは一口どうぞ」という渡辺さんに従いスープをすすると、爽やかな薬膳スープの味わい。そこに、血豆腐、ずいき、発酵白菜などを入れていただきます。
以前、中国の貴州省の山村で発酵料理をいくつか食べたときの記憶が呼び覚まされました。ただ中国で経験したそれほどは匂いも強くなく、味もスッキリした感じ。
鶏の血を固めた血豆腐はぷるんぷるんで、さっと湯をくぐらせるだけで、プリンのようなまろやかさです。もちろん血というものに抵抗はあるのですが、臭みもないのでジビエなどに慣れている人にはおいしくいただけるものかと思います。
ずいきは京都では有名な食材で、里芋の葉柄です。しゃきっとした食感が面白く「ずいきの炊いたん」は家庭料理として親しまれてもいます。それと発酵白菜。これを鍋に入れると酸っぱい旨味が広がります。
贅沢な鍋をつつき、ナチュール・ワインと鶏肉をいただいていると、ご飯が出てきました。「ここでとれた新米と地下水で炊き上げました、どうぞ」。
そして、もうひとつ、渡辺さんがつくってくれたのはレバニラ。新鮮なレバーがあってこそ成立するおいしいシメの一皿となりました。
デザートはマーラーカオ(蒸しパン)とお茶をいただきました。
陽が山のかなたに沈み、あたりが暗くなり始めたころ、我々はこのすばらしい大自然の中のレストランを去り、京都へ向かいます。
いつまでも手を振って我々を見送ってくれる渡辺さんとスタッフの方の姿に、こちらも手を振って応えながら、今回ご一緒したみなさんと車内でいろいろ話をしました。それぞれの立場からの熱い話でしたが、酔いも手伝っていつの間にか、みな眠ってしまっていました。
この記事を作った人
小西克博/ヒトサラ編集長
北極から南極まで世界100カ国を旅してきた編集者、紀行作家。
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