革新と美味を共存させるシェフ、【セララバアド】橋本宏一氏 from シェフのヨコガオ
スペインの【エル・ブリ】での経験を【タパス モラキュラーバー】で昇華させ、日本のイノベーティブ・キュイジーヌを牽引してきた橋本宏一シェフ。世界No.1として知られる【noma】を経て、クラウドファンディングを活用し立ち上げた【セララバアド】で目指す理想とは?
【エル・ブリ】で働いて驚いたのは、最先端の化学的な料理である裏側に、実はナチュラルなところがたくさんあるんだということでした
――橋本さんは、【エル・ブリ】、【noma】など、世界の最先端とされるお店で研鑽を積んだということが知られています。
もともとはフランス料理をやっていたのですが、地産地消やパーマカルチャーというような考えに興味を持っていて、石垣島に行っていたんです。小さなホテルで働いて、農業や酪農、漁業などミニマムな世界でどう地のものをつかって料理ができるか?という方向を考えていました。そういった環境では食材の数や種類も限られるので、その中で技術やプレゼンテーションなど多くの引き出しを持つにはどうすればいいか、と。そんな試行錯誤をしていたときに、雑誌で【エル・ブリ】のことを知って、そこに解決策があるような気がしたんです。ちょうどフランス料理が停滞していた時期だったので、世界にはこんなものがあるんだと驚きでしたね。それから2年くらいかかって、何とか入り込んだんですけど。
まずは、自由ということですね。それまでは「こうじゃなきゃいけない」という明確なアプローチの中で仕事をしていたのですが、もっと自由な考え方をしていいんだということを知りました。ただ、入ってみてわかったことは、【エル・ブリ】にも実はナチュラルなところもたくさんあるんだってことでしたね。みんなで野生のアーモンド取りに行ったり、植木の花を摘んだり、店の裏に生えているハーブを採ったりという日常があるんですよね。メディアなどでは、分子料理をはじめ化学的な部分だけフォーカスされていたのですが、それが全てではないことを体験できたことも今に繋がっていると思います。
――なるほど。そこから【noma】に辿りつくまでも、何かストーリーはあったんですか。まず、スペインから帰国して、マンダリン・オリエンタルの【タパス モラキュラーバー】で働き始めたときが大変だったんです。正直言って何をつくっていいかよく分らなかった。【エル・ブリ】の最先端の料理を期待されているのはわかるのですが、その頃はエスプマも液体窒素もゲル化剤などを入手するのも困難でした。それに、お客さんもそういうスタイルに慣れていないので、どこまで受け入れてくれるかも分らなかい部分もありました。そこを何とかこなしていったんですが、その後【noma】に勉強に行ったのは、ちょっと化学的な料理をやりすぎた反動みたいな部分もあったかもしれません。世の中も変わってきたし、以前やりたいと思っていた地産地消のようなスタイルでありながら世界に発信していく時代になってきたというのは感じていたんです。2005年1月に【noma】が日本で店を開いたときも、ほとんど日本の食材を使っていましたよね。そういうドメスティックな部分にフォーカスするアプローチに、そもそも興味を持っていたので、【セララバアド】で自分の店をオープンする前に、その感覚を取り入れたいって思っていたんです。
新しいテクニックを取り入れようとすると、最初はたいてい失敗します。でも、諦めずに失敗し続け、なんとかかたちにする。そうやって新しい料理が生まれるんです
――最先端のテクニックを取り入れたお店は増えてきましたが、【セララバアド】は、「美味しさ」と両立しているところが印象的でした。
もう若くはないので、経験を積んだということでしょうね。そう感じてもらえているなら、美味しさと驚き、食材が持つストーリー性のバランスをようやく組めるようになってきたということだと思います。最初の何年かは学んできたことを消化して自らのものにするまでには、なかなか至らなかった。それが、徐々に徐々にやっていけるようになって、味などのバランスも組めるようになったということだと思います。
基本的には、若い子たちが挑戦をしていたりすると、勢いがあっていいなって思います。確かに先ほど話したバランスという意味では、至らない部分もありますが、まだ、そういう時期じゃないんだと見守ってあげられるようになってきましたね。とにかく、諦めないで続けてほしい。
こういうスタイルの料理は、何度も何度も失敗するんです。いまだに僕も新しいメニューにトライしようとすると、全然かたちにならなかったりするんですけど、何度も失敗することによって、すぐにはうまくいかないと理解することが一番重要だと思うようになったんです。ガンガン失敗して、なんでうまくいかないんだと失敗した情報を自分で分析して、なんとか成功に繋げるかだと思うので、どんどんやっていくしかないんです。
美味しさは、記憶の中にあるものなので、経験を重ねれば、自ずと出せるようになっていくものだと思います。でも、自分が理想としているのは、やはりバランス。美味しさと表現力、驚きや創造性だとか、そういったバランス感覚に対して、日本人のお客様は世界の中でもすごい厳しいので、そこにちゃんと応えていかなければいけないなと思うんですよね。
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ヒトサラ編集部
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