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更新日:2018.03.14食トレンド グルメラボ

~東日本大震災から7年が過ぎて~ワインが社会にできること

東日本大震災から早7年が過ぎた。震災直後の自粛ムードを思うと、今日こうして、当たり前のようにレストランでの食事やワインを楽しむことができるのは、本当にありがたく幸せなことだ。が、一方で被災地の復興は道半ばであるという現実もあることは忘れてはならない。世界のワイン生産者たちが日本の震災復興のために集結するイベントがあることをご存知だろうか? そのイベントの様子をレポートする。

~東日本大震災から7年が過ぎて~ワインが社会にできること

チャリティだからこそ集まれる世界の名門ワイナリー

 ワインの輸入販売会社、株式会社ファインズでは、震災の年から毎年、誰でも参加できるチャリティ試飲会を行っている。「ファインズ チャリティ試飲会」(3月3日、東京・恵比寿のEBiS303イベントホールで開催)は今年で8回目の開催になった。このイベントは、毎年、会の趣旨に賛同する世界各地の有名生産者が手弁当で来日・参加。それぞれのブースで自慢のワインを注ぎ、来場者と談笑するもの。参加者はグラスを手に来日生産者のブースやファインズ・セレクションのコーナーをホッピングし、多くのプレミアム・ワインを試飲することができる。また別枠の有料試飲コーナー(ボルドー5大シャトーなどのレア・アイテムが用意される)、特価によるワイン販売コーナーも設けられている。ワイン愛好家にとっては、滅多に会うことができない憧れのワインメーカーやワイナリー・オーナーと直接触れ合うチャンスでもある。来場者の入場料(7000円)と有料試飲ボルドー5大シャトーなどの銘酒が別枠で用意されるの代金は全額、災害復興支援団体Civic Forceに寄付される。今年の寄付金額は約258万円に上った。

  • 配布されたパンフレットを片手に飲みたいワインを選ぶ

    配布されたパンフレットを片手に飲みたいワインを選ぶ

  • 「有料試飲コーナー」の今年の目玉はシャトー・ラフィット・ロート1988

    「有料試飲コーナー」の今年の目玉はシャトー・ラフィット・ロート1988

 今回の来日生産者の名前を挙げると、ドメーヌ・プリューレ・ロック(ブルゴーニュ)の共同経営者ヤニック・シャン氏、マッツェイ(キャンティ)の後継者ジョヴァンニ・マッツェイ氏、ドメーヌ・ヴァインバック(アルザス)の当主カトリーヌ・ファレール氏、ラポストール(チリ・セントラルヴァレー)の当主シャルル・ド・ブルネ・マルニエ・ラポストール氏等々。これだけの顔ぶれが一堂に会することは極めて珍しい。「まさにチャリティだからこそのメンバーだと思います」とファインズ代表取締役の中西卓也氏は言う。中西氏によれば、震災直後、同社と取引のある生産者から「何か力になれることはないか?」との声が次々に届いたとのこと。社内でもワインを通じて復興の役に立てる道を模索する動きがあった。両者の思いが一つになって、ワインを媒介にした復興支援イベントが立ち上げられたというわけだ。

    左から/ドメーヌ・プリューレ・ロックのヤニック・シャン氏、ドメーヌ・ヴァインバックのカトリーヌ・ファレール氏、マッツェイのジョヴァンニ・マッツェイ氏、ラポストールのシャルル・ド・ブルネ・マルニエ・ラポストール氏<br />
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    左から/ドメーヌ・プリューレ・ロックのヤニック・シャン氏、ドメーヌ・ヴァインバックのカトリーヌ・ファレール氏、マッツェイのジョヴァンニ・マッツェイ氏、ラポストールのシャルル・ド・ブルネ・マルニエ・ラポストール氏

「これこそ、われわれがワインを通じてやりたかったこと」

「やってみて驚いたのは、来日される生産者の方々が一様に嬉々としておられたことです。『これこそ、われわれがワインを通じてやりたかったことだ』『次回が待ち遠しい』という言葉が多く寄せられました」(中西氏)。欧米ではもともとチャリティが人々の意識の中にあるという事情もあるだろう。また、ワインという飲み物に元来、人と人をつなぐ、人に慰めと癒しを与える、そういう特質があるのかもしれない。

    ドメーヌ・ブシャール・ペール・エ・フィスの豪華ラインナップ

    ドメーヌ・ブシャール・ペール・エ・フィスの豪華ラインナップ

 来日生産者たちの言葉を拾っておこう。「もう何回もこのイベントのために日本に来ています。日本はうちのワイナリーにとって最も重要な市場です。われわれのワインを愛してくださる方と直接会って話すのは素晴らしい経験です。ワインを通じて、力になれることはわれわれにとっても誇らしいこと」(ヤニック・シャン氏)。「ワインだけでなく、私たち自身やワインの生まれるバックグラウンドを知っていただくのに良い機会だと思います。私は日本のすべてが大好き。人も文化も食事も。来年も必ずここに戻ってきます」(カトリーヌ・ファレール氏)。

    300人の参加者で会場は活気付いた

    300人の参加者で会場は活気付いた

 参加者は300名限定。午後2時の開場時間を待たずに会場前には長い行列ができた。開場されるやいなや、お目当ての生産者が待つブースに急ぐ参加者たち。友達を誘って来場したという女性に話を聞いた。「参加するのは今回で5回目になります。普段はなかなか飲むことのできない高級なワインや希少なワインを飲むことができるチャンスなので。チャリティだということはもちろん知っていますが、それが最大の動機というわけではないですね」。まずはワインありき、結果的に慈善に繋がる。チャリティとしては理想的な姿と言える。

    チャリティ試飲会はファインズの社員にとっても大切な年中行事

    チャリティ試飲会はファインズの社員にとっても大切な年中行事

 会の準備は毎年、ファインズの社員たちが数か月かけて行い、当日の進行と裏方仕事も彼らが全員ボランティアで行っている。「正直、休日出勤で大変ですけど、このイベントには他に比べるもののないやりがいと充実感があります」社員の一人が打ち明けてくれた言葉に、この会の真の値打ちが表れているように感じた。
※次回のチャリティ・イベントの詳細は未定。今後の情報は下記のサイトでチェック。

撮影/片岡弘道

この記事を作った人

浮田泰幸

ライター、ワイン・ジャーナリスト。世界各地を回り、産地とワイナリーの魅力をメディアやイベントを通じて紹介。過去に訪問したワイナリーは500軒を超える。

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