初夏の行楽気分を味わえる、車浮代の「江戸の変わり飯」レシピ三品
時代小説家で江戸料理・文化研究家の車浮代さんに、現代人が忘れてしまった江戸の素朴で豊かな食事情を教えていただく第十弾。明るい緑と穏やかな気候に誘われて、思わず外出したくなるこの季節。旬のご飯三品をご紹介します。ごゆるりとお愉しみくださいませ。
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炊き込みではなく、出汁がけでいただくのが江戸の味『筍飯』
浅蜊たっぷりの味噌汁をご飯にぶっかける、豪快な漁師飯『深川飯』
徳川家康存命中は高嶺の花だった白魚をご飯に乗せた『白魚飯』
『筍飯』(4杯分)「名飯部類」「黒白精味集」より
炊き込みではなく、出汁がけでいただくのが江戸の味。
■材料(4杯分)
・筍…穂先から10cm程度
・米…2合
・水…400ml
・鰹出汁…600ml
・醤油…小さじ3
・塩…小さじ1/2
・木の芽…適量
・三つ葉…1束
・紅たで…適量
・揉み海苔…適量
■作り方
1)筍の先の柔らかい部分を10〜15cmほどを切り取って塩茹でし、好みのサイズに切る。
2)白米を通常通りに炊き、炊き上がった直後に切った筍を入れて蓋をし、しばらく蒸らす。
3)これをざっくりと混ぜて深めの茶碗に盛り、木の芽、三つ葉、紅たで、揉み海苔などを乗せ、塩と醤油で味付けをした鰹出汁をかけていただく。
江戸時代、三代将軍・徳川家光によって再興された目黒不動の門前には、「筍飯屋」が軒を連ねていました。ここで使われていたのは、現在の私たちが口にしているのと同じ、孟宗竹(もうそうちく)という種類です。甘くて柔らかい孟宗竹が、中国から琉球を経由して薩摩に渡来するまでは、日本では淡竹か真竹の筍が食べられていました。
いち早く孟宗竹に目をつけたのは、江戸の京橋で廻船問屋を営む山路次郎兵衛という商人で、まずはこの筍を桐の箱に入れて高級感を出し、馬に乗せて販売することから始めました。孟宗竹の筍が評判になると、次郎兵衛は安永元年(1772年)、戸越村に別邸を構え、貧しい地元の農民のために、薩摩屋敷から孟宗竹の苗木を取り寄せて、栽培を推進しました。やがて目黒と荏原一帯は孟宗竹の産地となり、人々が多く集まる目黒不動では筍の市が立ち、茶飯屋と組んで筍飯を開発し、販売するようになったのです。
この頃の筍飯は、炊き込みご飯ではなく、出汁がけだったと思われます。たくさんの薬味とともにいただく筍飯は、見た目も色とりどりで美しく、筍の香りや渋みがストレートに楽しめる逸品です。
『深川飯』(二人前)
浅蜊たっぷりの味噌汁をご飯にぶっかける、豪快な漁師飯です。
■材料(二人前)
・殻付き浅蜊…500g
・長葱…1/2本
・ご飯…2杯分(冷や飯でも可)
・水…400ml
・味噌…大さじ2
・薬味…少々(お好みで)
■作り方
1)砂抜きした浅蜊を、殻をこすりあわせてよく洗う。長ねぎは1cm 幅に切っておく。
2)鍋に水と浅蜊を煮立て、浅蜊の口が開いたらすぐに鍋から上げてスプーンで身を外す。
3)浅蜊の煮汁に葱を入れ、火が通ったら浅蜊の身を鍋に戻して味噌を溶き入れ、ひと煮立ちさせる。
4)器にごはんを盛り、3をかける。お好みで薬味や三つ葉を散らす。
初夏の行楽の一つである「潮干狩り」が盛んになったのは、江戸時代のことです。
「現在の4月から5月、芝浦・高輪・品川 沖・佃島沖・深川洲崎・中川の沖から、早朝より船に乗って沖に出る。卯の刻(午前6時頃)過ぎより潮が引き始めて、午の半刻(正午頃)には海底が陸地と変わる。ここに降り立って蛎蛤を拾い、砂の中にいる平目を踏み、引き残った浅汐で小魚を捕獲して宴を催した」と『東都歳時記』(1838年)に書かれています。 平目や小魚まで手に入れて、潮が満ちてくるまでその場で宴会とは、羨ましい限りです。
また、海に面していた深川では浅蜊がたくさん獲れました。 深川の漁師たちが、味噌や醤油で煮た浅蜊と葱を、船の上でごはんにかけて食べた漁師飯が「深川飯」です。 当時は「ぶっかけ飯」や「浅蜊飯」と呼ばれており、「深川飯」と呼ばれるようになったのは昭和に入ってから。
現在、深川名物となっている『深川めし』は、醤油ベースの煮汁ごとぶっかけるタイプと、炊き込むタイプの2種類があります。 炊き込むタイプは、『深川めし』を持ち運びできるようにと、近年考案されたものだそうです。
『白魚飯』(二人分)「名飯部類」より
徳川家康存命中は「御止魚(おとめうお)」。高嶺の花だった白魚をご飯に乗せて。
■材料(二人分)
・白魚…20匹程度
・温かい御飯…2杯
・海苔…2枚
・鰹出汁…300ml
・醤油…小さじ1
・塩…少々
・芽葱(小葱でも)…適量
・山葵…少々(お好みで)
■作り方
1)白魚は水洗いして塩水に浸け、その間に蒸し器を温めておく。
2)蒸し器に クッキングシート等を敷き、白魚を並べて軽く蒸し、自然に冷ます。
(真っ直ぐな白魚にこだわらないのであれば、塩を入れた湯で軽く茹で、水気を切る)
3)出汁に塩と醤油を入れて温め、器に盛った御飯にかける。その上に炙った海苔と2を乗せ、芽葱、山葵などを添える。
成魚でも体長10cmに満たない白魚は足が速いため、夜の間に隅田川下流で漁を行い、魚河岸が開かれる早朝に合わせて出荷していました。
白魚が江戸で初めて漁にかかった時、透けて見える脳髄が葵の御紋に似ていたことから、佃島の漁師が不思議に思って徳川家康に献上したところ、「三河の海で獲れる白魚が、江戸前の海でも獲れるとは吉兆なり」とたいそう喜び、好物である白魚の漁獲量を確保するため「御止魚」にしました。
家康亡き後、解禁になった白魚は、公方様好みの魚としてもてはやされ、篝火に誘われて集まってくる白魚を、四手網(よつであみ)ですくい取る白魚漁は、江戸の風物詩になりました。 漁場に芸者を連れて小舟を出し、獲れたての白魚づくしの料理を海の上でいただく、という贅沢な遊びもありました。
この記事を作った人
取材・文/車浮代
時代小説家/江戸料理・文化研究家。著書に『江戸の食卓に学ぶ』『江戸おかず12ヵ月のレシピ』『今すぐつくれる江戸小鉢レシピ』、ベストセラーとなった『春画入門』『蔦重の教え』など多数。TV・ラジオ、講演等で活躍中。国際浮世絵学会会員。http://kurumaukiyo.com
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