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更新日:2018.03.26健康美食 グルメラボ 連載

春爛漫。お花見の季節にぴったりな、車浮代の「江戸の変わり飯」レシピ三品

時代小説家で江戸料理・文化研究家の車浮代さんに、現代人が忘れてしまった江戸の素朴で豊かな食事情を教えていただく第九弾。コートやジャケットが軽くなるにつれ、気持ちも浮き立つこの季節。見た目も美しい、華やいだご飯三品をご紹介します。ごゆるりとお愉しみくださいませ。

春爛漫。お花見の季節にぴったりな、車浮代の「江戸の変わり飯」レシピ三品

花見に季節にぴったりなレシピ三品

『芝海老飯』(二人前)「名飯部類」より

柔らかくて甘みのある芝海老と、香り高い有明海苔を使った、春らしい彩りのご飯です。

■材料(二合分)
・芝海老…30匹
・米…2合
・三つ葉…1束
・塩…小さじ1
・酒…大さじ2
・醤油…小さじ1
・焼き海苔…適量

■作り方
1)芝海老は洗って頭と殻を剥き、爪楊枝を刺して背わたを抜き取る。
2)芝海老の身は酒に浸けておき、頭と殻は500mlのお湯でアクを取りながら茹でて老出汁を取り、網で漉して冷ます。
3)炊飯器に洗米と2を入れる。出汁が足りないようなら酒を足し、塩と醤油を加えて炊く。炊き上がったら2cm幅に切った三つ葉を加えてざっくりと混ぜ、焼き海苔を揉みほぐして散らす。

 江戸時代、芝浦で大量に獲れたため、その名がついた「芝海老」は、殻も柔らかいため、通常の調理法以外にも、当時は殻ごと煎り焼きにしたり、素揚げや天麩羅蕎麦のタネに使われたり、鮨ネタと酢飯の間に挟むおぼろに使われたりと、様々な調理法で食されていました。

 現在、この芝海老もトッピングの海苔も、産地として有名なのは、九州の有明海です。

 特に佐賀県太良町で獲れる、芝海老と海苔の漁獲量は全国1位で、佐賀県産品を使った朝ごはん推進プロジェクト、「あさご藩」のおかずの一品としても取り上げられています。

『蛤飯』(二人前) 「素人包丁」より

蛤をたっぷり使い、独活を散らした、粋で贅沢なご飯です。

■材料(二人前)
・蛤…12個程度
・独活…6cm幅
・温かい御飯…2杯分
・水…3カップ(600ml)
・酒…大さじ2
・塩…少々
・醤油…少々
・胡椒…少々

■作り方
1)独活は皮を剥き、3cm×5mm程度の短冊に切り、水にさらす。
2)鍋に水と酒と砂出しした蛤を入れて沸騰させ、蛤の口が開いたら身を取り外す。煮汁は塩と醤油で味を調えておく。
3)茶碗に温かいご飯を盛り、蛤の身と独活を乗せて黒胡椒を振り、温めた煮汁をかける。

「その手は桑名の焼き蛤」という地口で有名な、三重県・桑名宿の大蛤が全国的に知られるようになったのは、江戸時代からです。

 街道が整備され、人々が気軽にお伊勢参りができるようになったおかげで、ご当地グルメが誕生したというわけです。

 江戸湾でも蛤は豊富に獲れましたが、桑名では6cm以上ある大蛤が獲れたため、焼いても食べ応えがありました。

 焼き方も洒落ていて、当時の浮世絵に、松ぼっくりや乾燥させた松の葉をかぶせて焼いている図が残っています。

 弥次さん喜多さんの珍道中でおなじみの『東海道中膝栗毛』にも、「桑名に着きたる悦びのあまり、名物の焼蛤に酒くみかはして……(中略)……箱にした囲炉裏のようなものの中へ蛤を並べ、松かさをつかみ込み、扇ぎたてて焼く」とあり、焼き上がった蛤は、大皿に入れて提供していました。

 この焼き方を再現した焼き蛤をいただいたことがありますが、松の良い香りが貝に移り、なんとも乙な逸品でした。

 また桑名では、「焼き蛤」に次いで名物だったのが「蛤の時雨煮」で、旅人は現地で「焼き蛤」を味わい、土産に「時雨煮」を購入するのがお決まりだったようです。

『山吹飯』(二人前) 「名飯部類」より

ゆで卵の黄身を裏ごしし、山吹の花に見立てた色鮮やかなご飯です。

■材料(二人前)
・卵…3個
・三つ葉の茎…1束分
・温かい御飯…2杯分
・鰹出汁…300ml
・醤油…小さじ1.5
・塩…少々

■作り方
1)卵を固ゆでにし、黄身だけを茶こしやザルなどで裏ごしする。三つ葉は小口切りにする。
2)温かいご飯に1の黄身をかけ、三つ葉を散らし、醤油と塩で味を整えた、熱い鰹出汁をかけていただく。

 前述した蛤のように、環境破壊により、江戸時代は安価だったものが、現代では高価になってしまった食材は多々あります。

 逆に、江戸時代は高価だったものが、現代は安価になった代表格が、卵です。

 江戸末期に書かれた『守貞謾稿』によれば、かけそば一杯が十六文の時代に、ゆで卵は一個二十文で売られていた、という記述があります。

 仮に、一文を25円として換算すれば、ゆで卵一個が500円もしたということになります。

 それだけに、当時は病人のお見舞いや贈答品、もしくは女性を口説く際のプレゼントとしても買い求められていました。

この記事を作った人

取材・文/車浮代

時代小説家/江戸料理・文化研究家。著書に『江戸の食卓に学ぶ』『江戸おかず12ヵ月のレシピ』『今すぐつくれる江戸小鉢レシピ』、ベストセラーとなった『春画入門』『蔦重の教え』など多数。TV・ラジオ、講演等で活躍中。国際浮世絵学会会員。http://kurumaukiyo.com

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