これは、毛ガニのチョモランマ!?人気鮨店の『毛ガニの鮨』/六本木【海界】森脇慶子の今月の気になるヒトサラVol.8
いや、出てきてびっくり。これは太平洋に浮かぶ帆船か、はたまたチベットにそびえたつチョモランマか。いろんなお鮨があるけれど、蟹好きな人なら思わず歓声をあげてしまう【海界(かいかい)】の『毛ガニの寿司』。いろんな鮨を食べてきた森脇さんもびっくりしたというこちらは、見た目のインパクトだけでなく、味も抜群です。
特製のウニダレで漬けにした身と蟹みそで和えた身、Wのおいしさ『毛ガニの鮨』
毛蟹は赤酢の酢飯で。まず、太い足の身の部分を握る
一見、“際物”のようでいて実は“極もの”。
それが、ここ六本木【海界】の毛蟹の握りである。
毛蟹の握りと言えば、ただ茹でた毛蟹を握っただけの、お手軽チェーン店にありがちな安っぽいそれか、あるいは、バブリーな客相手の高額鮨店がキャビアでも乗せて出しそうなイロモノ。そんな偏見を少なからず抱いていた。正直な話、毛蟹はつまみで食べるもので、江戸前の鮨としては若干邪道なのでは?そう思ってもいた。(もちろん、おいしいには違いないけれど)
ほぐした蟹の身に、塩水ウニと蟹味噌を合わせたたれをかけて漬け込む
だから、去年の9月、オープンして間もないこの店を訪れた時、目の前に置かれた毛蟹の握りを見て、内心、「ふーん」という思いで口にした。(西崎さん、ごめんなさい)
そして、えっ?と舌を一瞬疑った。
心なしか甘みに奥行きを感じたのだ。毛蟹ゆえ、当然甘みはある。けれども、その甘みの中にどこか密なコクと柔らかな余韻があるように思われた。(浜茹で以外の)茹で揚げの毛蟹は、甘いけれども、ともすればどこか水っぽい。その水っぽさが、全くないのだ。
ただ、水分をよく切っただけなのか、それとも何か仕事をしているのだろうか? 気がつけば、寡黙に鮨を握るご主人西崎祐樹さんに声をかけていた。
「この毛蟹、ただ茹でているだけですか?」
赤酢の酢飯。ミツカンの山吹と横井醸造の與平衛の2種類の赤酢に千鳥酢をブレンドしている
千鳥酢のみの白酢の酢飯もある
すると、思わぬ答えが返ってきた。
「蟹味噌と雲丹に漬けています」
曰く「まるごと茹でた毛蟹をほぐし、塩水ウニと毛蟹の味噌、自家製の出汁割り醤油を合わせた中に6時間漬けておく」とか。なるほど、醤油の塩分で毛蟹の水分がほど良く抜けると共に、雲丹や蟹味噌の旨味が、嫌味でない程度にほんのりとつくという寸法だ。
その淡いようでいて濃い蟹の旨味に合わせて、酢飯も、白酢と赤酢2タイプ用意した中から赤酢を用いた“赤シャリ”を使用。念が入っている。なるほど、タネがより旨くなり、酢飯に合うようしっかり仕事を施したこの握りなら、毛蟹といえど立派な江戸前の鮨と言えるだろう。
毎朝、築地で仕入れる極上のネタに加え、縞海老や牡丹海老など北海道直送のものも
ちなみに西崎さんは、北海道は士別市の生まれ。
洞爺湖ウインザーホテルを始め、ミシュランの三ツ星を獲得したこともある名店で修業を積んだ経歴を持つ。それゆえ、毛蟹や雲丹、肉厚な天然ホタテに時知らずなど築地ではなかなか手に入らぬ北海道ならではの上質な寿司ダネもしばしば登場。
西崎さんなりに仕事を施したそれらのタネは、【海界】を訪れる楽しみの一つでもある。修業時代から考え、心の内に積み重ねてきた自らの鮨を、今はこの店で体現。少しずつ花開かせている。
ほぐして蟹味噌とあえた身の部分を乗せ、漬け込んでいた塩水ウニと蟹味噌のタレをかける
何を隠そう、この毛蟹の握りも徐々に進化している。
最初に頂いた時は、蟹の足だけを握った普通の(平らな)握りだったが、数ヶ月後に訪れた時には、ほぐした身の部分をうず高く乗せたご覧のチョモランマスタイルに。そして、撮影時には、更にその上から毛蟹を漬けていた雲丹と蟹味噌のタレを、上からたらり。さしずめ、煮切りか煮つめといったところだろう。
【海界】とはうなさかとも読み、神話における神の国と人間界との境界のこと。木曽檜のカウンターも清々しい店内は、清廉としてどこか崇高な趣。心洗われる思いで鮨を堪能したい。
木曽檜の一枚板のカウンターも清々しい店内。このカウンターがいわば海界
店主・西崎祐樹さんからひと言
握りをしっかり召し上がって頂きたいので、おまかせは、つまみ8種類を4皿で提供したのち、握りは12~15カンほどお出ししています。握りオンリーのコースも大歓迎です。
海界
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住所:東京都港区六本木7-9-6 1F
電話:03-5413-4075
営業時間:18:00~24:00(L.O.23:00)
要予約
※毛ガニの鮨を希望の場合は予約時に確認を。
定休:日曜日
料理:つまみ、握りのおまかせのみ 20,000円~ -
この記事をつくった人
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森脇慶子
「dancyu」や女性誌などで活躍するフードライター。綿密な取材と豊富な経験に基づく記事は、読者のみならずシェフたちからも絶大な信頼を得ている。日々おいしいものを探求すべく新旧問わず様々な店を訪問。選者を務める「東京最高のレストラン」(ぴあ)も好評発売中。
この記事を作った人
撮影/今清水隆宏
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