【徳山酢】、【レフェルベソンス】~発酵のコラボレーション<ヒトサラ編集長の編集後記 第4回>
この連載では、編集後記的に「レストランのある風景」をスケッチしていけたらと思っています。
連載第4回めは、発酵がテーマ。和洋の名シェフのコラボレーションです。
いま一番いけてる料理って何だろう?
夏の夕べに、面白いディナーパーティに出かけました。
テーマは「発酵」。食文化の原点ともいえる、美味しくて体にいい、世界的ブームがお題です。
発酵食品は世界中にありますが、なかでも日本は世界有数の発酵大国。麹を用いた発酵が主な特徴で、蒸した米・麦・大豆などに麹菌を繁殖させることで生まれる味噌、醤油、酒・・・。日本の味の原点ですね。それがいまでは世界のレストランで積極的にとりこまれています。
そんな「発酵」をテーマにした、ふたりのシェフによるコラボレーション。ひとりは滋賀は余呉湖畔から鮒鮓の名店【徳山鮓】の徳山浩明シェフ、もうひとりは東京のフレンチ、【レフェルベソンス】の生江史伸シェフ。ふたりとも超がつくほどの人気シェフで、料理マスターズの受賞者、お店は予約がとりにくいことでも有名です。そんなふたりの一夜限りのコラボがあるということで、これはと出かけてみました。
主催は料理マスターズ倶楽部。会場となった【メゾン・プルミエール】には徳山シェフの師にあたる発酵学の権威・小泉武夫さんも来ておられ、日本が誇る発酵食文化の簡単なレクチャーもありました。
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まずは甘酒からのスタート
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猪、熊、鹿のテリーヌ
平安時代にあった、甘酒オンザロック
シャンパンで乾杯の後、まずは『甘酒』からのスタートです。米と麹です。
小泉教授は、古代からの甘酒の歴史を語り、これを現代でいう点滴であると指摘します。そのくらい栄養価が高く、平安貴族は夏に甘酒を氷室の氷でオンザロックにして飲んでいたとか。さっぱりすっきりした甘酒は、この会の食前酒にはもってこいだと思いました。
次に『山の一皿』と題されたテリーヌ。猪、熊、鹿のテリーヌ 山椒、山葡萄。余呉湖の天然はちみつは爽やかで、テリーヌの複雑な肉の味わいと食感をひきたてます。赤ワインは登美の丘ワイナリーの赤。このメルロー主体の赤ワインから前菜を始めたかったと徳山シェフ。パンからライムギとサワードウの酸味の香り。すでにテーブルには発酵香が満ちているかのよう。
すっぽん、湖のうなぎ、琵琶ます、川エビ『夏の湖の一皿』
『夏の湖の一皿』として、すっぽん、湖のうなぎ、琵琶ます、川エビが出てきます。湖のいいとこどりといった感じです。余呉湖のうなぎを徳山シェフ自身が新鮮なエサで釣るそうで、生江シェフも連れてってもらったということでした。
山椒がフレッシュで鰻の身の感覚もしっかり。燻製もそえてあって、スモーキーなうなぎ。琵琶ますのくるみあえは甘く、余呉湖の手長エビの塩味がいいアクセント。
すっぽんは、さっぱりとしてシャルドネに合うんです、と徳山シェフ。高山村シャルドネは、発酵後オーク樽(シュルリー)で半年熟成された、フレッシュで華やかな2014年ものを合わせます。
イタリアンな鮒鮓も
『川の一皿』として鮎が出てきます。鮎はまずコンソメからいただきます。鮎の香り立つ温かいコンソメでほっとします。
鮎は頭は揚げてあり、身は2枚にして骨付きは山椒の香りの立つうるか(鮎の塩辛)を塗って焼いてあり、もう一方は竹に挟んで蒸してあります。頭はカリッとがりがりにがく中は山椒のかおりたつ 片方は蒸して塩、寿司かつまみ感覚でいけます。ソースはマッシュルーム、きも、塩などを発酵させたもので、複雑な風味が鮎の持つ奥深さを表しているようです。
次の『野の一皿』では、蕪が登場します。これは生江シェフが定点観測として【レフェルベソンス】のメニューにも取り入れているもので、上品な甘みと温かさを湛えた逸品です。蕪がこんなにジューシーで旨いのか、と思います。ソースにはエゴマが使われ、パン、生ハムの発酵系があしらわれています。
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「川の一皿」として鮎
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「野の一皿」では、蕪
そして真打、『発酵の一皿』として熟鮓各種が出てきます。
ねっとり優しい発酵からすみや、パンのなかに鮒鮓を入れて入れて焼きオリーブオイル塗った鮒鮓サンド、鮒鮓、サバのなれずし、びわます、鮒鮓の硫砒巻きなどなど。さばのなれずしはトマトのピューレ、パルメザンでイタリアンな仕立てになっています。
鮒鮓は徳山鮓では蜂蜜をつけて出しているようですが、今回は生江シェフのアイデアでマンゴーソース、すだちの爽やかな夏の甘さになりました。
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「発酵の一皿」として熟鮓各種
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「森と海のつながりの一皿」として、鹿、ほたて、しそ、空芯菜、赤ピーマン
古今東西共通している、美味しくて体にいいもの
メインのお肉は鹿。『森と海のつながりの一皿』として、鹿、ほたて、しそ、空芯菜、赤ピーマン。ピーマンの黒ソースはピーマンを炭化して熟成したものだそうです。空芯菜は田んぼのわきにはえているということで米文化を象徴。柔らかく味わい深い夏鹿の風味を引き立てます。日本酒の七本槍が出され、もう十分に発酵ハイな状態になりました。
デザートは『夏の果実と魅惑の鏡湖』と題された、発酵の上澄みのアイスとコーヒー。
最後に今回の料理を用意してくれたスタッフが紹介され、全員がスタンディグオベーションをするほどの絶賛ぶりでした。【徳山鮓】も【レフェルベソンス】も多くのスタッフがこの場所に集まり、まさに店ごと移動してのコラボだったと思います。日本のトップシェフたちによる世界の“いま”の解釈は、とても刺激的で、美味しい試みでした。
最初から最後まで、何らかの「発酵」の要素が料理のなかに組み込まれ、2人の名人の和と洋の技法で、一皿ずつが新しい命を吹き込まれたかのような輝きをみせていました。
デザートは「夏の果実と魅惑の鏡湖」と題された、発酵の上澄みのアイスとコーヒー
発酵は古くからあった文化、自然の恵みそのもの。日本の伝統食の多くにこれが使われ、世界のレストランのメニューにも、発酵ものが積極的に取りこまれています。古くからある文化が世界的に見直され、新たな価値を生んでいます。
美味しくて体にいいわけですから、むべなるかな。
いま一番古くて一番新しい食文化に向かい合ってるような醍醐味を堪能した贅沢な夕べでした。
生江シェフの対談が放送と本で楽しめます。
「ヒトサラ・シェフズテーブル」
【L'Effervescence】
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電話:03-5766-9500
住所:東京都港区西麻布2-26-4
アクセス:表参道駅 徒歩12分店舗詳細はこちら >
小西克博(ヒトサラ編集長)
北極から南極まで世界を旅してきた編集者、紀行作家。
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