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更新日:2018.11.16旅グルメ 連載

甘糟りり子の「鎌倉暮らしの鎌倉ごはん」Vol.12/【オステリア ジョイア】イタリアン

今回ご紹介するのは、自家菜園があるイタリアンです。朝取れ野菜をつかったこの店の定番料理を食べると、その季節をしみじみと感じるという甘糟さん。何十年も毎日畑で仕事をしているオーナーが、毎朝”食べごろ”を見極めて野菜を収獲。それをシンプルに調理したまっすぐな料理は、野菜本来のおいしさを教えてくれます。

オステリア ジョイア

生きている野菜を、畑から直接お皿へ

 新鮮な野菜はおいしい。そんなあたり前のことを、改めて実感させてくれるレストランです。【ジョイア】は自分たちで営む畑を持っていて、朝そこで採れた野菜がメニューに並びます。調理法はいたってシンプル。だから、野菜の柔らかさや甘さがストレートに伝わってくるのです。

 鎌倉駅西口から歩いてすぐ。横須賀線のホームから見える位置にあります。明るくて、こじんまりとした空間です。訪れると、帰る時にいつもやっぱり鎌倉らしいお店だなあと思います。カジュアルで風通しが良くて、普通っぽいのに揺るぎない個性があって。いかにもこだわってます!じゃないのに、実はこだわっているというのがいい。

    年間100種類を超える野菜を育てている。これはブロッコリー

    年間100種類を超える野菜を育てている。これはブロッコリー

希望すれば、畑の見学をしたり作業の手伝いができます。

 先日、私も行ってきました。ほんの小一時間ですが、オーナー兼ソムリエの飯田さんとお話ししながら、レタスにからし菜や蕪、ルーコラやカーボロネーロなどを収穫。地道な筋トレのおかげで足腰が強くて良かったです。

 無農薬ですから、土を払ってその場でルーコラや蕪をかじらせてもらいました。塩やオリーブオイルがなくても充分です。太陽や雨が土に染み込んで、それが野菜の味になっている、そのことを舌で感じました。普段パソコンのキーばかり触っているせいか、土いじりは思いの外楽しかったです。文字通り、地に足がついていることの醍醐味が味わえます。

    畑仕事をする、オーナーソムリエの飯田博之さん

    畑仕事をする、オーナーソムリエの飯田博之さん

 その日のランチは、これらの野菜を使ったメニュー。まだ若いからし菜はあまりからくなく、野菜特有のゆるやかな甘みがあって驚きました。自分の手で収穫した野菜の味わいは格別でした。

 ジョイアの畑はあくまでも自分たちの店で使う野菜のため。農家のようにある程度の大きさまで育ててから出荷する必要はありません。好きな時期に収穫できます。同じ野菜でも、小さくて柔らかい頃としっかりした形になってからと、別の時期の味わいを経験できるのです。例えば、梅雨時に必ず食べに来る「青トマトのブルスケッタ」。まだ青いうちに収穫したトマトをリコッタチーズとともに味わいます。これも自前の畑ならではメニューでしょう。

    その日に使うだけを収穫

    その日に使うだけを収穫

 年齢とともに時間の経過が早くて、一年はあっという間です。そのせいか、季節を感じられる決まりごとが好きになりました。ジョイアで季節ごとの野菜を味わうのもその一つ。春の「生の空豆」と「花ズッキーニのフライ」は特に楽しみなメニューです。色々な技術の進化によって一年中たいていの野菜が手に入る時代ですが、それぞれの季節を知識ではなく舌で知っておきたい。飯田さんは、毎朝畑に立っていて、「味を足していく、作り込んだ料理を求めなくなった」そう。

    黒板にはその日の朝に取れた野菜の名前がずらり

    黒板にはその日の朝に取れた野菜の名前がずらり

 野菜のことばかり書きましたけれど、ワインもこの店の大きな個性。飯田さんに好みを伝えれば、100種類の中からぴったりのものをグラスでもボトルでも選んでもらえます。手頃なお値段のワインが揃っています。

 飯田さんは、かつて代官山の【フラッグス】にいらっしゃったそう。いわゆる“業界人”と呼ばれる人たちがカッコよかった70〜80年代、彼らの溜まり場だったレストランです。東京にはまだ「イタリアン」なんて分類がなくて、「地中海料理の店」と括られておりました。地中海に面する国、イタリア、ギリシャ、スペインなどの料理です。大雑把過ぎますよね。それでも、あの頃の代官山のトガった人しかいない空気は小娘だった私には刺激的でした。

    肩ひじはらず、くつろげる雰囲気の店内

    肩ひじはらず、くつろげる雰囲気の店内

 その後の飯田さん、鎌倉は鶴岡八幡宮のほど近くのイタリア料理【ア リッチョーネ】の支配人になり、2010年に独立して【ジョイア】を開業されました。最初は和田塚駅近くで営業しており、2016年、今の場所に移転。前のお店は今より暗めのシックな雰囲気で、入り口に大きな蓄音機があったことを覚えています。

    カーボロネーロを使った、「リッボリータ」

    カーボロネーロを使った、「リッボリータ」

 現在の厨房に立つ若き加藤シェフも同じく代官山の【リストランテ・アソ】から鎌倉にやってきました。二つの街に共通するのは、カジュアルダウンのおしゃれが似合うことでしょうか。

 先日は、東京からゴルフをしに来た友達と訪れました。ラウンドの後はあまり凝ったお店はめんどうくさい、でも鎌倉らしさは欲しいしおいしいお店がいいという、彼らのわがままなリクエストに頭を悩ませた結果、ジョイアを選びました。あちこち贅沢なレストランに行きつけているすれっからしたちが喜んでくれて良かったのですが、ワインが止まらなくなって、一人は終電を逃してしまいました。

    からし菜を使った、オレキエッテ

    からし菜を使った、オレキエッテ

 夏の終わりに大型犬と一緒に海に遊びに来た友達家族との食事もここでした。店の外にもテーブル席があって、犬をつなげておける場所があるのです。

 友人同士でも家族&子供連れでも犬と一緒でもくつろげる。八十を過ぎたうちの母は、買い物の帰りに一人でランチに寄ったりもします。

    メインのポルペッティにもたっぷりと野菜が添えられている

    メインのポルペッティにもたっぷりと野菜が添えられている

 かつて、お化粧室に、日曜のランチ時のバイトを募集した張り紙がありました。

 そこには、「交通費支給、賄い付き」。飲食業に並々ならぬ関心がある私は、週に一日だけならできるかもと思いまして、名乗りでてみました。だって短い勤務時間なのに賄い付きなんですよ。しかし、飯田さんに「使いづらいので」とあっさり三秒で断られました。まだ、あきらめておりませんよ!

オステリア ジョイア

  • 住所:神奈川県鎌倉市御成町13-40
    電話:0467-24-6623
    営業時間:11:30~14:30LO、18:00~21:30LO
    定休日:水曜日

著者プロフィール

  • 甘糟りり子
    作家。1964年横浜生まれ。3歳から鎌倉在住。都市に生きる男女と彼らを取り巻く文化をリアルに写した小説やコラムに定評がある。近著の『産む、産まない、産めない』(講談社)は5刷に。そのほか『産まなくても、産めなくても』(講談社)など現代の女性が直面する岐路についての本も好評発売中。鎌倉暮らしや家族のことを綴ったエッセイ『鎌倉の家』(河出書房新社)を9月に刊行、【11月18日19時より、TSUTAYA代官山にてトークショー開催予定】*イベント問い合わせ*☎03-3770-2525

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