三つ星を50年維持し続けるグランメゾン【トロワグロ】ミッシェル・トロワグロ氏が考えるアフターコロナの未来
いまだ世界中で、コロナウイルスの感染収束が見込めない今、各国のトップシェフたちはこれからの未来をどのように考えているのだろうか。レストランのニューノーマルを考えなければいけない今、変わるべきこと、そして変わらないことをメールインタビューした。
新しいプロトコルで始める新たなガストロノミーの形
【トロワグロ】は1968年以降、50年以上ミシュランの三つ星に君臨するフランス料理界屈指の名店。シェフ、ミッシェル・トロワグロは3代目オーナー・シェフを務め、いまは現場を息子のセザールに店を徐々に任せながらもチームをまとめている。以前は、ロアンヌの駅前で店を構えていたが、より良い環境を求め、2017年に自然豊かなウーシュへ移転。モダンなレストランでの素晴らしい食事、そしてコージーなオーベルジュの滞在とますます魅力を増し、世界中のフーディたちが目指すレストランとして常に憧れであり続けている店だ。
【トロワグロ】のガーデン。柿などの果樹が植えられ、小さな池もある。パーマカルチャーの概念に基づき、自然に寄り添いながら畑やハーブガーデンなどを少しずつ増設。
世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響は、こののどかなウーシュの三つ星レストランにも甚大なる影響を与えた。こうした未曾有の有事に世界のTOPシェフはどう考え、どう動くのか。去年訪れ、そのレストランが作る世界観と料理と、滞在の素晴らしさに感動した筆者が、メールで直接ミッシェル・トロワグロシェフに今の状況、これからについてを聞いてみた。
レストラン、オーベルジュのロビー。天井が高く、開放的だ。
――新型コロナウイルス感染拡大のため、フランスでは飲食店の営業制限がありました。期間と保証の内容を教えてください。
ミッシェル・トロワグロ氏(以下ミッシェル):期間は3月15日から営業停止となりました。うちの店は3ヶ月間休業しました。
フランス政府からの保証内容は、①80%の給与の補償、部分的失業保険の全従業員への適用。②消費税その他税、社会保険の支払い期日の延長。③0.3%の利子で国からの融資が受けられる(2019年の売上の30%までの額が限度) という3つの内容になります。
――それは十分な保証だったのでしょうか。
ミッシェル:いいえ、レストランがかなりの内部留保を持っていない限り足りません。なぜなら家賃、テクニカルなメンテナス費用、外部契約をしている会社への報酬、建物と庭の維持費など膨大な経費がかかるからです。
ミッシェル・トロワグロ氏。現在は厨房を仕切る長男のセザールをサポートする形でチームをまとめる。
――休業中、従業員を守り、レストランを維持するために工夫したこと、実施したことを教えてください。
ミッシェル:一人暮らしで家に篭り、不安がっていたスタッフもいましたので、外出禁止中も定期的に集まり、一緒に庭の手入れをしたりしました。なるべくいつもどおりを心がけ、絆を保ち、気持ちを保つように心がけていましたね。もちろん感染予防をきちんとしながらです。リオープンに際しては、当初からフルメンバーで臨むつもりでした。
――休業中、チームで再オープンについてどんな準備をしていましたか?
ミッシェル:1ヶ月前から、サービススタッフの上層部とやり取りを重ねて、リオープンで障害になるものを洗い出し、新しいプロトコルを構築しました。すべてのリスクを検証し、お客様とスタッフの安全を確保するように考えました。私たちのホールもキッチンもかなり面積があるため、ソーシャルディスタンスの対策をとってもある程度のキャパシティをキープできたのが幸いでしたね。スタッフ全員にも新しいプロトコルが配られ、各人がそれを守るように、しっかり共有しました。
ガラス張りのダイニングは、モダンな雰囲気ながらくつろげる。
――”新しいプロトコル”は具体的にどんな内容なのでしょうか。
ミッシェル:とてもたくさんあります。すべて申し上げましょう。
①ア・ラ・カルトメニューの品数を減らす。②業者の納入に対して厳しい衛生基準を求める。③スタッフ全員終日マスクを着用。④まかないはすべて個別の密閉容器で配り、まかないの時間を分散させる。⑤15分に1回手指を消毒する。⑥お客様のキッチン見学や食事体験の一時的中止。⑦紙のメニューは一回きりの使用とし、お客様にプレゼントする。⑧ワインリストはお客様の前に出すまでの24時間隔離(誰も触らない)。⑨お客様に来店までの道中、マスクの着用をお願いする。⑩朝食ビュッフェの一時的中止。⑪部屋は利用ごとにしっかりと殺菌消毒する。⑫チェックアウトは12時。チェックインを16時からに変更。⑬ホテルのスタッフはマスクに加えて手袋を常時着用。⑭新聞や雑誌の配布を行わない。
以上です。いま現場を仕切る長男のセザールも、このような厳しい衛生管理を求められるパンデミックが起こるとはまったく思っていませんでした。
ある日のザリガニを使った美しい前菜。クリアなソースがすっきりと全体をまとめる。
――世界のガストロノミー業界全般に言えると思いますが、海外からのゲストがしばらく来られないことは大きな打撃となるでしょうか。また、海外ゲストが来ない分、国内のゲストを増やすための努力はしますか?
ミッシェル: トロワグロの顧客は70%がフランス人です。ルレ・エ・シャトーメンバーで三つ星レストランとしては珍しいでしょう。特に地元ロアンヌの人々と親しい関係にあり、地元のいろいろな団体の集まり、家族の食事会。若者と退職者限定の格安コースなどの需要が年間を通して人気であることも助かっています。
EUでの往来ができるようになり、ベルギー人、スイス人はおそらくフランスに来るはずです。夏の予約は今のところ好調に埋まってきていますが、アメリカ人、日本人が海外旅行ができないとすれば、むしろ秋の方が危ういです。少しでもフランス人の方が足を運んでくれて、外国人顧客の穴を埋めてくれることを望みます。
ヒメジの一皿。クリアなのに凝縮感がある、酸味がきいたソースはトロワグロならでは。
――アフターコロナのガストロノミーの世界はどう変化していくと思いますか。
ミッシェル:ガストロノミーの行くすえについては、個人的には心配していません。ガストロノミーの未来は分かち合いたい、伝えたいという気持ち、それを実行できるかという私たちの能力によるのではないかと思います。
感覚が鋭く、周りの人々をリスペクトできるプロフェッショナル、お客様に優しい気持ち、共感を与えることができるプロフェッショナルは、信頼できる協力者(コラボレーター)や忠実な生産者を引き寄せるものです。私たちのような家族経営のメゾンは、なにかあったら身を寄せたいと思う大切な場所になってゆくと思います。
古い豪農の家を買取り、もともとあった2棟をガラスのダイニングで繋げた。昔の建物は、ゲストルームになっている。
撮影/小野祐次 インタビュー翻訳/勅使河原加奈子
この記事を作った人
取材・文/山路美佐(ヒトサラ副編集長)
幼少時代から筋金入りの食いしん坊。丸の内の総合商社に入社するも食への探究心を抑えきれず退職しイタリアに短期料理研修の旅に出る。帰国後世界文化社に入社し「家庭画報」ほかの雑誌で食・旅・アートの編集を担当。2017年3月から現職。美味探求の旅は30カ国以上にのぼる
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