新たなステージで、次世代へも思いを繋ぐ成熟の第二章がスタート |【レストランローブ】六本木一丁目
フランスや日本の有名店で腕を磨いてきた今橋英明シェフとパティシエ平瀬祥子さん、数々の国際コンクルーで優勝経験を持つベテランソムリエ石田博氏。才能ある3人で繰り広げる美食の舞台【レストランローブ】が、8年の時を経て2023年6月に東麻布から仙石山ヒルズに移転しました。「バトンをつなげる場でありたい」と若手も育てながら成熟へと向かう新たな店舗への思いを伺いました。
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成長を感じるインテリア
自然からインスパイアされる料理とデザート
世界を旅するワインペアリング
「変わった」ではなく、成長を感じるインテリア
2023年6月、8年の歴史を刻んだ東麻布からアークヒルズ仙石山森タワー内に移転した【レストランローブ】。仙石山は都心ながらも緑豊かな環境にあり、自然からインスパイアされる料理、デザートを作る今橋英明シェフとパティシエ平瀬祥子さんがこの場所を選んだことに納得できます。
開放的な空間は、東麻布の時のコンセプトをそのままに拡張したといった印象
店内に入ると、泡をモチーフにした壁やクロスの色、ウエルカムオブジェをはじめとしたテーブルセッティング、そして舞台のようなアイランドキッチンが目に入ってきます。
「お客様が“変わっちゃったね”と感じるリニューアルにはしたくありませんでした。前のお店の延長線上にありながら、成長を感じてもらえる空間作りを目指したんです。空間を広げ、個室を作り、スタッフも増やしてお客様の満足度を上げるための移転ですから」と今橋シェフ。
メビウスの輪をモチーフにしたウエルカムオブジェや、壁にかかるアートは、実は3Dプリンターを使って制作されている
「スタッフの充実で、僕や平瀬がすべての工程をやるというのではなく、それぞれにポジションを与えて責任を持ってやってもらうことができるようになり、若手をちゃんと育てることができる環境が整ってきました」と新店舗での意気込みを話す今橋シェフ。
今橋シェフとパティシエでありマダムの役割も果たす平瀬さんの監督の元、総勢10人のスタッフたちがチーム一丸となってレストランを盛り上げている。その活気ある働きぶりを眺めるのも楽しい
「サービスが手一杯なときは、シェフや私をはじめキッチンスタッフが料理を運ぶこともあり役割の境界線は曖昧にしています。チームとして働いていると、それぞれが自分で何をするべきか考え、行動できる人になっていくのではないかと思っています」(平瀬さん)
「自分たちがやってきたことを押し付けるのではなく、教えるべきは“考え方”だと思っています。働きやすい環境でスタッフの生活を守りながら彼らが社会人、料理人、サービスマンとしての土台を作る場所でありたいですね」(今橋シェフ)
「東麻布でお店を始めた時の気持ちと何も変わりはないのですが、より心地よい空間になったことでレストランの価値を高められることを嬉しく思っています」と話す平瀬さん。アイランドキッチンの奥にオーブンの熱の影響を受けないガラス張りのアトリエも併設。「溶けやすいデザートも万全の環境で準備をすることができるようになりました」と本当に嬉しそうです。
客席に目を配り、ベストタイミング、ベストポーションで作りたてのデザートを提供する平瀬さん
自然からインスパイアされる料理とデザート
【レストランローブ】の料理は、自然や環境、季節の風景、生産者、そして料理人が積み上げてきた経験などいろいろなつながりから生まれるストーリー性を大事にしています。
また今橋シェフは一時期、料理人をしながら農業にも従事していた経験を持ち、自然を敬愛し、生産者を思う気持ちは人一倍熱いようです。シェフが働いていた鎌倉の野菜農家・加藤宏一氏から届く多種多彩な野菜、ハーブをその野菜の特性に合わせた仕込み、料理で楽しませてくれるのです。
なかでもスペシャリテの一つとして人気なのが土佐あかうしを使ったタルタルです。土佐あかうしは、実は今橋シェフの父親が高知出身ということもきっかけとなって牧場を訪ね、生育される環境や生産者のこだわりに惚れ込んだとのことです。
『土佐あかうし 旨み』 軽く炙った土佐あかうしのタルタルに昆布のゼリーシートをのせ、ビーツのピクルスや赤紫蘇、ゆかりなどをトッピング。16,500円からのコースの前菜
海の見える斜面に放牧されている土佐あかうし。「眼下の海では牡蠣が漁れると聞いて、昆布のゼリーシートの下に、牡蠣のムースも忍ばせています。海と山、生き物の循環といったことも料理の発想のベースになっています」と今橋シェフ。
お皿の上は、お肉の色のつながりでビーツ、赤紫蘇、たで、ゆかりを使った赤のコーディネートに。もちろん、香りや食感などもセレクトのポイントになっていますが、さまざまなつながりの連想で一つの物語がお皿の上に誕生するというわけです。
『夏牡蠣 鎌倉野菜』。多彩な季節の野菜と牡蠣のムースで山と海を満喫。9,900円からのコースの前菜
こちらは、夏のスペシャリテ。ズッキーニ、枝豆、モロヘイヤ、胡瓜、つるむらさきなどの夏野菜を生のまま、あるいは茹でたり、ソテーしたりとそれぞれにあった下拵えを施してからたっぷりのバジルを使ったピストゥのソースを絡め、すだちの酸も効かせて爽やかな味わいに仕立てています。その上に夏牡蠣のムースをのせ、昆布だしのゼリーでカバー。海の岩場を連想させるようなお皿を使うなど、料理とアートの一体感も今橋シェフならではのスタイルです。
メイン料理となる小鳩のグリルは、仔鳩を木片や藁で軽く香りをつけながら炭火焼きにして、鳩の肝のソースで深みのある旨みをプラスしています。小鳩の下に敷いたのは骨のだしや炭のオイルスパイスなどを使って炊いた黒豆。フランスではレンズ豆で合わせるところを日本の食材を使うことで親しみやすい一皿に仕立てられているのです。
『小鳩 有機黒豆』。さっぱりとした仔鳩を日本の黒豆と共に。25,300円のコースのメイン
「フランスの文化と日本の文化が響き合い、新しい美味を生み出すことが【レストランローブ】のフィロソフィー」と話す今橋シェフの言葉は、お料理を食べることで理解することができます。
コースのフィナーレを飾るデザートの前には、新しいテーブルクロスが重ねられ新たな舞台が用意されます。
「今、この瞬間のおいしさを味わってもらうためにベストを尽くすことを心がけている」と話す平瀬さん。今橋シェフの料理の余韻に自然につながっていくよう、軽やかなテクスチャー、爽やかな味わい、そして美しい盛り付けで楽しませてくれます。
また、季節はもちろん、その日の天候や気候、そしてゲストの食べている表情にも配慮して、臨機応変にデザートを変えることもあるそうです。
晩夏から初秋のデザートとしてゲストを驚かせる平瀬さんのスペシャリテの一つがこちら。
『茄子 カカオ』。芳ばしい焼き茄子がなんとアイスに! 25,300円のコースのデザート
やわらかなチョコレートのシフォン、ロースマリーの香りのクリーム、オレンジのマーマレード、そして茄子の葉っぱをイメージしたチュイルで茄子畑を表現しているそうです。
現代アートのような盛り付けで瞬間の美も楽しませてくれる平瀬さんのデザート。柑橘風味の砂糖菓子、緑茶、ミント、ゆずを使ったアイス、わらび餅などで儚い口溶け軽やかな味わいです。
『梨 柑橘』。柑橘の風味で食後感を軽やかに演出。9,900円からのコースのデザート
平瀬さんは、2020年のゴ・エ・ミヨでベストパティシエ賞を受賞。’22年には金沢に【パティスリーローブ花鏡庵】を開きました。そのドキュメンタリーは人気TV番組『情熱大陸』でも特集され、話題に。レストランデザートだけでなく活躍の場を広げている注目のパティシエです。
世界を旅するワインペアリング
東麻布時代からワインの監修やサービスをしてきたベテランソムリエ石田博氏。ワインのセレクトはフランス・ブルゴーニュ地方のグランヴァンを用意しつつも、世界を視野に品質の高いワインをセレクトしています。料理を際立たせるペアリングでは、頭の中で世界旅行を楽しみつつ新たなおいしさに遭遇することができるのです。
日本のワインならではの紫蘇のような香りを持つグレイスのロゼ、しっかりとしたミネラル感が特徴のギリシャワインなどワールドワイドなラインナップ
ワインのセレクションやユニークなペアリングに加え、温度と香りにこだわるサービスも心がけているそうで、料理が出る少し前にグラスに注ぎ、その上に蓋をすることでグラス内に香りを充満させてからゲストの元へ運ぶようにしているとのこと。料理とワインの味わいはもちろん、香りマリアージュも瞬間の感動を楽しませてくれるのです。
お話を伺ったアシスタントマネージャー/ソムリエの宮沢里香さん。石田氏は次世代へバトンを渡せるように若手の活躍を支援する縁の下の力持ち、というスタンスに
隠れ家的だった東麻布から、ついに表舞台へと羽ばたく規模へと成長し、グランメゾンの風格をも備えた【レストラン ローブ】。公私共にパートナーを組む今橋シェフと平瀬さん、経験豊かなソムリエ石田博氏筆頭に、互いを高め合いながらチーム一丸となって進化を目指しています。
2018年からミシュラン1つ星を獲得、ゴ・エ・ミヨでの評価も得ている【レストランローブ】。新たな場所でさらに成長をする姿に期待がますます高まる
「レストランは長く続けてこそ、と思っています。私たちもお客様も心豊かに過ごせるお店になるようこれからも成長し続けたい」と真摯に話す今橋シェフと平瀬さん。レストランの在り方、役目などを深く掘り下げ「よりよいもの」を実現するために努力し続ける人柄にも感銘。その成長を感じられるよう通い続けたいレストランです。
撮影/今井 裕治 取材・文/藤田 実子
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