有名シェフたちが医療従事者を応援! 日本でも広がる「お弁当」支援の輪
緊急事態宣言を受け、休業を余儀無くされるなど厳しい状況に立たされているシェフたち。こんな今だからこそ、できることは何かー。新型コロナウイルス感染者患者数の激増にともない、厳しい環境下で働かなくてはいけない都内の医療従事者たちへ、シェフたちがお弁当で支援する活動が広がっている。自分たちが今、できることを考え、スピーディーに実行したシェフたちを取材した。
一人のシェフの声が、1週間で形になった
『Smile Food Project』
日々の報道でも明らかになっていく、過酷さを増す医療現場の状況。そうした最前線で働く人々につかの間の楽しみを届けたいー。そんなエールの波は、世界中の国で様々な形で送られている。そのなかでも今、注目されているのがトップシェフたちによる、医療従事者への”食”の支援だ。
食事もままならない医療現場へ栄養たっぷりの美味しい食事を届ける。世界に続き、日本での支援の先駆けとなったのが「Smile food project」という、都内有名シェフや企業の有志が集まった団体だ。
徹底した衛生管理下の中で、お弁当を製作する【シンシア】石井真介シェフ
「3月中旬あたりから、アメリカ、フランス、イギリス、NZ、ベルギーなど、世界各国で、シェフたちが医療機関への食事を差し入れるプロジェクトが立ち上がっているニュースは耳に入っていました。何かできないかということを『シェフス・フォー・ザ・ブルー』(海洋資源を守るシェフの一般社団法人、以下C-BLUE)のメンバーでも話は出ていたんです」とはC-BLUEの代表、そして「Smile food Project」事務局を務める佐々木ひろこさん。
その思いが急速に現実になるきっかけとなったのは、C-BLUEのメンバーでもある、ミシュラン一つ星レストラン【シンシア】オーナーシェフ石井真介さんが4月6日にFacebookで投稿したメッセージだった。
「想像も絶する状態にあるフランスで、現地の日本人シェフ達が医療機関に差し入れをしたとの事。誇らしいです!僕たちもやりたい!!だって今日本でも感染が1番広がってるのって医療機関従事者ですよね? 命がけで働いてくれる人達に何かしたい!」
ある日のお弁当。栄養のバランスを考え、見た目もカラフルに気持ちが明るくなるような内容を考えているという
石井さんがFBで上記の文面とともに紹介していたのは、フランスのニュース動画だった。ディジョンの病院にミシュラン一つ星【シャトー・クルバン】の木下隆志さんが料理を差し入れ、彼らに謝意を評したことが報道されていたのだ。
緊急事態宣言を受けて、休業を余儀なくされている日本の飲食店のシェフたちも、この状況でも何かできることはあるのではいか。そう思い、心のうちをこう吐露した。
「僕たち料理人は料理をしてないとダメなんです......。まぐろのように前に進まないと死んじゃう生き物。うちで休んでたら気持ちが病んでどんどん負のスパイラルに入っていきます。自分のお店のテイクアウトやデリバリーで少しでも稼がないと行けないけれど、それと同時に何かできたらいいな」
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シェフのメッセージを添えて梱包
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お弁当にはスイーツがつくときも
その投稿を見てすぐに反応したのが、ミシュランの星付きレストランなどを経営している株式会社サイタブリア社長石田聡さんと、広告代理店のNKBだった。シェフがお弁当を作る場所や運搬は、サイタブリアのケータリング事業のプラットフォームを使い、WEBサイト製作はNKBが担当、料理を作るシェフはCFBのメンバーで、と役者が揃い、なんと2日後の8日にはキックオフのミーティングが行われ3団体共同プロジェクトとして始動。支援先の病院は石田社長が知り合いを辿って話をつけ、13日が都内病院に納品初日と、そして16日には公式サイトオープンと、わずか1週間程で”有言実行”となった。
この日、お弁当の製作に集まったシェフたち。左から、米澤文雄さん、田村亮介さん、川田智也さん、石井真介さん (写真:©︎木村拓)
現在、料理は【シンシア】シェフ石井真介さん、サイタブリアのケータリングチームをはじめ、C-BLUEのメンバーでもある【The Burn】シェフ米澤文雄さん、【慈華】シェフ田村亮介さん、【茶禅華】シェフ川田智也さん、【鮨えんどう】遠藤記史さんらが持ち回りで担当。4月15日には東京医科歯科病院に120食、4月20日には国立国際医療研究センターに200食のお弁当を届けた。大きく報道されたこともあり、続々と問い合わせも入っているという。
「今は、かかる費用はすべて持ち出しですが、企業スポンサーも少しずつ集まり始めています。今後はクラウドファンディングで資金を調達する予定です」と佐々木さん。
今回のコロナ禍で休業を余儀なくされているシェフたちが、『料理をする喜び』を改めてこの活動を通じて感じているという。料理人の原動力でもあるそうした”喜び”を必要としている人に届け、それを受け取った人が食べて幸せな気持ちになる。
”喜びの連鎖”は様々な人の心に温かい光をもたらしている。
『Smile Food Project』お問い合わせ先
*支援企業の募集をしています。詳細はHPへ
*医療機関のお申し込みも下記HPから
若手パティシエとシェフがタッグを組んで医療支援
『THANKS OBENTO PROJECT』
キャップに手袋、と細心の注意を払い弁当を製作していくシェフたち
医療従事者への支援への取り組みは、若手のシェフたちの間でも始まっている。ボランティアで集まったシェフたちによる「THANKS OBENTO PROJECT」がそれだ。
プロジェクトの発案は、株式会社eat creator所属のパティシエ・大山恵介さん。大山恵介さんは、前出の石井真介シェフの店【シンシア】でパティシエをつとめたのち独立。自身のパティスリーを5月にオープンする予定の人物だ。そんな大山さんが、刻々と深刻さを増す新型コロナウイルスで非常事態に面している社会に、食に携わる人間として何かできないか、と会社のメンバーに問いかけたことがきっかけだという。
そのなか行きついたのが、医療従事者をはじめとして、「コロナウイルス感染リスクがありながらも働き続けている人々」へお弁当を提供するというアイデア。緊急事態宣言を受け、店は休業を余儀なくされており、シェフの労働力を提供できる。さらに、契約している生産者から届く行き場を無くした食材も有効活用できると考えたのだ。
ある日の『ピラフとマグロのピカタ弁当』。貝のピラフ、マグロとアボカドのピカタ、エビとケールのサラダ、菜の花と蕪のグラタン、ラタトゥイユ カレー風味など
大山さんに賛同した、同じ会社の仲間である【Chompoo】シェフの森枝幹さん、【REVIVE KITCHEN AOYAMA】シェフの井口和哉さん、薬師神陸さん(元【SUGALABO】シェフ)、そして若手パティシエ集団「Sugar」のメンバーらと話を重ねた。そして、薬師神さんは食材の調達、大山さんや森枝さんは医療関係者にヒアリングをし、搬入先を選定。そうして役割分担をしながら一つずつ課題をクリアにしていった。
形にしていく中で、自分たちの思いを届ける難しさにもぶつかった。「各医療機関が感染リスクの軽減を図り、出入り業者を削ったりしている動きの中で、受け入れを拒否する病院もありました。自分たちが思った以上にセンシティブなことなのだと実感しました」と森枝さんは語る。
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プロジェクトに携わるシェフたちから直筆の感謝のメッセージを募り、印刷して同封
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そこで、届け先にも安心してもらえるように、徹底的な衛生体制を確立した。衛生管理担当者を起き、作業前の検温、手洗い、うがいを徹底し、メッシュキャプ、マスク、手袋を着用の上、定期的な換気を行っている環境下で調理。衛生リスク低減のため、2種類のお弁当を用意し、公共の交通機関は使わず搬入は車を用意した。
調理は休業中の店舗で調理責任者を置き、持ち回りで時間が取れるシェフたちが集い、お弁当を作る。最初は自社のレストランでの余剰食材を使っていたが、趣旨に賛同して社外のレストランのシェフたちや知り合いの生産者、取引先企業からも食材が届くようになった。
一度に納品するのは、30個〜100個のお弁当とチョコレートバー。都内病院だけでなく、シングルマザーのシェアハウス、こどもフードパントリーなど、コロナの影響を受けて、栄養のある食事を必要とする場所に希望があれば届けている。
ボランティアに参加しているシェフたち。左上から時計回りに、森枝幹さん、井口和哉さん、薬師神陸さん、大山恵介さん、松岡JACK誠也さん、西恭平さん。そのほかに、田村勇馬さん、若手パティシエグループ「Sugar」より眞砂翔平さん・上妻 正治さんらが参加
「どんなに大変な状況の中でも、『おいしいもの』は食べる人を幸せな気分にすることができると僕たちは信じています。一人でも多くの方が、食べることで笑顔になれるようシェフ、パティシエである僕たちは、僕たちなりのやり方でコロナと戦います」と語るチームの面々。その気持ちは、コロナ禍で厳しい状況に立たされている人々にひとときの幸せをもたらしている。
『THANKS OBENTO PROJECT」お問い合わせ先
問い合わせはメールにて→thanks@ec-corp.jp
*お弁当・お菓子を受け入れてくださる医療関係の方、最前線で取り組んでいらっしゃる方がいましたらご連絡ください。(なお、食材・人材の関係で、提供できる数に限りがあります。あらかじめご了承ください。)
*飲食店経営者様、食材メーカー様からの食材の提供も受け付けています。
この記事を作った人
取材・文/山路美佐(ヒトサラ副編集長)
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