薪火から生まれる、新感覚のフレンチ|銀座【薪焼 銀座おのでら】
ここ数年、ブームになりつつある‟薪焼き”料理。薪から立ち上る炎は調理のための火力にもなり、ときに調味料ともなる。自身がシェフを務めた店に半年でミシュランの星をもたらした実力派シェフが、炎を操り、新感覚のフランス料理を生み出す。薪釜を目の前にしたカウンターで夢のひとときに酔いしれよう。
焼く、蒸す、燻す、焦がす…炎と食材の共演を、繊細な料理に
ここ1〜2年、薪焼きがちょっとしたブームを呼んでいる。赤坂【ヴァッカ・ロッサ】に端を発し、代官山【TAKUBO】や西麻布【FORNO】、そして調布【Maruta】など、薪焼きをウリにしたレストランが続々とオープン。薪火でダイナミックに焼き上げる炎の料理が好評のようだ。薪焼き=肉焼きのイメージが強い中、より幅広く薪焼きの可能性を追求しようとするレストランが昨年7月にオープンした。東銀座【薪焼 銀座おのでら】がそれ。古くて新しい21世紀の薪焼き料理を、日々模索している。
薪火を正面に見るカウンター席は8席。舞台のような臨場感も魅力
「薪火は人類が初めて手にした熱源。最も原始的な料理法ですが、それだけに奥が深い。数値化できないだけに面白さがありますね。」そう言って目を輝かせるのは寺田惠一シェフ、35歳。
フランスの星付きレストランを始め、モダンフレンチの先鋒【カンテサンス】や創作和食の雄【傳】などで研鑚を積み、白金【ティルプス】では、僅か2ヶ月でミシュランの一つ星を獲得した俊英だ。この店では、これまでの経験を生かし、様々な角度から薪火料理にアプローチしようとしている。
寺田惠一シェフ、35歳。クラシックなフレンチからイノヴェーテイヴな料理、炭火焼まで幅広い料理を経験
キャビアと昆布のタルトのアミューズに始まるコースは、全部で10品。そのうち薪火を使わない料理はアミューズぐらいのもので、後の料理は、全て何かしらの用法で炭火が使われている。薪焼きといえば、肉や魚がただ焼いただけの姿形で提供されるものと思っていたら大間違い。例えば鰻の一皿。腹を裂いた鰻は熾火で炙って白焼きにした後、ざっくりと炒めたマコモ茸と共に木の芽ベースのジェノヴェーゼソースで和えて提供するといった塩梅だ。蒸さずに地焼きにした鰻はプリプリの歯ごたえが小気味よく、木の芽の風味と仄かな薪火の薫香が渾然となって鼻腔を擽る。和とも洋ともつかないオリジナルな味わいが興味深い。
鰻の白焼きをマコモ茸と共に木の芽仕立てジェノゥェーゼであえた一皿
また、ランド産の鳩は大胆にも丸焼き。皮目に香ばしさを纏わせたら、熾火を操りつつ、時間をかけて休ませ休ませ焼き上げていく。その間、じんわりと薫香に包まれていくわけだ。焼きがった鳩は、真紅の肉も美しく、口にすればしっとりと舌になじむ食感には、溜息が漏れる。半身に切り分け、内臓のソースで仕上げるあたりはフレンチさながら。鉄分を含んだ鳩ならではの濃い旨味に薪の薫香が絶妙なマリアージュを見せる。まさに薪火を使いこなした一つのフレンチの一皿に昇華されている。
焼き上がった鳩は、半身(一人前)にカット。見事なロゼ色の断面が現れる。合わせたソースは、鳩の内臓とコニャックを合わせたもの。付け合わせにはセップ茸や万願寺唐辛子など
薪の火は炭火と違って炎が優しい。炭火が直線的で乾いた火だとしたなら、薪火は水分を含んだゆらゆらとした柔らかな炎、とでも言えばいいだろうか。それゆえ、素材が乾かずウエットに仕上がるメリットがある。とはいえ、極めてナチュラルな熱源ゆえ、○度で何分といったデータ化がしにくいのも事実。しかし、寺田シェフはそれさえも楽しんでいるかのように見える。
薪は、いろいろ試した結果、クセのない楢の木を使用
「薪焼きは、いい意味でムラができるんです。オーブンなどと違い、均一に火が入らず、一筋縄ではいかないところがありますが、そこがまた妙味とも言えますね。」とのこと。じゃがいもやビーツなどの根菜は、ストゥブ鍋に入れて薪火にかけて蒸し焼きにしたり、蒸した鮑は薫香をつけるために軽く炙ってからムニエルに。また、全粒粉と雑穀の自家製パンも、同じくストゥブ鍋に入れ遠火の熾火でじっくり小1時間ほど薪火にかけ焼き上げていくーなど、柔軟かつバリエーション豊かな薪火使いが見事。目と舌を飽きさせない。
しっとりとした舌触りが後を引くバスクチーズケーキ。デザートに出る他、テイクアウトもできる。一台4500円
赤々とゆらめく炎がほの暗い空間に映える店内はオープンキッチン。舞台を思わせる厨房と席の配置が非日常感を引き立てる。
シェフがかける薪のマジックは、デザートまでも貫かれている。ほのかな薪の香りが薫る薪焼きバスクチーズを頂く頃には、心もお腹もきっと満たれているに違いない。
撮影/J-P de Rodoriguez Ⅲ 取材・文/森脇慶子
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