唯一無二の甲殻類専門店【うぶか】加藤邦彦さんが選ぶ日本酒5選|SAKENOMY
全国1300軒を超える酒蔵や数万を超える日本酒情報をお届けしている、日本酒ソムリエアプリ「SAKENOMY」。日本酒をよりおいしく、楽しんで欲しいと、飲食店のプロが日本酒と料理の合わせ方のコツを提案。今回は海老と蟹を主役にしたコースで甲殻類好きを魅了する【うぶか】の店主、加藤邦彦さんが登場。誰よりも海老や蟹の美味しさの可能性を知っている、加藤さんが提案するペアリングとは?
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1.『縞海老 葡萄酢のジュレ』 × 「風の森 愛山 807」
2.『酔っぱらい海老』 × 「手取川 純米大吟醸 古酒 梅舞花 -1996-」
3.『花咲ガニ 椀物』 × 「鄙願 大吟醸」
4.『ズワイガニ 焼き茄子 万願寺唐辛子』 × 「満寿泉 R-KIMOTO 純米大吟醸」
5.『車海老味噌フライ』 × 「今錦 年輪 純米大吟醸」
【うぶか】
「日本人は甲殻類が好き」と言われるのは、海老や蟹を使った料理の種類の豊富さからもみてとれる。海老フライやピラフ、蟹クリームコロッケは洋食の“スタメン”ともいえる存在で、老若男女を問わずに大人気。中華でも上海蟹のシーズンを心待ちにしているファンは多いし、旬の蟹を目当てに地方へ足を運ぶ人もいる。甲殻類には、それだけ人の心を熱狂させる魅力があるのは間違いないが【うぶか】をオープンさせた10年前のことを、店主の加藤さんはこう振り返る。
「とにかく僕が蟹と海老が大好きで、自分でお店を始めるならその二本柱でいくとずっと決めていました。専門性の高さは武器になるけれど、リスクにもなり得るとアドバイスをくださった方もいて、それでも自分が好きな食材とどこまで向き合っていけるか挑戦してみたかったんです。蟹は国内だけでも800種が生息していると言われていて、海老も昔から日本人になじみが深い。自分にとって、こんなに深掘りしがいのある食材はほかにはないと思いました」。
来る日も来る日も甲殻類と向き合う日々。甲殻類は食べ手が“格闘”する食材というイメージを持つ人も多いが【うぶか】では、加藤さんが厨房で朝早くから海老や蟹の“攻略法”をじっくりと練っている。加藤さんが日本酒に夢中になったのは、そんな「好きになったらとことん一途」という性格もあってのこと。そんな生まれもっての“性分”と親交の深い四谷【鎮守の森】(現在閉店)の店主との出会いが「日本酒をもっと知りたい」という思いに拍車をかけた。
「同じお酒でも温度がわずかでも違うとガラリと味が変わることに驚きました。そのまま飲んで美味しいお酒もあれば、お燗にすることでびっくりするくらい味がふくらむお酒もある。温度帯によって風味がまったく変わるのは出汁と同じと気づいたときには日本酒にすっかり魅了されていました。海老も、たとえば、牡丹海老は1~2日寝かせることで旨みを引き出すのですが、車海老は活きたのを1時間以内に捌かないと風味がどんどん落ちていくんです。料理も日本酒も、経験を重ねると見えてくることがあるのは似ていると思います」と加藤さん。
「当たり前とされてきたことがずっと変わらずにいいということはたぶんなくて、もっと別の方法はあるんじゃないかな、と考えてしまうのは自分の性分なのだと思います(笑)。カニを茹でるのも、普通は2~30分かけるところを僕は大体10分くらい。そんなに短時間でいいの? と聞かれることもありますが、高温短時間で茹でると味の締まりが違ってくると気付いたときがあって。日本酒も固定観念にとらわれない造り手の方が増えてきて、その多様性が新しい日本酒のファンを生んでいると思うんです。僕は香りも料理、だと思っているのであまり香りの主張が強いタイプより、味に透明感があって、旨みや酸味のバランスがいいお酒に惹かれます。この料理に合わせるなら、ちょっと温度を変えてみようとか、試行錯誤しながら料理と日本酒のベストな相性を見つけたいです」。
1.『縞海老 葡萄酢のジュレ』 × 「風の森 愛山 807」
「新鮮なうちに殻からはずし、塩をして2日寝かせた縞海老に巨峰やピオーネ、デラウェアなどを合わせたひと皿。甲州ぶどうのワインビネガーで作ったジュレを添えているので、フルーティでさわやかな酸味を感じるお酒と相性がいいと思っていたのですが「風の森 愛山 807」は、余韻の重なりかたもイメージ通りでした。心地の良い発泡感のなかにとてもきれいな果実の風味があり、鼻を抜ける香りは、ジューシィな葡萄そのもの。キレのよさも魅力で、寝かせたことによって引き出した縞海老の甘みを上品に引きたててくれます」(加藤さん)
2. 『酔っぱらい海老』 × 「手取川 純米大吟醸 古酒 梅舞花 -1996-」
「中華料理では紹興酒漬けにする酔っぱらい海老を日本酒でアレンジ。「今錦」の特別純米生原酒に半日漬けた牡丹海老に、20年かけて熟成させた手取川の古酒、「手取川 純米大吟醸 古酒 梅舞花 -1996-」を合わせると、豊かな旨みと甘やかな香りが口いっぱいに広がります。熟成酒と聞くとどっしりした味をイメージしがちですが、このお酒は単体で飲んでもはっとするほど美しく、透明感のある味わい。卵を抱いたメスの牡丹海老はプリッとした食感と甘みの強さが特徴。豊かな旨みと楚々としたキレのよさを兼ね備えた「手取川」と「今錦」。牡丹海老の相性の良さは格別です」(加藤さん)
3. 『花咲ガニ 椀物』 × 「鄙願 大吟醸」
「漁獲量が少ないことから幻とも言われる花咲ガニは、繊細な旨みを楽しんでいただきたいので、羅臼昆布と鮪節からとった一番出汁でお椀に。香りが立ちすぎず、それでいてふくよさかのあるお酒を合わせたいと思ったときに真っ先に「鄙願 大吟醸」が思い浮かびました。味に丸みがありながらほどよく酸がのっていて、お酒単体で飲んでもしみじみと美味しい。ずっと飲んでいたいと思う心地よさがあります。鮮度のよい花咲ガニは身がシャキシャキと小気味がよく、咀嚼するたびに口の中に柔らかい旨みが広がるのですが、出汁と蟹の旨みにやさしく寄り添ってくれるようなお酒だと思います」(加藤さん)
4. 『ズワイガニ 焼き茄子 万願寺唐辛子』 × 「満寿泉 R-KIMOTO 純米大吟醸」
「シャンパンに使用される酵母を使った「満寿泉 R-KIMOTO 純米大吟醸」は、単体で飲むと果実のようなフルーティさと喉にダイレクトに伝わるキレがあります。キンキンに冷やしてグラスで飲むのももちろん美味しいですが、焼物に合わせるに合わせるなら、あえてのぬる燗も面白いかもと思い、45度くらいの上燗にしてみたら大正解でした。燗冷ましの段階で温度が下がることによってキレ感が落ち着いて味に丸みが出るので、焼いたズワイガニの香ばしさや甘みがいっそう膨らみます」(加藤さん)
5. 『車海老味噌フライ』 × 「今錦 年輪 純米大吟醸」
「コースで通年お出ししている車海老味噌フライに合わせるお酒は、同じ銘柄の温度を変えてお出ししています。尾の部分は15度前後、味噌の部分は80度くらいまでお燗につけて、60度前後まで温度が下がったタイミングで召し上がっていただきます。海老フライは食べる部分によって香ばしさであったり、身のぷりっとした食感や甘みだったり、海老味噌の濃厚な旨みだったり、さまざまな“味”があるので、お酒も温度を変えてみたらどうだろと思ってお客様にお出ししたらとても喜んでいただけて。「今錦 年輪 純米大吟醸」は柔らかな旨みがあり、キレがいいので揚げ物にも素晴らしくよく合います。温度が下がる段階で飲むと出汁のような風味がじんわりと感じられて、味噌の味がより濃厚に。まずは尾のほうから、味噌が出てきたらお燗でというふうに楽しんでいただけたら嬉しいです」(加藤さん)
「お燗にするならしっかりと骨格のあるお酒、冷や常温ならすっきりと透明感のあるお酒、と基本的な選びのポイントはありますが、実際にいろいろと飲み比べてみると意外な発見があるのも日本酒のおもしろさであり、魅力だと思います。甲殻類を専門にあつかう店として、海老や蟹特有の風味に寄り添う組み合わせや、温度によって味の印象が変わる日本酒のデリケートさと柔軟性を感じていただけるようなペアリングをお客様にお届けしていきたいです」
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取材・文・撮影/小寺慶子
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