<終了>仏・伊・日・中の関西トップシェフによる“福岡の食”メニュー饗宴
関西を代表する名店のシェフ4名も参加する「福岡の食」フェアが開催されます。フェアメニューに込めた想いとともに、福岡食材の魅力を余すことなく語ってくれました。「福岡の食」フェアは大阪・北浜のイタリアン【RISTORANTE PONTE VECCHIO】、京都の日本料理【祇園にしかわ】、大阪・西天満の中国料理【AUBE】、及び選りすぐりの10店舗が 2/1(水)-2/14(火)に、大阪のフレンチ【エ・オ<ベルナール・ロワゾー・スィニャテュール>(https://e-o.jp/)】が 3/18(土)-3/31(金)の予定です。期間限定の至高の一皿を是非ご堪能ください。
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情報が多いほど、料理は美味しくなる |山口浩【神戸北野ホテル】
消費の裾野を広げることが本当の産地応援 |山根大助【レストラン ポンテベッキオ】
「使い手」の工夫が「作り手」を支える |西川正芳【祇園にしかわ】
土地の個性を中国料理の技法でどう表現するか |東浩司【AUBE】
情報が多いほど、料理は美味しくなる
「事前情報が料理の味の感じ方を左右することは、科学的にも実証されています」と山口さん
レストランのテーブルは“瞬間移動装置”です。例えば目を閉じて「太陽の表面を見てください」と言われたら、僕たちの意識は光よりも早く太陽まで届き、脳にイメージを描くことができる。どこへでも行けるし、どんな時間も超えられるんです。だからテーブルにある料理を介して産地へ旅することだってできる。僕ができるだけ生産者を訪ねる理由はそのためです。ただ黙ってお皿をサーブしても情報は「見た目」と「味」だけですが、僕らが生産者の想いや素材が生まれた背景を把握し、お客様に伝えれば伝えるほど、料理を通じて産地を体感できます。今回の視察も、自分の知らない場所にどんな食材があり、どんな食文化が育まれてきたのかを吸収するために参加しました。
料理人としてのスタートが佐賀だったので、福岡にもなじみがありましたが、食材が豊富であることは意識しませんでした。しかし今回の視察で、漁師さんが先進的に活〆をしたり、独自の飼育方法で牛を育てたりと、皆さんが技術向上に取り組んでいることがよく分かりました。同時に、絶滅危惧種の保存や循環型の畜産などの考えは、僕の軸となっている「サステナブル」と通ずるものがあります。そういった親和性や、生産者の熱意も含めた「福岡の味」を、お皿を通じて届けられたらと思います。
低温調理により肉のタンパク質が旨みに変わるという。山口さんの料理は全てエビデンスに基づいている
「しっかりした健康的な牛やなあ」というのが第一印象。同じ銘柄の牛でも、育て方や飼料によってサシの入り方も赤身の味も違いが出ます。この博多和牛は地元の稲わらを中心にした飼料で育っているため、赤身が澄んだルビー色です。今回取り寄せたのは5等級で、サシが入りながらしっかり和牛香があり、脂の溶けも良い。料理で大切なのは「キレの良さ」です。化学調味料による味の余韻は翌日まで残る場合がありますが、自然のもので作られた料理はクリアな味だけどコクがあり、食べ終わった後に余韻がスパッと切れる。この和牛は味の余韻の消え方が非常に良い。そういう観点から博多和牛は、脂の良さ、赤身の美味しさ、味のキレの良さを併せ持った、元気で健康的な牛と言えますね。
料理というのは本来、美味しいかそうでないかといった単純な評価基準ではなく、もっと歴史的で文化的な、フランスで言うと芸術的な視点からも価値付けられるものです。ジャーナリズム的なトレンドや新しさだけで計っていると継続性がなくなってしまう。食材が環境に配慮されたものであるか、次世代に繋げていけるものであるか。これからはそうしたポイントも料理の評価基準になっていくのではないでしょうか。
『博多和牛のロースト 根菜の取り合せ 牛テールソース』。湯煎して中はしっとり、周りはソテーで香ばしく
僕たちが作る料理と皆さんが家庭で作る料理は何が違うか。それは食材の合わせ方だったり食感だったり、「今まで食べたことのない感動がある」という点だと思います。この和牛はサクサクとほぐれるような歯応えにするため、56℃で7時間低温調理しました。そうすることで肉の酵素が活性化し、冷蔵庫で10日間ほど熟成させたようなしっとり感と旨みが出るんです。外側はガチョウ脂を使ってソテーし、周りには牛テールのフォンと赤ワインを煮詰めたソースを。5等級の霜降りなので、脂をさっぱりいただくために朝倉山椒や山葵の茎を薬味代わりにして味の変化を楽しめる構成にしています。付け合わせの根菜は、じっくり甘みを引き出すよう水分を凝縮させながら低温加熱しました。しっかり脂がある和牛なのに、鼻に抜けるような赤身の香りも、程良い弾力も味わえるローストです。同じトーンが続くのではなく、山椒のプチプチ感や山葵の爽やかな辛味がアクセントになり、一口ごとに新たな感動がある一皿。フェアではコースの肉料理としてお出しする予定です。
料理人プロフィール:【神戸北野ホテル】総支配人・総料理長 山口 浩
海洋資源のサステナビリティ活動にも携わる山口さん。「これからの料理人にはソーシャルな働きが求められる」と話す
1960年兵庫県生まれ。高校卒業後、佐賀県のフレンチを皮切りに国内のホテルで修業を積み、渡仏。ミシュラン三つ星獲得店【ラ・コート・ドール】の総料理長ベルナール・ロワゾー氏に師事。1992年【ラ・コート・ドール神戸】の開業にあたり帰国、シェフを務める。2000年【神戸北野ホテル】の総支配人・総料理長に就任。15年農林水産省料理マスターズブロンズ賞、20年シルバー賞受賞。ロワゾ―氏から受け継いだ、バターや生クリームに頼らず素材の旨みで調理する「水のフレンチ」の手法を日本にも浸透させる。
【神戸北野ホテル ダイニング イグレック】
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2人
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電話:050-5385-0874
住所:兵庫県神戸市中央区山本通3-3-20 神戸北野ホテル1F
アクセス:三宮駅 徒歩15分店舗詳細はこちら >
消費の裾野を広げることが本当の産地応援
「生産者の声を聞き、食材の魅力を伝えることが料理人の役目」。各地の産地応援イベントに参加している
こうした産地応援フェアなどのお話をいただいた時はできる限り参加しています。関係性を築くことで旬のものを送っていただけるというメリットもありますしね。ただ、これまで福岡は「産地」というよりも「消費地」として捉えていました。店の食器を有田焼の作家さんにお願いしているので佐賀県にはよく行きますが、福岡に寄るのは後輩に呼ばれて奢らされる時ぐらい(笑)。改めて産地として訪れてみたら、海に囲まれていて魚も獲れるし、福岡有明のりも、スイゼンジノリも、鶏もキノコもある。山海の食材の宝庫だということを知りました。大都市にも関わらずこれほど産地としても消費地としても成立している場所は稀だと思います。
同時に感じたのは、その消費をもっと県外にもアピールする機会が必要ということ。料理セミナーや講習会などを開いて、食材をPRするとともに購入できるルートを提示できればというのが願いです。料理人にできることは食材の持ち味を知り、自分なりのテクニックでお皿の上に表現することですが、「流通」となると僕らの仕事を超えてしまいます。一般の方への販売体制を整えたり、イベントなどを企画して広く周知させたりと、まだまだアプローチの余地はあるし、レストランもそこにタッグを組んで協働できればと考えています。
はかた地どりは軍鶏に近い特性を持っているため、しっかりした肉質でムネもモモもコリコリした弾力がある
板のスイゼンジノリと戻したもの。高価だが、「作る手間を考えたら値段相応、むしろもっと高くて良い」と山根さん
まず惹かれたのはスイゼンジノリ。和食などで見ることはあっても使った経験がなく、とても興味深い食材でした。こんなに大変な作り方をしていると知り、西洋料理で使う方法はないかなあと。ほとんど味がない素材ですが、食感は面白いし色々な味を染み込ませることができる吸水体なんです。だから何かの味をのせることでいい仕事をしてくれると踏みました。実際、挑戦しがいがありました。
はかた地どりは、軍鶏との交配種なのでモモにも適度な硬さがあり、ムネとのバランスも良い。日本ではモモ肉が好まれますが、西洋料理ではムネの方が使い手があるんです。パサつかず味が抜けないように調理するという点で、料理人の技術が問われる部位です。ムネもモモも同じぐらい使える地鶏はなかなかないので、今後も継続して使いたいと思います。
年齢を重ねると、霜降り肉や鮪の大トロといった分かりやすい美味しさよりも、今回のはかた地どりやスイゼンジノリのような淡白な中にある旨みにこそ感動するものです。ただしスイゼンジノリの場合は、高価で扱いが難しいので料理人も匙を投げてしまうかもしれない。でも使う人がそれなりのお金を払って価値を見出さないと自然消滅してしまう。食遺産ともいうべき貴重な食材です。
『はかた地どりのふわっふわザバイオーネ乗せ フランボワ風味 水前寺海苔の含め煮添え』。ユニークな食感に驚く
歯応えがある鶏ですが、敢えて柔らかく仕上げました。ムネもモモもバターに包んで真空し、65℃で40分湯煎。そうすることで身が締まらない程度にゆっくりと加熱でき、しっとりするんです。それを、僕ができる限界ぐらいの薄さにスライス。形を作るというよりは薄さを優先して、フグのてっさのようにしました。極薄のモモとムネを合わせ、香ばしく炒めた鶏皮もトッピングします。
スイゼンジノリは板状のものを濃い鶏出汁で炊いてから、さらに褐色の鶏ソースを絡め、佃煮のように煮含めにしています。ソースはワインとエシャロットを煮詰めて濾した液体に卵黄を混ぜたザバイオーネがベース。そこに鶏を焼いて赤ワインなどと煮詰めたエキス、フランボワーズを加えています。スイゼンジノリの心太のような風味には酸味が合うと考えたからです。
ザバイオーネのぽわぽわっとした口当たりと、モモとムネを一緒に食べた時の歯応え、スイゼンジノリのコリコリ感が一体となり、まるで鶏の「新しい部位」を味わっているような新食感になりました。もともとストーリーを持たせて料理を考えるのが好きで、これも頭で緻密に計算した一皿。我ながら見事にハマったなと満足しています(笑)。
料理人プロフィール:【レストラン ポンテベッキオ】オーナー 山根 大助
軽快なノリの山根さんだが、「1人でご飯食べに行けないんです。周りが気になって」と意外な一面も
1961年大阪生まれ。大阪あべの辻調理師専門学校を卒業後、神戸の老舗イタリアン【ドンナロイヤ】を経て渡伊。ミラノ【グアルティエロ・マルケージ】などで研鑽を積み、1986年、24歳にして【リストランテ ポンテベッキオ】をオープン。2020年度版ゴエミヨジャパンで日本のイタリアンにおける最高得点を獲得。現在、北浜本店のほか梅田【モード・ディ・ポンテベッキオ】などコンセプトの異なる4店舗を展開。2020年農林水産省主催料理マスターズブロンズ賞受賞。
「使い手」の工夫が「作り手」を支える
普段は長崎から魚介を仕入れているが、「今回視察して、福岡に対する海のイメージが変わりました」と話す西川さん
福岡は大都会というイメージでしたが、市内中心部から離れると川の水が綺麗だったり、博多湾や有明海に面しているため海が広かったりと、自然味に溢れている環境だということが意外でした。普段は長崎の壱岐・対馬から白甘鯛や太刀魚などを送ってもらっているので同じ九州という点で身近に感じてはいましたが、福岡県産のものと言えば有明海の海苔くらいしか使っておらず、これほど食材が豊富な土地だというのは新たな発見でした。それぞれ生産者の方がこだわりをもって食材を育てて。特にスイゼンジノリは絶滅寸前だったところを後世に伝えようと守り続ける取り組みに感銘を受けました。
そして玄界灘は寒流と暖流がぶつかる世界有数の漁場です。サワラに関してもこれほど魚体が大きく、脂のりがよいものは他では揚がらないかもしれません。これからは壱岐・対馬に加えて、福岡にも注目して魚介選びの幅を広げようと思います。有明の海苔も引き続き使いたいですし、スイゼンジノリは料理人が食べ方を工夫して魅力を伝えることが必要なので、日本料理店だからできる方法で産地を応援していきたいと考えています。
塩漬けの生スイゼンジノリは水洗いし、軽く湯がいて使う。一般的な海苔や海藻とは食感も香りも全く別物
生のものをシート状に固めて乾燥させたスイゼンジノリ。戻すと昆布より厚く、独特のとろみとコリコリ感が出る
3月の産卵を前に最も栄養を蓄え、旨みも増すというサワラ。大きく脂がある魚体は日本料理でも重宝されるという
サワラは魚体が大きければ大きいほど脂がのってきて、味も美味しくなるんです。今回視察したサワラは10kg前後にまでなるとのことですが、7~8kgにもなればまさにスーパージャンボサワラ。理想的な脂のりで、身が白濁しているのがその証拠です。普段使っているサワラは徳島や愛媛のもので、それはそれで身の弾力が際立って良いのですが、脂がこんなにあるサワラも料理として使い応えがあります。回遊魚だからどの港で水揚げしても一緒だと思われがちですが、サワラはそれほど長距離を泳がない魚なので、やはり漁場や漁師さんの処理方法によって味は違ってくるのだと思います。
もう一つのスイゼンジノリは昔から和食に使われる食材で、非常に希少であることも知っていましたが、生産の現場を目の当たりにしてその価値を改めて知りました。生のものを乾燥させてシート状に伸ばして…と、あれだけの手間暇をかけて作られるのを見ると、本当に食材として大切に使わないといけないなと改めて感じましたね。「環境省レッドリスト絶滅危惧1A類」として指定されているそうで、まさに代替品のない唯一無二の素材です。
『鮑と白子の水前寺海苔すまし仕立て』。スイゼンジノリの美しいグリーンの色が主役と言っても良い椀物
『特鮮 本鰆と岩魚のキャビアだし水前寺海苔のジュレ掛け』にはオリーブ漬けにしたクルミを添えて食感の変化を
『鮑と白子の水前寺海苔すまし仕立て』は、塩漬けのフレッシュなスイゼンジノリを湯通しして色を出し、お出汁にふわっと泳がせました。椀種は蒸しアワビ、焼き白子と、青軸、京人参。そして板のスイゼンジノリを水戻ししたもの。アワビは5~6年ぐらいの黒アワビを低音調理して旨味を膨らませています。椀種では肉厚な板スイゼンジノリのコリコリ感やアワビのシャクシャクとした食感との協奏を楽しみ、お出汁ではカツオとスイゼンジノリの香りの調和を味わう。そこにタラの焼き白子のねっとりした濃厚な風味が重なります。香りや食感もそうですが、まず色目を楽しんでいただく仕立てです。
『特鮮 本鰆と岩魚のキャビアだし水前寺海苔のジュレ掛け』は和風カルパッチョのような仕立てです。サワラは産卵する3月前頃に一番栄養を蓄え、脂も多く味も濃くなります。だからサワラが子を持ったら春が来るという意味で、「魚」に「春」と書きます。脂の旨みを引き出すために備長炭で表面に焼き目を付け、出汁のジュレ掛けに。サワラの卵の代わりに散りばめているのは、イワナの卵。イクラほど主張がないのと、黄色が春らしいのでこちらを使いました。下にはブロッコリーとキュウリ。サワラの香ばしくもちっとした歯応えと、イワナの卵のプチッ、野菜のシャキッとした食感が口の中で一体になるような計算です。ジュレは真昆布の出汁にスイゼンジノリを戻したものを加え、酸味を加えるため土佐酢を少々。今回のフェアの時期にあわせて、春を告げる魚であるサワラと、スイゼンジノリの翠色で、冬から春に向かうインスピレーションを表現しています。
料理人プロフィール:【祇園にしかわ】オーナー 西川 正芳
「さまざまな福岡食材の魅力を知ることができました。特にサワラは引き続き使いたいですね」と惚れ込んだ様子
1975年京都府京都市生まれ。室町に育ち、友禅の絵付け職人だった祖父の影響から、幼少時代より日本料理や芸術に親しむ。高校卒業後は亀岡の旅館【翠泉】で料理の基本を学ぶ。のちに【祇園さヽ木】で修業し、「料理人としての生き方、心構え、全てを教わった」という。【祇園 花霞】【わらびの里】の料理長を歴任し、2008年に【祇園にしかわ】を開店。2023年版ミシュラン二つ星取得。
土地の個性を中国料理の技法でどう表現するか
「福岡はもともと好きな街で年に何度か訪れていました。気に入っている酒蔵もあります」と東さん
「中国8大料理の9番目がもし日本だったら」。例えば四川であれば盆地で暑い気候から汗をかくような辛い料理が生まれたように、その土地の風土や気候によってそれぞれの料理が形作られています。では海に囲まれた日本で育った固有の食材を、中国料理の技法でどう表現するか。それが【AUBE】のテーマです。そのため定期的に各地の生産者を訪ねて新しい食材を見つけるようにしています。調味料で差を付けるのではなく素材一つ一つの味を際立たせる調理法を軸としているので、なおさら良い食材との出会いは大事です。
福岡は中国料理や和食などレベルの高いお店が多い印象ではありましたが、「産地」として見ていなかったというのが本音です。今回、糸島や久留米のあたりまで視察して、農業と漁業の街なのだなと初めて実感しました。魚においては味の良さはもちろん、神経〆や血抜きなどの処理技術が卓越している。また地酒に関しては、糸島産山田錦米で造った「田中六五」は普段からお店でお出ししています。フェアでは、サワラや福岡有明のりなどの福岡県産食材と日本酒とのペアリングを提案し、皆さんの想像以上に美味しい食材もお酒もあるということをお伝えできれば嬉しいです。
産地直送のサワラを切り身に。脂のりが良いため身が白く、皮の下の血合いもほとんど見られない
福岡の糸島からつい10分ほど前に届いた6~7kgのサワラです。今回使おうと思った理由は、フェアの時期に旬を迎える食材であることと、やはり身の大きさと脂のりの良さ。関西に入ってくるサワラは4kg前後が多いのですが、6kg以上になると美味しさもグンと増します。普段は長崎の五島列島から魚介を仕入れており、どちらかというとサワラよりも小ぶりなサゴシを熟成させず使っていました。【AUBE】は系列の中で最もハイクラスな店なので、魚の一番良い部位を使うと決めています。だから、サワラも腹の部分を。このような6kg~10kgクラスが安定して入れられるというのは魅力的なので、これからもぜひお取引したい魚屋さんです。大きすぎて【AUBE】だけでは使い切れないくらいなので(笑)、他の部位も【Chi-Fu】や【Az】で色々な料理にチャレンジし、中国料理の技法でどれだけこのサワラを美味しく召し上がっていただけるかを研究してみたいです。11月からどんどん美味しくなる魚なので、フェアの時期は最も旬を迎える頃でしょうかね。
中国料理と鮨の手法をミックスさせたという、『特鮮 本鰆の紹興酒漬け』。豆豉の味噌のようなコクが味に深みを与える
お鮨屋さんの「ヅケ」に着想を得た一品です。脂がものすごくのっているので、これは醤油などの漬け地に短時間浸してねっとりさせるのがいいなと思って。それを中国料理としてどう表現しようかと考えた時に、上海料理にあるような、エビやカニを紹興酒漬けにする調理法を思い付きました。30年ものの紹興酒と、10年以上熟成させた本味醂、醤油などを少々加えた漬け地を作り、厚めに切ったサワラを10分ほど浸します。また香港などでお刺身をサラダのように野菜と合わせて食べる料理があるので、一緒に食感がある季節の野菜を添えています。この時期に美味しいのは百合根とカブ。中国では刻みネギを入れますが、それだと味が勝ってしまうので、九条ネギの香りを移したネギ油で香り付けを。そこに豆豉と、オレンジの皮を散らします。柑橘を柚子ではなくオレンジにしたのは、和風に寄らないようにするためです。
この一皿と合わせるとしたら、オレンジワインや日本酒の山廃でしょうか。よく寝かせた紹興酒や味醂の熟成感と、サワラのどっしりした脂を受け止めてくれるのは、ちょっと酸化熟成したお酒かなと思います。コースの中盤あたりにお出ししたい一品ですね。
料理人プロフィール:【AUBE】オーナー 東 浩司
ソムリエ資格を持つ東さんは、全ての料理をワインや日本酒とのペアリングを考えて組み立てているという
1980年大阪生まれ。ミシュラン一つ星【Chi-Fu】とミシュランビブグルマン【Az/ビーフン東】のオーナーであり、1951年創業の台湾料理店【ビーフン東】3代目。赤坂【維新號】で修業後、【ビーフン東】東京新橋店の店長を経て、1992年に閉店した祖父の創業店をビルごと買い取り、地下に【Az /ビーフン東】、2階に【Chi-Fu】として2011年に復活させる。2018年には3階にネオクラシックな中国料理を体現する【AUBE】をオープン。日頃から日本各地への産地視察を行っている。
*全てのフェアメニューは、告知なしでメニューを変更する場合があります。該当店舗へ事前にご確認ください。
*イベント篇は2月1日公開予定です
「福岡の食」フェアに参加する関西の料理人
フレンチ イタリアン 和食 中華撮影/今清水隆宏・木下清隆 取材・文/猫田しげる
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