日本有数の漁師町、富山県・氷見の、鮮度抜群のきときとな町鮨を巡る旅へ
土地の風土や歴史が育む文化を感じられるのが、地方の食の魅力。各地方によって味わいが違う“鮨”もまたしかり。400年以上前から続く定置網漁を主とする、日本有数の漁港、富山県・氷見市では、鮮度抜群の魚に誇りを持つ漁師たちの思いを写した“きときと”な鮨がごちそうだ。氷見でしか出会えない鮨の秘密と、おすすめのお店を紹介しよう。
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氷見の人が、“鮮度抜群”の鮨にこだわる理由は400年前に遡る!?
氷見随一の鮮度を誇る。漁港の目の前にある鮨店【きよ水】
氷見前の魚を鮨と料理で余すことなく堪能する【川喜】
氷見の人が、“鮮度抜群”の鮨にこだわる理由は400年前に遡る!?
“ひみ寒ぶり”、“氷見鰯”など、上質な魚が揚がる地として名を馳せている富山県・氷見市。富山県の方言で、新鮮なさまを“きときと”というが、氷見漁港はまさに“きときと”な魚が集まる富山随一の漁港だ。
鮮度の秘密は400年以上前から受け継がれている定置網漁。そんな漁港のお膝元では、鮮度抜群の魚が昔からなによりもご馳走だった。その土地柄ゆえ、祝い事をはじめとする宴席では、魚料理と鮨を食べる文化が自然と醸成されてきた。
実際、氷見市には新旧取り混ぜた個性あふれる多くの町鮨が今も軒を並べている。
毎朝行われる氷見漁港のセリ
ここで、氷見の鮮度抜群の鮨の話をする前に、少し氷見の漁について触れておきたい。
氷見の漁といえば、2020年「日本農業遺産」にも認定された定置網が主流だ。その歴史は、“クロマグロを獲るための夏場の定置網”が1615年の文献に記されていることから、少なくとも400年以上前まで遡ることができる。
定置網とは、大陸棚に大きな網を仕掛け、回遊してきた魚が自然と入ることを待つ、いわば海に仕掛けた罠で魚を獲る漁法だ。最終的に引き上げる網の中に迷いこんで出られなくなった魚は、回遊してきた魚のおよそ3割程度だそう。そのため環境に優しい漁法として昨今特に注目を集めている漁法でもある。
まだ暗い早朝、続々と船が戻ってくる市場
実は、この定置網漁法が、氷見の魚が“きときと”である最大の理由なのだという。というのも、氷見には6ヶ所の漁港があるがいずれも定置網がしかけられるのは、岸から2〜4kmの近海。漁場までの時間は約20~30分、網を起こすのに30分~1時間程度のため、朝3時まで海のなかで泳いでいた魚が、朝6時から始まるセリに並ぶのだ。
その日本でも指折りの鮮度の良さを売りにするために、獲った後の処理の仕方も工夫されている。活魚以外は獲ったらすぐに氷詰めにして締めることを漁業者で徹底。そうすることで、より鮮度を保っている。このように、“獲れたての鮮度の良さ”に矜持を持つことこそが氷見の漁師であり、その思いが氷見の鮨職人も受け継がれているのだ。
“獲れたて”の魚の味をストレートに味わう氷見の鮨は、キリッとした酢飯で握る小股の切れ上がったような江戸前鮨の魅力とはまた違う、“魚が主役”の鮨。そんな氷見らしい鮨が味わえる2軒を紹介したい。
氷見随一の鮮度を誇る。漁港の目の前にある鮨店【きよ水】
この道28年。店主の清水勇一さん
氷見ならではの“鮮度のいい魚を使った鮨”を食べたいならば、ぜひ訪れたいのが、市場のすぐ目の前で店を構える鮨店【きよ水】だ。
朝6時過ぎ。店主の清水さんはみずから毎朝市場に行き、確かな目利きで魚を選んでくる。セリで買った魚は午前中に手早く下処理し、ランチ営業の準備へ。“鮮度のいい魚に合わせて、鮮度のいい米を”、と営業前に、使う分の米を精米する。
氷見漁港であがったヒラメ、ヒラマサ、アジのほか、新湊の甘エビ、白エビ、バイ貝などなど富山湾のネタが満載の『おまかせにぎり12貫』(4,000円)
鮨にするネタは厚めに切りつける。厚めに切ることで、神経じめしたヒラメなどは、少し寝かせたものとは違う独特のもっちり感が際立ち、酸味をあまり立たせない甘めの酢飯との相性も良い。アジは、魚本来の香りをより感じることができる。
昆布締めや酢締め、寝かせるなどネタに一切の仕事はほどこさない潔い“裸の”魚そのままを、優しい酢飯がそっと支えているのが【きよ水】の鮨。包容力のある広大な海を感じるような鮨こそが個性であり、魅力である。
氷見前の魚を鮨と料理で余すことなく堪能する【川喜】
【川喜】の2代目として日々店に立つ余川さん
氷見の景色といえば、海の向こうに見える冠雪の立山連峰が有名だが、町の中にも美しい場所がいくつかある。市内を流れる湊川沿いもその一つだろう。十二潟と海をつなぐ細い川の両側には昔ながらの建物が並び、個性的なデザインの橋がいくつもかけられている。その町並みの中にしっくりと馴染む鮨屋が【川喜】だ。
氷見であがる旬の魚を一品料理と鮨にして食べさせる、昔ながらの鮨割烹である。
2代目として日々店に立つのは余川幹久之さん。大阪で鮨を学び、京都の料亭で料理の修業をした経験から、鮨に合わせるネタについても料理人として“いかに素材を活かすか”ということから考えることが多いという。
例えば、ランチの鮨で出すキジハタは獲れたての食感の弾力を楽しんでもらうために捌きたてを切りつけ鮨にする。ヒラメは旨みを凝縮したいから昆布締めに。ブリは脂の多い腹側は1日寝かせるが、背側はすぐに握ってフレッシュな香りを楽しんでもらうといった具合だ。
『上握り盛り合わせ10貫』2,500円(汁物つき)。この日はヤリイカ、ブリ、甘エビ、ヒラメ、など。鮨は1貫から頼める(152円〜)。赤ガレイの唐揚げ。時価(850円前後)ブリかまの塩焼き(時価)ほか一品も充実
【川喜】では、鮨以外の一品料理もぜひ頼んでほしい。刺身でも食べられる鮮度の赤ガレイを豪快に丸揚げした料理や、驚くほどたっぷりと身がついたブリカマのシンプルな塩焼きは、港町ならではのごちそうだ。
そのほかにも、季節の魚の西京焼きや、「鯛の子の旨煮」など、お酒がすすむ料理が並ぶ。どれも素材を見極め、その素材が持つおいしさをしっかりと引き出す技が光っている。
【川喜】に来たら、くつろげる座敷もいいが、主人の余川さんと話せるカウンターが特等席だろう。ここは4人だけが座れるプラチナシート。カウンターを希望される場合は、あらかじめ予約を忘れずに。
撮影/志賀真人 取材・文/山路美佐
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