ペルー・クスコ【MIL】(ミル)~ヒトサラ編集長の編集後記 第78回
リマの【セントラル】でヴィルヒリオ・シェフの話を聞いてから、飛行機で古都クスコまで飛びました。そこから車で約90分のところに【MIL】はあります。標高約3700メートル。インカの遺跡の残る高地で味わう先住民の知恵が詰まった最先端の料理とは。
【MIL】は標高約3700メートルのアンデス山中にあり、インカ帝国の農業試験場だったと言われるモライ遺跡に隣接しています。一面に高山植物の咲き乱れる美しいところです。【MIL】のスタッフはそこで現地のコミュニティと共同で作物を育てたり、先住民の伝統を生かした料理の研究等をしています。
朝9時半に来るように言われ、着くとまず簡単に施設の説明を受けます。それから2時間ほどかけて周辺をハイキングしながら、さまざまな植物や、この地のメイン食材となるじゃがいも、とうもろこしの利用方法から保存技術までのレクチャーを受けます。これがなかなか難しいのですが、面白い。
ちょうどお腹が空いたころにレストランに戻り、薬草を使ったカクテルでアペリティフをいただき、レストランへと案内されます。テーブルは7、8席あり、20人ほどが相応しいくらいの程よい広さ。
お料理は8皿出てきます。料理ごとに簡単な説明付きのカードが用意され、アルコールのペアリングをお願いした私には、そのアルコール飲料の生産地の標高が入ったカードが用意されました。
食材はすべてこのアンデスの山しばりで、お皿ごとにテーマが変わります。スタッフは皆、スペイン語のみならず流暢な英語で対応してくれます。ただ、食材とその調理法については、正直かなり難解です。スマホでいちいち検索しながらの食事となってしまいました。
では始めます。
まず1皿目は『保存』とタイトルが付けられたお皿から。
収穫後に保存されるじゃがいもやとうもろこしに焦点が当てられます。
じゃがいもを薄くスライスして枯枝状にしたものやとうもろこしのケーキ、それに耐寒性の強いオカ(塊茎)のクリームを挟んだコカの葉のパイなど。パイにはベリーバターを塗って食べるのですが、まず一皿めでけっこう打ちのめされる美味しさです。
合わせたお酒は標高2800メートル、オリャンタイタンボ(マチュピチュ行きの列車が出るところ)の芋カクテル。芋と言ってもこれはオユコと言われる黄色いもので、カクテルは爽やかな甘さ。
2皿目は『ハイランド』。
高地で育つハーブや花のサラダ、それにラムとドライトマト、アンデスの藻と言われるクシュロにコカの葉とサワークリーム、森のアイスとも言われるチリモヤとキヌアに似たカニワ。
それぞれ高地でとれる食材の見事なコンビネーションですが、まず一品ずつ味の個性を確かめ、それから全部混ぜていただきました。ひとつひとつの繊細な味わいとそれらが混ざったときの全体感がやはり素晴らしい。目をつぶれば、この美しい高地すべてが口の中で広がるような気になります。
合わせたお酒はここから南へ100キロ、先住民ケチュア族の暮らす4100メートルの土地でつくったキヌアのスピリッツ。そんなに尖がったものではなく、静かな水のように料理に寄り添ってくれます。
3皿目は『極限の高地』。
アルパカの肉です。アルパカは何度か食べたことがありますが、こういうのは初めて。14時間低温調理した肉がマルバという花の下に隠れていて、混ぜていただきます。クセがなく温かく優しい味わいに花が香りを添えます。ほっとする味。キヌアはアイラという花で色付けされて山羊のチーズといただきます。この色合い食感も面白い。アンデスのスーパーフードであるキウィチャの葉はトマト、タマリンド、卵黄のソースでいただきます。
これも同じく最初一皿ずつ味わってから全体を混ぜてみます。
お酒は、より南下したエリア、アンデスつながりですが、アルゼンチンの標高1400メートルのウコヴァレーからのマルベック。
4皿目は『とうもろこしの多様性』。
ペルーではじゃがいもは3000種類以上あると言われ、とうもろこしはアンデス地方だけで400種類以上あるそうです。とうもろこしはそれほどこの地に生活に密着した食べ物です。収穫期には様々な色のとうもろこしが畑に積み上げられ、それらが山を彩るタペストリーのように見えるのだとか。
出されたものは紫とうもろこしの生地にフレッシュチーズをのせたもの、3種類のコーンチップス、ホワイトコーンのクリームにペルー料理のソースに使うハーブ・ワカタイ(シオザキソウ)。これはスナック感覚でいただけます。
添えたお酒は近くでつくったチチャデホラ(とうもろこしの発酵酒)。
とうもろこしづくしですね。
チチャデホラはアルコール度数は低く、軽く飲めるビールといった感じですかね。酸味が爽やかで、つい飲んでしまいます。
このチチャデホラをつくる過程を見せてもらったことがあります。ともろこしをすりつぶし、甕で発酵させるのですが、とうもろこしのクズはその家で飼っているクイ(テンジクネズミ科のモルモット)のエサになります。そしてそのクイを人間が食べるという、よくできたエコシステムに関心したことがあります。
5皿めは『中央アンデス』。
ここで供されるのはワティア。アンデス風の焼き芋なのですが、チャコという固めた泥窯で中の芋を蒸し焼きにするという、インカの伝統的な調理法がここで再現されます。これは東京の【MAZ】でもいただいたことがありました。ハーブソース、ロコト(唐辛子)ソースでいただきます。
なかなか日本では味わえない、力強いじゃがいもで、香りも深い。いろんなものが凝縮している感じ。近くにある有名なマラスの塩田の塩でも試してみたい気になりました。
合わせたお酒は、近くの畑でとれたオキザリス(カタバミ)やオカのカクテル。
この辺の薬草は奥が深いと言いながら、アペリティフを用意してくれたスタッフが、もうひとつといって出してくれた薬草カクテルがあったのですが、これはちょっと苦すぎて口には合いませんでした。
「薬草まじない」というエイモス・チュツオーラというナイジェリアの小説家が書いた奇妙な本があるのですが、そのことを思い出しました。
6皿目は『アンデスの森』。
ここでは鴨がメインの食材です。豆と鴨肉で焼いたパン、カジャンパ入りの鴨のソースにシチリアーノという野菜のスライス。カジャンパはアンデスきのこともいわれ、森に暮らす人たちのスーパーフードととして幾たびかの食糧危機を救ったという話もあります。薄くスライスされたシチリアーノはズッキーニかキュウリのようで、濃厚な鴨のソースによく合います。
ここでボリビアの赤ワインです。
ボリビアにワインがあることは知りませんでした。未知の食材と未知のワインとのマリアージュ、それも富士山の高さにあるこのアンデスの山中で、と思うと感慨深いものがあります。
7皿目は『凍った山脈』。
ここからデザートになります。
雪山に見立てたグラデーションの美しいアイスに、3種類のヤーコン芋やキヌアのヨーグルトが花に包まれて出されます。
8皿目は『甘い一息』。
一日の労働の後の一息に甘いものを、という意味を込めた最後のお皿です。
クスコのジャングルのカカオを使ったチョコ菓子が、こちらで開発した薬草酒「カケ」とともに出されました。ここではカカオの原種を守るため、100%原種のものが使われているのだとか。
このお酒は東京の【MAZ】でもいただいたことがあります。風味のいいもので、ビターなチョコ菓子にもよく合いました。
朝着いたと思ったら、もう夕方に近くなっていました。すっかり夢中になっていただいていたようです。
さ、暗くなる前にクスコへ戻りましょう。
食事をしながらいろんなことを考えさせられました。
インカの遺跡や聖なる谷、美しいアンデスの山々、動物、植物、そしてそこにある人々の暮らし……しばらくずっとそのことで頭がいっぱいです。
この記事を作った人
小西克博/ヒトサラ編集長
北極から南極まで世界100カ国を旅してきた編集者、紀行作家。
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