東京・紀尾井町【MAZ(マス)】~ヒトサラ編集長の編集後記 第44回
世界のベストレストラン2位。ペルーの【Central(セントラル)】のシェフが東京に進出してきました。その名も【MAZ(マス)】。世界のガストロノミーを牽引するヴィルヒリオ・ マルティネスシェフの世界観を東京で体験すべく出かけてみました。
ペルーの多様性から見えてくる世界観
ヴィルヒリオ・ マルティネスさんに初めて会ったのは、ビルバオだったかバンコクだったか。
とにかく日本が大好きと語る彼の東京店がこの7月にようやくオープンしたので、出かけてきました。
ヴィルヒリオさんは、世界のベストレストラン2位、南米では1位をほこる有名レストラン【Central】のオーナーシェフであると同時に、ペルーの食の伝道師。世界のガストロノミーを牽引するひとりでもあります。
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店名は【MAZ】。東京のど真ん中、東京ガーデンテラス紀尾井町にあります。
予約時に与えられたコードを入力して店内に入ると、東京店を預かるシェフのサンティアゴ・フェルナンデスさんが迎えてくれました。サンティアゴさんはペルーの【Central】でヴィルヒリオさんの右腕をつとめていた人です。
店内はさほど広くはありませんが、入口にはペルーの食材がわかるテーブルがあってそこで簡単にペルーのレクチャーを受け、それからテーブルにつきます。
【MAZ】でも【Central】よろしく標高差によるペルーの生態系を表現する料理の数々が並びます。食材はペルーから2割、8割は日本で調達するということです。東京店をまかされたサンティアゴさんに日本で出会った食材で興味あるものはと訊けば、じゅんさい、とのことでした。
東京にいてこれだけの食体験が
今回いただいたものを順に並べます。
ペアリングは、サウスアメリカン・テロワールと題されたペルーとチリが中心になったワインやカクテルで構成されたものをいただきました。
最初は「冷たい海」(海抜-2m)と題されたものからスタートです。
マテ貝、ウニ、海藻などを使った3品。太平洋の冷たい海の生態系を表現しています。
アヒ・アマリージョのスープで満たされたマテ貝、発酵させた海藻のクリスプ、ウニのピュレに生ウニで構成されています。
どれも爽やかな一品で、夏のメニューのスタートには相応しいものでした。
2皿目は「砂漠海岸」(海抜85m)。
ペルーの海も蟹が豊富らしく、砂漠をイメージするバターナッツ・スクワッシュのなかはエビの頭のビスクとタラバガニで海の香りに包まれています。生エビ、キュウリ、コールラビのピクルスが添えられます。
3皿目は「熱帯雨林」(海抜178m)
アボカドがキャッサバを付けた影響かほっこりした印象で、パッションフルーツ・ソースの甘さとキャビアの塩味がいいバランスです。
4皿目は「極端な高さ」(海抜4200m)
ここでは熟成牛肉が紫コーンのチップスと登場します。乾いた高地のイメージです。ペルーのブラックミント「ワカタイ」のソースと、添えられたのはとうもろこしの髭の入ったマカ入りのパンが予想以上に甘くておいしい。
5皿目は「海霧」(海抜0m)
インパクトのあるブルーは青いスピルリナとタコの煮汁だそうで、海とタコのエキスを食べているような感じに。前に置かれたタコは煮汁をとって乾燥させたもの。これはオブジェで食べません。
6皿目は「淡水」(海抜225m)
ペルーではパイチェという古代魚を使うところをイワナで代用し、サンティアゴさんの好きなじゅんさいが添えられます。スライスしたスイカに緑茶とケールのオイル、発酵ココナッツソース。これも爽やかな淡水感がよく表現されています。
7皿目は「アンデスの森」(海抜3260m)
サンティアゴさんが皿を持って来てくれ、ヤーコン芋について説明してくれます。古代インカから伝わるファティアという蒸し焼きです。メインはポテトのシチューですが、寒暖差がもたらすイモの旨さと豚肉の旨さが合わさって、後を引くメインディッシュになっています。
8皿目は「高地の森」(海抜1890m)
デザートの一皿目として、生のドラゴンフルーツが入ったペルーの果物カブヤのムースと、ハーブのグラニテ。
9皿目は「アマゾニア」(海抜750m)
最後はやはりアマゾンのカカオからつくられるバリエーション。テオブロマ属の3つの異なる果実(マカンボ、コポアズ、カカオ)で構成されます。ソルベやクレームブリュレなど、カカオ感満載のデザートをいただき、コーヒーをいただきました。
美味しさにつつまれた未知の食材や調理法からいろいろ考えさせられました。
「食べる」を通じて世界の意識を変えたい試みは、アーティストの行為と同じですね。
合わせてもらったお酒、一皿ごとに変えられるカードもユニークで、イメージが広がります。
東京にいてこれだけの食体験ができるレストラン。ペルーが、世界が、その多様性が見えるお店は、本当に貴重だと思いました。
小西克博/ヒトサラ編集長
北極から南極まで世界100カ国を旅してきた編集者、紀行作家。
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