ポルトガル・ドウロ渓谷【シックスセンシズ ドウロ バレー (Six Senses Douro Valley)】 連載第84回
日本ではあまり飲まれていないポートワイン。実は欧米ではかなり愛飲されており、熟成ポートは高額で取引されています。主な生産地はポルトガルのポルトからドウロ渓谷にかけて。シーズンには世界中から多くのワイン愛好家が集います。そんなポートワインの故郷を訪れてみました。
ポルトの街に流れるドウロ川には、酒樽を積んだ船が今も行き来し、なかなか風情があります。これは上流のドウロ渓谷で産み出されるワインを運ぶ船で、そのドウロ渓谷はローマ時代からワインの生産地として有名なところです。
ポルトの街から車で1時間ほど山の中に入ると深い谷を刻む川の両岸に段々畑の葡萄畑が見えてきます。
ポートワインがなぜあのように甘く、アルコール度数の高いものになったのかといえば、それは主な輸出先のイギリスまでワインを劣化させないで届けるためでした。発酵の途中でブランデーを加えて発酵を止めることで糖を増やしアルコール度数を上げる。これによって長距離輸送が可能になったのです。
現在のドウロ渓谷ではポートワインに加えて、通常のスティルワインも多く生産されています。食中酒としては通常のスティルワインを飲み、デザートでポートという人が多いようです。
宿泊したのは【シックスセンシズ ドウロバレー (Six Senses Douro Valley)】。葡萄畑のなかに建つ瀟洒な建物がホテルになっています。19世紀のマナーハウスを地元のデベロッパーが購入し、2015年からシックスセンシズが運営しており、ミシュランはスパリゾートの最高峰と賞賛しています。
ウエルネスとサステナビリティを統合した体験型のラグジュアリーを提供するシックスセンシズですが、ここではどのようなことができるのでしょうか。
チェックインをすませ、テラスで葡萄畑を眺めながらランチをとりました。
シックスセンシズにはGEM(Guest Experience Maker)というスタッフがいて、ゲストの要望を聞きながらともに体験をつくりあげる役割を担っています。とりあえずこの土地のワインを知りたい、ということと、食事はこの土地のもの縛りでとお願いしました。加えてGEMからは、環境配慮アクションについての体験と、スパの体験を勧められました。
静かですね。川がゆったり流れていて、実にのどかです。
地元産のスパークリングワイン「ムルガネイラ(Murganheira)」で喉を潤し、キヌアのサラダをいただきます。新鮮なブッラータやローストした無花果が入っています。基本的に食材は半径50キロ以内で調達しているそうで、ワインもほぼこのエリアのものを提供しているそうです。
部屋はスイート込みで71部屋あり、スタッフは200人を超えるのだとか。かなりきめ細やかに対応してくれます。調度品のひとつひとつにセンスを感じます。もう10月の半ばでしたが、プールで泳いでいる人もいました。
少し仮眠をとってから、お願いしていたワインテイスティングに参加して、ソムリエの方からレクチャーを受けました。
簡単にポルトガルワインの概要を聞き、チーズや生ハムとともにワインのテイスティングをします。ワインは白赤2種類ずつとポートが1種類です。
まずはキンタ・ド・ヴァラド(Quinta do Vallado)の白でヴァラド・プリマ(Vallado Prima)。ドォロ最古級のワイナリーのもので、フルーティな香りのデリケートなドライ。そして次に、最近スティルワインに力を入れているというヴァレグレ(Vallegre)の白。飲みやすく、ほどよくクリーミーなのでチーズにもあいます。
赤は、ヴェントゼロ(Quinta de Ventozelo)。香りも華やかな飲みやすい赤です。この地域の葡萄品種はトウリガ・ナシオナル(Touriga Nacional)、トウリガ・フランカ(Touriga Franca)、ティンタ・ロリス(Tinta Roriz)などが中心で、力強い中にもエレガントな趣があって、しかも比較的安価です。これは生ハムに合わせてみます。もうひとつの赤はサン・ベルナルド(S.Bernardo)。伝統品種を使いながら飲みやすいスタイルになっていて、ソムリエの一押しということでした。
最後にポート界の伝説ともいわれるニーポート(Niepoort)。冷やしていただくと、切れもあって食事が締まる感じがします。
ソムリエはとても勉強熱心で、日本酒のお燗の温度のような、微妙な温度帯で味わえるワインの提供も考えているのだとか。
ディナーはメイン・ダイニングで地元のビーフを勧められました。ミニョータというこの地の固有種で、脂身が少ないフィレです。アスパラガスがおいしいよと言われてそちらも。牛肉は柔らかく、添えられたキノコと相まって深い森の香りに包まれています。ホテルのオリジナル・ワインもあったので、それと合わせていただきました。
バーではボサノバが演奏されています。
葡萄畑に抱かれて
朝日が昇ると葡萄畑がキラキラ輝き始めます。
そんな風景を眺めながら朝食です。メイン・ダイニングでいただくのですが、ビュッフェ形式になっています。テラスでとることもできます。
食事の前にハーブなどでつくった特製のドリンクをいただきましたが、これは体に染み入るような感じです。近くの農家でつくるヨーグルトやフルーツがとてもおいしく感じます。
今日は周辺を散策してから自転車を借りて、近くのワイナリーまで出かけてみました。結構観光客も来ていて、レクチャーを受けながらみな試飲しています。やはり近ごろこの地のワインは注目されているのだとか。試飲していた人に人気を尋ねると、自然派だし安価だしこの土地の味がするから、ということでした。
川の水辺がまた気持ちよく、釣り竿があれば魚を釣りたいと思いました。
ランチに地元のビールを飲みながらアスパラガスのスープをいただきます。これがまた体に染み入るおいしさ。そして、この川で捕れたヨーロッパオオカワカマス(ノーザンパイク)のフリットをいただきます。あっさりした白身魚で塩とハーブのシンプルな味付けが爽やかな一皿です。
食事のあとに提案された蜜蜂のワークショップに参加しました。蜂蜜を取った後の蜜蝋を無駄にせずに再利用する試みです。これは天然のワックスみたいなもので、さまざまに加工することができます。ワークショップではろうそくをつくっていました。こういった自然の副産物を廃棄することなく価値に変えていく循環型の考え方を、ここでは体験的に学ぼうということなのです。
夜はもうひとつのレストランでトラディショナルな料理をいただきました。ファドの生演奏が入っています。ポルトでもファドは聴きましたが、ドウロで聴くファドもなんだかしっとりしていいものです。
食事はバカリャウのサラダをいただきました。バカリャウとはポルトガルで有名な干しダラのことです。いろんな料理に使われます。サービスの人に言わせると、バカリャウはどこでも食べるけど、タコの煮込み料理はこのエリアの郷土料理だよ、と。
そう言われると食べないわけにはいきません。最初のランチでいただいた地元のスパークリングワイン「ムルガネイラ(Murganheira)」とともにいただきました。
バカリャウのサラダはさっぱりしていて、タコはワインで煮込んだリゾット風になっています。やはりバカリャウやタコの煮込みなどを前にファドが流れてくると、ああポルトガルにいるんだねって気がしますね。
一説にはカステラのルーツではと言われているパオン・デ・ロー(Pão de Ló)もデザートでいただきました。
次の日もまた天気がよく、テラスで朝食をとりました。スパも体験し、体が軽くなったようです。
たった2泊の短い滞在でしたが、充実した時間を過ごすことができました。ポルトガルのワインの今と、料理も、ごく一部ではあるにせよ知ることができました。
葡萄畑にさよならするのが惜しい朝でした。
【シックスセンシズ ドウロバレー (Six Senses Douro Valley)】
https://www.sixsenses.com/en/hotels-resorts/europe/portugal/douro-valley/
日本での問い合わせ (IHG ホテルズ&リゾーツ) 0120-455-655
この記事を作った人
小西克博/ヒトサラ編集顧問
北極から南極まで世界100カ国を旅してきた編集者、紀行作家。
◆
大学卒業後に渡欧、北極から南極まで約100ヶ国を食べ歩く。共同通信社を経て、中央公論社で「GQ」創刊に参画。2誌の創刊編集長、IT企業顧問などを経て、現職。
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