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更新日:2017.02.27グルメラボ

焼肉を“至高の料理”に昇華させた職人、【炭火焼肉なかはら】中原健太郎氏 from シェフのヨコガオ

人気シェフや話題の料理人に迫る「シェフのヨコガオ」。今回は、これまでとは一線を画したハイレベルな焼肉で、美食家をあっと言わせてきた【炭火焼肉なかはら】のオーナー中原健太郎氏に迫ります。独学で肉を学び、至高の焼肉を提供するに至った経緯、そして想いとは。

焼肉を“至高の料理”に昇華させた職人、【炭火焼肉なかはら】中原健太郎氏 from シェフのヨコガオ

お鮨のように、出された料理をお客様がすぐ口に入れる。
そんな関係をつくりたいというのが、僕の焼肉なんです

――【なかはら】さんの提供する焼肉から、きちんと“料理”がなされていることが伝わります。

 そうですね。僕の場合は、両親も美味しいものを食べるのが好きなので、子供のころから、お鮨屋さんのカウンターの中でやっていることが飲食店のやるべきことだと思っていました。なので、自分が焼肉店をやることになったときもそのイメージが残っていたため、こういう形になりました。

――それは肉のカッティングに表れていると思います。日本料理でも切る技術一つで、野菜も刺身になります。

 うちではお客様の目の前で調理をするのですが、肉を炭火で焼く香りで、お客様の期待を高められるという点では、ほかの料理よりもアドバンテージがあります。そして、口に入れたときの食感を楽しんでもらい、その次に舌で味わっていただく。その中でも食感はとても大事にしています。見て美しいことも大事ですが、切り方によって食感が変わりますから。

 例えば、ネガティブな言い方をすると、アサリの中に砂が入っているのと同じ発想です。一粒でも砂が入っていたらダメ。ジャリッていっちゃった瞬間から、次のアサリを食べるのが嫌になってしまう。だから、食感にこだわったカッティングを徹底して、【なかはら】の肉は大丈夫だという信頼を得る必要があります。

 お鮨にしても、何か変なものが入ってないか眺めてから食べる人はいないですよね。出されたら、すぐ口に入れる。お客様と、そんな関係をつくりたいっていうのが僕の焼肉なんですね。

来てくれた方すべてに同じレベルの肉を。
「今日は当たりだ」とか、食べる側のストレスを完全になくしたい

――仕込みに関しても、かなり徹底して、枝肉を削いでいくことでも知られていますね。

 そうですね。うちの場合、原価率は非常に高いです。通常の飲食店の倍はかかっているはずです。それは、すべてのお客様に同じものを提供したい、不公平感からのストレスを完全になくしたいからなんです。「今日は当たりだ」とか「今日は外れだ」ということにはしたくない、という気持ちがまずあります。

 そういうことを考えると、肉の部位一つをとってみても、位置が少しでも違えば硬さや大きさも異なります。それを同価格で出すにはどうしたらいいか。大きさを揃える、見て美しくするにはどうしたらいいのか、ということにかなりこだわっていますね。

――使う肉の選び方には、独自のメソッドがあるのでしょうか。

 入口としてブランドにはあまりこだわっていないですね。ただ、僕が欲しいタイプというのは決まっていて、わかりやすく言うと、脂が軽いものです。すると雌牛で飼育日数が長いものになっていきます。これが絶対条件です。あとは経験の中で、良し悪しが分かってきました。例えば、包丁の入り方が違うんですよ。同じ室温や条件のなかで、同じようなカットをしていても、すうっと気持ちよく切れる牛がたまにあるんです。何が違うかというと、融点が低い。そして、肉の味がしっかりする。そういった選び方です。

――なるほど。

 焼肉屋だから、何でも良い肉を使えばいいってものではないんです。うちは炭火で焼いて、こういう薄いカットだったり、生だったりという条件が揃っているので、そういう牛が合っていると僕は思うんですよ。もし僕が無煙ロースターを使っていたら、もっと脂が硬い牛を選ぶと思います。良いとか悪いとかではなくて、マッチするかどうかが重要です。タレもそうですね。もしロースターだったら、もっとドロッとしたタレを使っていると思いますが、今のコンディションにマッチするのは、サラッとしたタイプですね。

ほかのジャンルの料理と同じで到着点が決まっているわけではないので、
一生愚直に向き合っていく以外ない

――移転前の【七厘】もそうでしたが、【なかはら】が特別な店である理由の一端がうかがえます。そもそも中原さんが焼肉店をやるようになったきっかけは何だったんですか。

 家内の実家が焼き肉の【七厘】をやっていたというだけのことなんです。ぼくが27歳のころですが、ちょうど狂牛病などの問題もあった時期で、お客さんもほとんど来ない状況で……。かといって店をつぶせというのも無責任なので、じゃあ、中に入って、立て直した方がいいんじゃないかなというのがはじまりでした。

――何か勝算があったのですか。

 いやあ、ないですよ。それまで包丁だってさわったことなかったんですから(笑)。飲食店で働いたことはあっても、ホールだったので、果物の皮すらむけませんでした。そこからですね。目の前の現状をみて、「こりゃまずいな」と。まず変えなければならないことが見えますよね。スタッフとか、店のあり方とか。

――その状況から名店が築きあげられたというのも、すごい話ですね。

 僕の中で後々わかってきたことですが、焼肉店で修業経験がなかったことは、かえって良かったと思っています。肉の流通からわからなかったので、一から学ばなければならないことが山ほどありました。大変ではありましたけど、通常の流儀を知りませんから、自分にとって悪しき慣習にも無縁でいられたわけです。例えば、ほとんどの焼肉店が、冷凍で切り置きしていたんです。そのことさえ知らないから自分はやらなかったわけですが、今考えてみれば、それはお肉にダメージを与えているとしか思えません。

 和牛は、海外のスーパーで日本の3~4倍の価格で売られていて、それでも食べたい人がいるほど素晴らしい食材なのです。少し肉のことがわかるようになってきたとき、日本人が100年以上かけてつくってきた和牛のポテンシャルをいかすようなことをしないのか、それはなぜなのか? そう考えるようになったのです。結論としては、日本の焼肉店には職人がいないということに行き着くのですが、僕はそこを変えたかったんです。

――具体的には、どのように変えていくということなんでしょうか。

 店は良質な肉を提供し、お客さまにその対価を支払っていただく。そこに至るには、提供する側が素材に対するちゃんとした知識とそれを扱う技術を持ち合わせていなければならない。これは当然なのに、焼肉の分野では全くなかったんです。魚をおろせない鮨職人がいないように、自分が牛一頭さばけないで焼肉屋と言えるのか、そんな想いでやってきた結果として今があるんだと思います。

 でも、まだ先は長いですね。和食やフレンチ、イタリアンなどほかの料理と同じように到着点が決まっているわけではないので、一生愚直に向き合っていく以外ないですよね。

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ヒトサラ編集部

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