フレンチの枠を超えた 独自の「木下料理」を追求【AU GAMIN DE TOKIO】木下 威征 氏 from シェフのヨコガオ
ジャンルにとらわれない柔軟な姿勢と自由な発想で、独自の料理を「鉄板」を使い次々と生み出してきた木下威征シェフ。「お客様の声を大切にする」、「人とのつながりを大切にする」というふたつのポリシーを守り、繁盛店を築き上げてきた彼が語る〝木下イズム〟の本質とは?
「全身で楽しんでいただける料理」を目指して
鉄板カウンターのスタイルを追求
――鉄板でつくる姿が目の前で見えるオープンキッチン・スタイルですが、これには何か構想があったのでしょうか?
開店当初は、少人数のスタッフで効率的に店を回す工夫として、鉄板カウンターを設置したという事情もあります。しかし一番の理由は、料理をつくるシーン、立ちのぼる香り、調理する音と、五感をフルに使って「食」を全身で楽しめる店にしたいとの思いからですね。それが徐々に、ライブ感があり食べるまでの気分を盛り上げ、店でのひとときをより楽しんでいただく……そんな今のスタイルとなって定着していったんです。フルオープンのカウンターで段差がほとんどなく、席が一部キッチンと同化しているのも、「鉄板フレンチ」という独自のスタイルも、すべてが、お客様に楽しんでいただくという考えに由来しています。
そうですね……代表料理と言えるのは『スフレオムレツ』ですね。先ほどもお話しましたが、全身で楽しんでいただける料理、「魅せる料理」がうちの基本なんです。これを食べている人を見た別のお客様が「私にもあれをください」と注文が入るような楽しい料理は何かと考え、メニューに加えました。ふんわりと膨らんだ卵のいい香りが鉄板から漂い、上からトリュフとハチミツをかけていただく。オムレツの塩加減とハチミツの甘み、トリュフの香りが口の中で広がる……まさに五感で感じていただく料理、うちのコンセプトが凝縮された料理だと思います。
――お店は駅から少し離れていて、一般的には好立地とは言えない場所ですよね。 以前にも「人脈と腕だけでどれだけ人がくるのか」を試してみたいという考えから、あえて駅から遠い場所に店を構えたことがありました。そこでは開店と同時にお客様に並んで頂ける店となるまでに3年かかりましたが、その時に実感したのは、「きちんとしたものをつくっていれば、お客様は立地に関係なく、足を運んでくれる」ということでした。
ここも少しわかりにくい場所ですが、スタッフが一丸となって、お客様に喜ばれる料理、楽しめる空間づくりに懸命に取り組んでいます。その結果、現在は1ヵ月に400名ほどのお客様がご来店されるようになりました。大切なのは、立地よりもお客様本位で努力すること。結果は後からついてきます。今後は月商1000 万円を目指し、“別格”と言われる店となるよう頑張ります。
自分たちの仕事の根本は、目の前にいるお客様が
何を求めているか、それに対してどう応えられるか
――修業時代、料理長時代、そして経営者と歩んできた中で、料理人にとって最も大切なこととは何だと思いますか?
そうですね、自分たちの仕事の根本は、目の前にいるお客様が何を求めているか、それに対してどう応えられるかだと思うんです。自分の料理はフレンチがベースにありますが、大切なのは、どんなに美味しいフレンチがつくれるとしても、「ハンバーグが食べたい」というお客様の声があったら、それには応えてあげたいという気持ち。自分たちはあくまでも料理人であり、また飲食店はお客様ありきのビジネスでもありますから。自分本位にならず、お客様に喜ばれる料理人でありたいと考えていますね。 例えば、あるお客様が近所まできたからと言って店に立ち寄ってくださるとします。その時に顔をみて、風邪っぽかったら、イベリコ豚と大根や生姜を入れた豚汁をつくってさりげなく出します。また、満席でお待ちいただくお客様には、シャンパンを「お店からのサービス」ということで1杯ご提供します。それはお店からお客様への気配りであり、いずれも料金をいただくことはありません。そうした小さなことの積み重ねにより、お店のファンがひとりでも増え、また足を運んでいただけたらという思いがあるからです。
うちでは年に一度、社員全員で旅行をしています。給料からの積み立てや、売り上げからの捻出は大変でしたが、社員と約束をしたという自分に対する意地もあり、講演会などの個人的な仕事を増やして準備をしました。旅行後に全社員が提出したレポートには感謝の言葉や、今後への意欲など若いスタッフがいろいろ書いてくれましたね。こうしたことを通じて信頼関係を築いていけたらと思っています。昨年行った宮古島はかなり気に入って、近いうちにオーベルジュを開こうかとも考えています。
お客様、スタッフ、仕入れ業者……お店に関わりあるすべての人を大切にしたいですね。それが相互の信頼関係を築き、ひいては発展へと繋がっていくからです。 プロになると技術や道具、経験によって身に付くプライドみたいなものが鎧のように身についてしまい、本質を見失いそうになることもありますが、「冷えてもおいしいおにぎりがつくれる料理人」であってほしい。そうしたマインドを持つこと、また、そのマインドこそが「木下イズム」なのではないかと私は考えています。最後は人。長期的かつ継続的な発展、成功のためには、仲間との信頼関係が不可欠だと思っています。今後は、そうしたマインドを持つ人をどんどん育てていき、それぞれの個性に合わせた店を任せて、その世界を広げていきたいと考えています。
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