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更新日:2017.02.27食トレンド 連載

神楽坂【虎白】~絶妙な位置に立つ日本料理<ヒトサラ編集長の編集後記 第12回>

「食材の力が強いので、今までの料理で使われていた以上の美味しさ、感動を引き出せなければ意味がないことも十分承知していました。トリュフは好きな食材でしたので、なんとかそれを自分のものにしたかったんですね」

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日本料理にトリュフを

 【虎白】というと、日本料理にトリュフを合わせるお店という言い方をよくされたそうです。日本料理にトリュフを持ち込む、というのはなかなかチャレンジングだったと思います。ともすれば、高級食材を無理に料理の中に入れ込んで単価を高くするだけ、との批判も受けかねません。まして、正統派【神楽坂 石かわ】の流れを組む【虎白】でそれをやるとなると、師匠の目もあるでしょう。かなりの覚悟が必要だったことは想像に難くありません。

  • 神楽坂らしい風情のあるエントランス

  • カウンターの目の前で蟹を炙ってくれる小泉さん

 でもそれを軽くやってのけたのがこの【虎白】の料理長、小泉瑚佑慈(こうじ)さん、現在最年少のミシュラン3つ星料理人です。
「自分の店をやるときに、やはり自分のオリジナリティが欲しかったんですよ」
小泉さんはそう言います。また師匠である【神楽坂 石かわ】のご主人、石川秀樹さんも、小泉さんのチャレンジには寛容だったそうです。
「個性が強い食材を自分なりに調理したかった。それがまた新しい日本料理の流れになっていけばという期待もありました。ただ、食材の力が強いので、今までの料理で使われていた以上の美味しさ、感動を引き出せなければ意味がないことも十分承知していました。トリュフは好きな食材でしたので、なんとかそれを自分のものにしたかったんですね」

 【虎白】では、トリュフのみならず、フォアグラなど西洋料理の高級食材を見事に日本料理の流れの中に入れてしまいます。それがいやみではなく、また不自然な流れではないように洗練されるまで、かなりの試行錯誤があったはずです。
 いまではそのチャレンジが評価され、ミシュラン3つ星、予約が取りにくい日本料理店として、世界の人たちから注目されるに至っています。日本料理を世界のトップに認めさせた若き功労者のひとり、といえるのかもしれません。

    鰆の焼物 トリュフソース 下仁田葱 牛蒡

 はじめて、小泉さんのトリュフの香る『甘鯛の松笠焼き トリュフのソース』をいただいたとき、鰹と昆布の出汁と相まったトリュフの華やかで深い香りに、しばらくうっとりしたことがありました。これは普通の日本料理店では味わえない、ちょっとした驚きでもありました。

神楽坂という魅力

 【虎白】は東京の神楽坂にあります。
黄昏時― 街に灯が入るころの神楽坂の風景が私は大好きで、そこになんともいえない日本の情緒を感じます。こんな街もめずらしいのかもしれません。花街の華やかさが時代ともに洗練され、銀座とはまた違ったお洒落感、高級感を醸しています。そこがまた外国人に注目されているところかもしれません。
【虎白】が銀座にあったら、今のような店にはならなかったでしょう。神楽坂は絶妙の位置です。そのことが小泉さんの料理にも好影響を与えているのでしょう。

 牡丹花は咲き定まりて静かなり
 花の占めたる位置のたしかさ

 これは俗語を多用した木下利玄の有名な短歌ですが、小泉さんの料理はこの花のごとく、絶妙な位置に立つ日本料理のような気がするのです。

 【虎白】の前は、ここには【神楽坂 石かわ】がありました。【神楽坂 石かわ】は老舗の多い神楽坂にあって、日本料理の新しい流れをつくった名店で、不動のミシュラン3つ星店。そこで修業した小泉さんは、志を引き継ぐ形で同じ場所に2008年【虎白】をオープンさせています。

 民家の玄関を入るようなエントランス。中にはいると左手に虎の掛け軸。
 カウンターがあり、テーブルが数脚。
 店のライティングは柔らかく、和モダンで、現代アートを飾る空間のようでもあります。

 店主の小泉さんは始終笑顔でこちらを迎えてくれます。

  • 河豚白子焼き 聖護院蕪すり流し

  • 揚物 鴨 筍

 シャンパンで喉を潤し、先付をいただきます。フグの白子焼きに蕪のすり流し。熱く濃厚な白子とあっさりめのすり流し。それと揚げ物で、鴨と筍です。
 お酒をいただいてあわただしさが一息ついたかなと思った頃、香箱ガニの飯蒸しと松葉ガニの真丈がでてきました。

    松葉蟹真丈

 これはちょっとびっくりで、蟹だけで混ぜ物のない真丈。透き通った湖のようなお椀のなかに綺麗に収まっています。箸をつけるのがもったいないような真丈ですが、自然にはらりと身を溶かす蟹。食べ進むにつれてお椀の中が蟹のエキスを出して濃くなっていきます。味が一口ごとに変化していく真丈なのです。

 ヒラメの肝あえが出てきて、宮城の伯楽星でいただきます。
松葉ガニを小泉さんが炙ってくれます。炭の香りがほんのりとレアに焼かれた蟹に移り、すだちをかけると、これまた蟹の微妙な味の変化を楽しめる趣向になっています。

    蟹の炙り

甘味への意欲も

 そして鰆の焼物にトリュフソースがかけられた一皿。下仁田ネギと牛蒡がそえられています。トリュフソースは鰹節、牛乳が入っていて、濃厚な和風仕立て、やはりこの華やかで色香に満ちたトリュフの香りにはうっとりとしてしまいます。日本酒は福島の写楽の初しぼりが出てきました。

 口の中をクールダウンさせる白胡麻豆腐。からすみとキャビア。
このあたりの緩急のバランスが美味しさの領域を拡張させている気がしました。

    白胡麻豆腐 キャビア からすみ

 のどぐろの炭焼き白味噌仕立てです。
全体にスープ感の多い構成です。添えられた海老芋は富田林のもので、コーンスターチを塗ってあげてあります。
 最後に金目鯛の炊き込みご飯が出てきました。
 かなりお腹もいっぱいになり、残りはおにぎりにして持ち帰ることにしました。

  • のど黒 白味噌仕立て

  • 金目鯛の炊き込みご飯

 満腹になっても甘味は別腹とはよく言ったものです。
いちごのデザートは、くるみのリキュール、ラムゼリー。口の中にやさしく美味しい幸せが広がります。
 訊けば、小泉さんは甘味に力を入れており、ちょうど『AWATOYO』というオリジナルスイーツを監修したところ。
 個性あふれる日本料理店の甘味、というだけでもこれは十分おもしろそうです。

    苺のアイスクリーム くるみソース ラムゼリー

 老舗が多い神楽坂にあって、【虎白】は小粋で洗練された国際的な日本料理だと思います。まだまだ進化していくことでしょう。そしてその進化は常に驚きをもって迎えられる気がします。できれば定期的にその進化を味わってみたいと思いました。

 

この記事を作った人

小西克博(ヒトサラ編集長)

北極から南極まで世界を旅してきた編集者、紀行作家。

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