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更新日:2017.03.11食トレンド 旅グルメ 連載

神宮前【傳】x台北【mume】~シアワセの方程式<ヒトサラ編集長の編集後記 第13回>

食事をつくる人と大地を耕す人への思いが、この最後の一皿に集約され、その下には感謝の文字がある。恐れ入りました。これには思わずみな拍手です。とても暖かい気持ちになりました。この幸せなレストランの風景は、オペラのような総合芸術だとも思います。

神宮前,外苑前,傳,台北,mume,東京,アジアベストレストラン50

トキオとタイペイ、ベストレストランの饗宴

 先日、2017年のアジアベストレストラン50が発表されました。
日本からは9軒のレストランが選出され、初登場のフロリレージュが14位にランクインするなど、日本やアジアのグルメシーンの熱さが話題になりました。

 なかでもユニークだったのは昨年37位から11位へと順位を上げた【傳】。「アート・オブ・ホスピタリティ賞」も同時に受賞しています。これは今年から設けられた賞で、おもてなしの姿勢を評価するもの。驚きと感動、これが重要な評価ポイントだそうです。確かにオーナーシェフ、長谷川 在佑さんの人柄やお店の皆さんのホスピタリティには、常にウィットの利いたサプライズが用意されており、そこにはヒューマンなあたたかさが満ちています。

  • 「ありがとう」「Thank you」といった感謝のメッセージが壁一面に

    「ありがとう」「Thank you」といった感謝のメッセージが壁一面に

  • モナカの包み紙に貼ってある傳のシールは、その時々で種類が変わりコレクトする人も

    モナカの包み紙に貼ってある傳のシールは、その時々で種類が変わりコレクトする人も

 そんな長谷川さん率いる【傳】と、今回43位に初ランクインした台北の【mume】の2日間限りのコラボディナーがありました。場所は神宮前の【傳】で、台北からはリッチー・リンさん率いる【mume】チーム。
昨年、台北でリッチーから話を聞いて以来、楽しみにしていたディナーイベントです。リッチーにお願いして席をキープしてもらいました。

 案内された席は、ちょうど目の前でシェフたちの動きが見えるまさにシェフズテーブル。
日本と台湾のチームが、それぞれの個性を引き出しあい、新しい感動をつくる。
チームのメンバー紹介があり、長谷川さんはこう言いました。
「日本と台湾が仲良くできるようなものを少しでも感じてもらえればと思うんです」
リッチーはやや緊張気味だと控えめながら、台湾の食材も持ってきたので、ユニークなコラボを楽しんでほしい、と付け加えました。

    長谷川さんの「よろしくお願いします」の一言で開幕したディナー

    長谷川さんの「よろしくお願いします」の一言で開幕したディナー

自由な構成、楽しさの共有

 ディナーが始まり、シャンパンで乾杯。まず出てきたのは【傳】のスペシャリテであるモナカ。中には豆とマスカルポーネが入っていて、爽やかな味わいです。麹につけたゆずが使われていて、このゆずは【mume】が高知から輸入して台北で使っているものを今回逆輸入したものだとか。アミューズの楽しさが伝わってきます。ちなみに、包み紙に貼ってあるシールは毎回違うためコレクターがいるのだとか。

    マガオを使ったスパイスを上からふわりとかける

    マガオを使ったスパイスを上からふわりとかける

 すぐに、どーんと、レモングラスの香る伊勢海老が登場。リッチーが上からかけてくれたのはマガオという台湾で使うペッパーとディルを液体窒素で固めた爽やかなスパイス。これは台湾でよく使う組み合わせらしく、歯ごたえのある生の伊勢海老を少し南国風に楽しませてくれます。お酒が日本酒に変わり、和歌山の若き作り手『カラクチキッド』。キレのいい純米酒で、それからしばらく白ワインが続きます。

  • 和歌山の地酒、紀土シリーズ「カラクチキッド」

    和歌山の地酒、紀土シリーズ「カラクチキッド」

  • 辛口白ワイン『PUIATTINO Pinot Grigio(プイアッティーノ ピノ・グジージオ)』

    辛口白ワイン『PUIATTINO Pinot Grigio(プイアッティーノ ピノ・グジージオ)』

 次に【mume】の定番、タルタルが出てきました。いきなりメインが2つというのも面白い構成です。バントヒットのあとにホームラン2本といったところでしょうか。こういった構成にも楽しいオリジナリティを感じてしまいます。
 【mume】ではオーストラリア産のワギューを使っていますが、今回は鳥取の田村牛のタルタルです。「部位をいくつか試してみて、内ももを使うことにした」とリッチー。台北の店のタルタルより、フレッシュで全体が柔らかくつくられている印象です。

    【MUME】の代表的なメニュー、梅の花を模した丸い形が印象的

    【MUME】の代表的なメニュー、梅の花を模した丸い形が印象的

 『傳タッキー』が登場しました。ケンタッキーフライドチキンをパロディ化していて、リッチーの顔がプリントされています。まわりを見ると、みなそれぞれ違うシェフの顔。これは大うけで、みな写真を撮っては、すぐにinstagramやfacebookに画像や動画を投稿しています。シェフたちはカメラにピースサインを送ったり、話しかけたり。そして、すぐさまネット上にあらわれる反応をみては、シェフ達や、見知らぬ隣の人と話を始めたり。 
 昨今のSNSが支配する光景ではありますが、大げさに言えば、なんだか地球全体で楽しみを共有しているような感じがして、じつにほのぼのとした気持ちになりました。
『傳タッキー』の中身はもちろん鶏のから揚げですが、あられがまぶしてあり、バジルのソースが上質感を醸しています。

  • 読めば読むほど味が出る、斬新なパッケージ

    読めば読むほど味が出る、斬新なパッケージ

  • シンプルだけれど、しっかりと【傳】と【MUME】らしさがある『伊勢海老の味噌汁』

    シンプルだけれど、しっかりと【傳】と【MUME】らしさがある『伊勢海老の味噌汁』

 日本酒は栃木の鳳凰美田。ここで、さきほどの伊勢海老の味噌汁が出てきて、ほっとします。オリーブオイル、レモングラスがいいアクセントになっていました。

驚きと感動と

 後半は、静岡の日本酒と野菜サラダから。
 揚げる、炒める、焼く、蒸す、それぞれの調理法で調理された静岡県の有機野菜のサラダには、みな顔の違うニンジンが乗せられアクセントに。鰹節がきいたドレッシングが甘みのある野菜を引き立てます。

    色とりどり、食感も豊かな『有機野菜のサラダ』

    色とりどり、食感も豊かな『有機野菜のサラダ』

 いかにも日本と台湾といった料理が二つ続きます。
マガオオイルを使ったアジアンテイストな鯛料理。そして『トンポーロー』の登場です。この『トンポーロー』も【mume】の名物になっていますが、台湾のお茶で漬けられた濃いめの甘い味付け。ラディッシュをはさみ、キャベツでまいてタコス風にいただきます。
 このあたりでようやく赤ワインが出てきました。南チロル、『サンタ・マッダレーナ』の赤。イタリアとオーストリア国境にある美しい村のワイン。肉の甘さを引き締めてくれる口当たりです。

 デザートは、『日向夏のグラニテ』。ヨーグルトムース、昆布茶、ジャスミンティーなどが下に隠れています。とても爽やかで、南の国への思いが広がります。

  • みずみずしさのある絶妙な食感の甘鯛

    みずみずしさのある絶妙な食感の甘鯛

  • 台湾を感じさせる、お茶の香りが豊かな『トンポーロ―』

    台湾を感じさせる、お茶の香りが豊かな『トンポーロ―』

  • 主に南ドイツで栽培されるブドウ「スキアーヴァ」という品種でつくられた赤ワイン『SUDTIROL ST.MAGDALENER』

    主に南ドイツで栽培されるブドウ「スキアーヴァ」という品種でつくられた赤ワイン『SUDTIROL ST.MAGDALENER』

  • シャリシャリとした日向夏のグラニテの下にはヨーグルトのムース

    シャリシャリとした日向夏のグラニテの下にはヨーグルトのムース

 最後に新聞紙が出てきて、何やら文字に丸が書かれています。よくみると、「あ・り・が・と・う」の文字がつながります。
 こういった演出も、盛り上がったショーもフィナーレには、とてもウィットにとんだ演出だと思います。そしてそこに運ばれてきたのが、スコップです。一見泥のついたスコップが新聞紙の上に置かれているという設え。もちろん食べられるデザートですが、レストランのテーブル上の風景としては、あまり見ないものかもしれません。
 でも、どこか、優しさに満ちた絵にも見えます。
 食事をつくる人と大地を耕す人への思いが、この最後の一皿に集約され、その下には感謝の文字がある。
 恐れ入りました。これには思わずみな拍手です。とても暖かい気持ちになりました。
この幸せなレストランの風景は、オペラのような総合芸術だとも思いました。

    カラフルな丸のついた部分を読むと「あ・り・が・と・う」。他にも「ま・た・き・て・ね」など、メッセージは人それぞれ

    カラフルな丸のついた部分を読むと「あ・り・が・と・う」。他にも「ま・た・き・て・ね」など、メッセージは人それぞれ

 食事を用意してくれたシェフが、どうぞ、と差し出したのが軍手です。つくり手の皆さんの思いとのハンドインハンド。
 最後は、みなで厨房に入って、シェフ達と握手しながら記念写真。

 美味しさを通じての交流というのは、簡単なようでなかなか難しい。しかしそれを軽々とやってのける【mume】チームと【傳】チーム。
 長谷川さんに言わせると、リッチーは真面目だしウマがあうと。またリッチーは、長谷川さんの人を驚かせる能力と人間性に高い敬意を払っていると言います。

 日本、台湾を代表するシェフの、本当に感度の高いコラボディナー。今後ますますこういった動きは広がっていくのでしょう。
 終わったころにはもう日付が変わってしまうほど、時が経つのを忘れる素晴らしい共演=饗宴でした。

    【MUME】、【傳】のスタッフとともに、Congratulations!

    【MUME】、【傳】のスタッフとともに、Congratulations!

この記事を作った人

小西克博(ヒトサラ編集長)

北極から南極まで世界を旅してきた編集者、紀行作家。

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