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更新日:2017.05.27旅グルメ 連載

辺境に名店あり vol.5:新蕎麦の季節に喰らう、"そば県"長野・南信州のオススメ蕎麦店

日本の隅々には隠れた名店がたくさんあります。わざわざ行きたい、そんな珠玉の名店を各地に訪ねます。

辺境に名店あり vol.5:新蕎麦の季節に喰らう、"そば県"長野・南信州のオススメ蕎麦店

長野南部・南信州の蕎麦の名店がずらり

『行者そば』『高遠そば』など力強い田舎蕎麦を中心に、バラエティに富んだ店が揃う南信エリア

 長野の代表的な食の一つとしては、やはり外せないのが“蕎麦”。香川がうどん県ならば、そば県と付けたい都道府県の筆頭候補ですが、縦に長い長野県は、地域によって、蕎麦も特徴的です。
 今回紹介したいのは南信州。メインエリアである伊那谷には、『行者そば』『高遠そば』など力強い田舎蕎麦タイプが主流。その中で、各店によって様々なバリエーションが付けられています。

辰野町【そば処 さくら】

 東京方面からJR中央線や中央自動車道を行くと、中央アルプスを越え、南進したエリアが南信州です。
 その入り口、辰野にある人気そば店。
 ご主人は女性で、彼女が打っているせいか、優しく繊細な味の十割そばが楽しめます。力強いタイプのそばが多い伊那谷の中では、希少な存在かもしれません。

  • 上:『ざるそば』
    左:『そばプリン』

 また、つまみや甘味などのサイドメニューも、女性にも嬉しいものが揃っているところも特徴です。
 例えば、『蕎麦プリン』。基本はたまごベースのプリンですが、その奥にしっかりとそばの香りが効いてます。こんなメニューにも、女性らしさが表れているかもしれません。

伊那市【行者そば梅庵】

 信州そばのルーツと言われている『行者そば』。その歴史は奈良時代に遡り、名前の通り、修験者たちからもたらされた蕎麦に由来します。「内の萱」という部落の里人に篤いもてなしを受けたお礼に渡したそばの種が、守り伝えられて今日に至っているとのこと。
 その由緒ある「内の萱」の蕎麦店が、【梅庵】です。

  • 上:『行者そば』
    左:『鴨の鍬焼き』

 その由来もさることながら、そばつゆに、焼き味噌を溶いて入れた辛つゆに辛子大根おろしと葱を薬味に添えて、食べることでも知られています。
 太切りからくる蕎麦の香りと、味噌や辛子大根の香ばしさも絶品。
 木曽駒ヶ岳の登山道の一つ黒川林道の途中という、決してアクセスの良い場所ではありませんが、そば通には知られた人気店です。

高遠町【壱刻】

 その『行者そば』が派生したものが「高遠そば」です。このネーミングの歴史は、実は浅く、1980年頃とされています。
 高遠では、単に『蕎麦』や『行者そば』と呼ばれていたのが、会津では『高遠そば』と呼ばれていたことが判明。それを逆輸入するかたちで、『高遠そば』というネーミングが長野でも使われるようになりました。

 高遠町を代表する蕎麦店は、【壱刻】でしょう。従来の『高遠そば』も堪能できますが、変わり種の蕎麦も人気があります。
 その一つが、まるでフェットチーネのような平打ち蕎麦。好みによっては、オリーブオイルと絡めて食べることもできます。喉ごしよりも香り。そういった傾向の蕎麦好きにはたまらない逸品です。

駒ヶ根市【丸富】

 伊那から駒ヶ根に下ると、また文化圏が微妙に変わります。
 そもそもの蕎麦の名店はあまりなかった地域で、現在一番人気の【丸富】は飯田市で名をはせた蕎麦店です。
 しかし、店主が「きれいな水を求めて移転した」というように、蕎麦つくりの地としてのポテンシャルは高かったのでしょう。この店の蕎麦のクオリティを味わえば、それは一目瞭然でしょう。

  • 上:長野県上村下栗産玄蕎麦粉100%でつくった細打ちそば『しらびそそば』
    左:『旬野菜の盛り合わせ』などの蕎麦前もほっこりとした田舎風

  • 左:昭和初期に建てられた学校をリフォームした、落ち着きのある古民家を利用

 季節によって変わる蕎麦も数種メニューに並びますが、もっとも代表的なものは、『しらびそそば』です。
 長野県上村にある下栗の里で採れる蕎麦粉10割。おそらく香りが強いからでしょうが、それをかなりの細打ちで仕上げられています。
 香りと喉ごしのバランスを取った蕎麦としては、全国でもかなりのレベルの蕎麦だと思います。

松川町【そば打ち にっぱち庵】

 さらに南に下った伊那大島駅近く、松川町元大島にある人気店が、この【にっぱち庵】。
あらびきの粒の見える透明感が特徴の比較的素直な蕎麦であるけれども、プリプリとコシがある食感には職人のセンスを感じさせます。

  • 上:一番人気の『季節の天ざる』
    左:滋味深い『季節の天ざる』

 この店の特徴は、蕎麦自体もさることながら、料理の質の高さとバリエーションが多いこと。店としてもオススメで、一番人気なのは、『季節の天ざる』で旬の野菜などが堪能できます。
 そのほか、特製の焼き味噌、自家製のもろみを使った豆腐など、山の恵みを活かした逸品が揃います。
 現地の人のみならず、登山客、遠方からの蕎麦通にも愛される隠れた名店と言えるでしょう。

飯田市【のんび荘】

 住民一人当たりの焼肉店が最も多い町として知られる飯田市は、山間に開けた広い盆地にあるだけあって、近隣には蕎麦の名産地も数多く控えます。
 そのなかでお勧めしたいのが【のんび荘】。料理旅館として、山肉や川魚などの山の恵みが自慢ですが、ランチなどで食べられるお蕎麦も捨てたもんではありません。

 ご主人が打つ素直な蕎麦には、リピーターも多くついています。

阿智村【そば処おにひら】

 さて、更に下って岐阜に近づく、阿智村の代表的な蕎麦店が【そば処おにひら】。
 かなり山奥に分け入ったところでも、いつも行列ができる人気店で、とにかく豪快さが売りになっています。

 さて、いかがだったでしょうか。
 新蕎麦の季節も佳境、12月下旬になると雪が積もり、動きにくくなるので、このあたりの蕎麦を食べるのに最も良い季節は今なのかもしれません。

この記事を作った人

撮影・取材・文/杉浦 裕

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