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2016.08.09デート・会食 旅グルメ 連載

  • フレンチ

辺境に名店あり vol.4:静岡県富士宮市【レストラン ビオス】

日本の隅々には隠れた名店がたくさんあります。わざわざ行きたい、そんな珠玉の名店を各地に訪ねます。

富士山のふもとで、里山から発信するガストロノミー
  • 店を訪れると、まずヤギが出迎えてくれます

  • 農園側から眺めた店舗

 夏の登山シーズンも真っ盛り。富士山を目指す方も多いかと思いますが、今回ご紹介するのは、その日本最高峰のお膝元、富士宮市にある【レストラン ビオス】です。
 住所には「市」とありますが、最寄りの西富士宮駅からは、車で山道を約15分進んでいかなければなりません。集落と言ったほうがしっくりくる大鹿窪に、ポツンと一軒のレストランが佇んでいるといった言い方のほうが、訪れたことのある方にとっては、イメージが合うかもしれません。

オーナーとシェフ。場所からは想像できないくらいの強力タッグ

  • この日、頂いたランチコースのメニュー。そこには、食材名がずらりと並んでいました

  • アミューズ『枝豆』

 この【レストラン ビオス】を簡単に説明すると、オーナーの松木一浩さんがやっている農園で採れた野菜を中心に使ったフランス料理を提供しているお店となります。となると、農園レストランとでも呼べるのかもしれませんが、件の松木さん、実は【タイユヴァン・ロブション】(現在の【ジョエル・ロブション】)が日本にオープンした際のメートル・ドテル(給仕長)だった方です。
 そして、昨年からシェフを務めている坂本啓さんは、あの【カンテサンス】で研鑽を積んだ方。
 都心で先端のレストランをやっていてもおかしくないくらいのキャリアを誇る二人が、のどかとしか言い様のないこんな環境の中でタッグを組んでいるんです。
 そこが、やっぱりこの店のキモとなるのでしょう。

旬の野菜の良さを、より深く楽しませる組み合わせの妙

  • 前菜『ピーマン、レッドムーン』

  • 前菜『玉蜀黍』

 今回は、大暑(7~8月)のコースメニューから、9皿ほどの「ショートコース」をいただきます。もう一つ、13~15皿が出るフルバージョン「テイスティング・コース」もあります。
 自らがやっている畑で採れたものを出しているので、当然ですが、季節ごとにメニューは変わります。そして、これまた当然ですが、その食材どれもが新鮮。
 ただ、アミューズから前菜と食べ進んでいくうちに気付いたのですが、食材の良さだけに頼り切った、そのままのかたちで出てくるものは、それほどありませんでした。
 そこも、シェフの矜持なのでしょう。

    前菜『虹鱒、人参』

 例えば、前菜の『玉蜀黍』では、トウモロコシをピューレにしたものも、そのまま茹でたもの、ポップコーンにしたものが混在します。味の統一感はありますが、食感のバリエーションが楽しめます。
 また、『虹鱒、人参』で使われたニンジンも、火の入れ具合に微妙に変化をつけることによって、香りと食感に幅を出していました。

メインの真骨頂は、【カンテサンス】出身シェフの確かな火入れ

    魚料理『赤烏賊、南瓜』

 こういった新鮮な野菜をつかった料理に関しては、つい「素材の良さを引き出す」と表現してしまいそうになるのですが、考えてみれば、素材が良ければ、「引き出す」ことはそれほど難しいことじゃないような気もしないではありません。
 たぶん、ここでやろうとしているのは、素材が良いということがスタートラインで、それを料理としてどこまで高められるか。
 メインとなる魚料理『赤烏賊、南瓜』や肉料理『あおい牛、隠元豆』などに見られたと、その火入れの確かさなどシェフの技術の高さからは、「その先」を見つめる意志のようなものも感じられました。


    肉料理『あおい牛、隠元豆』

「里山のガストロノミー」というその先の風景に向かって

  • 口直し『青梅』

  • デセール『桃』

 最後に口直し、デセール、小菓子と進んでいきますが、そんな小品にまで、食材の良さを生かしつつ、ひと工夫加えるというスタンスは徹底。
 ご自身たちは、「里山のガストロノミー」と称しているようですが、あくまでも「ガストロノミー」であることが、ランチのコースからもしっかり伝わります。

    最後の『小菓子』は、農園であることを意識したカカオのビスケット

 少し余談にはなりますが、知人のフーディーズに、デートでも会食でも記念日でも、困ったときは、カンテサンス出身のシェフがいる店に行くという方がいます。【フロリレージュ】しかり、【Abyss】や【オルグイユ】しかり、福生の【サクラ】しかり、名店・良店を挙げていったらキリがありません。
 そして【ロブション】の元メートル・ドテルがオーナーとなったこの【レストラン ビオス】。さらに、新鮮な食材が身近にあるというメリットも付け加えたら、まったくもって死角なし。そんなレストランだと言えるでしょう。

この記事を作った人

撮影・取材・文/杉浦 裕