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2016.06.23旅グルメ 連載

辺境に名店あり vol.3:京都府京丹後市【魚菜料理 縄屋】

日本の隅々には隠れた名店・名料理がたくさんあります。わざわざ行きたい、そんな珠玉の店を各地に訪ねます。

京丹後【縄屋】の人気の秘密を探ります

 それは【セララバアド】の橋本シェフと【チッタアルタ】の茂呂シェフというスペインの伝説的な名店【エルブジ】で働いたことのあるお2人のシェフに話を聞いていたときのことでした。
「例えば和食などでも、【エルブジ】に近いと紹介されているお店もありますが、あまりピンと来ないんですよね。キッチュなプレゼンテーションを取り入れていても、それは単に表面的なことにすぎなくて」(茂呂)
「そうですよね、むしろ滋賀にある【徳山鮓】さんみたいに、地域の自然をつぶさにとらえて、その食材をどう活かしていくかを独自に追求していったらすごい料理になっちゃったっていうお店のほうが、【エルブジ】の本質に近いような気がしますよね」(橋本)
 ああ、なるほど! と、お2人の洞察力の確かさに膝を打ってしまったのですが、この言葉を聞きならが、個人的に思い出していたのは京丹後にある【縄屋】のことでした。

京都、大阪、神戸のどこからも車で3時間かかる立地

  • 立地だけでなく、目立つ看板も出ていないので、つい見過ごしてしまいそうな佇まい

  • 名作「エムエムチェア」を特注した椅子など、設えにもセンスの良さがにじみ出ています

 京都、大阪、神戸とそれぞれの都市から車で2時間半~3時間。丹後半島のほぼ中央に、この【縄屋】はあります。公共交通機関で行くなら、丹後鉄道「峰山駅」まで行って、タクシーで15分。またはバスで「黒部」下車、徒歩3分。こう書いているだけで、その遠さは伝わるかと思います。
 けれども、その苦労は、店内に入った途端に、スーッと抜けていきます。まるで工芸の美術館のように、過度に主張することはなく、けれども随所にこだわりを感じさせる空間が広がります。
 ご主人の吉岡さんは、京の名店【和久傳】などで修行をなさった方。地元で食べていた食材の美味しさを生かした料理を提供する店をやりたいと、30代前半で帰郷し、お店をオープンなさったとか。

魚と野菜、どちらがなくても成り立たない「魚菜(さかな)料理」とは

    『鯛のこなれ鮓』。寿司屋でもないのに、寿司を握るのは憚られるという気持ちから生み出されたスペシャリテ

 「魚菜(さかな)料理」と名乗っているように、地元のものを中心に魚と野菜を上手く使った料理がコンセプト。「魚の美味しい店はあったんですが、野菜も美味しい店は少なかったので、そういう料理の美味しさを地元の人にも知ってもらいたいという気持ちがありました」と吉岡さん。野菜は、近くに八百屋さんがないので、ほぼ自家菜園でまかなっていると言います。
 『金目鯛のこなれ鮓』、『キジハタの煮物』、『黒ムツの焼き物』と食べ進めていくうちに、その真意がじわじわと実感できてきます。付け合わせの野菜との相性が抜群という言葉では収まらない、どちらがなくても成り立たないような完璧なペアリング。緻密な計算によって、この味が生まれていることがわかります。

素材をとことん活かすことで生まれる斬新さ

    『キジハタの煮物』。オオナルコユリや赤くなる前のミョウガの軸など地元で採れる山菜をあわせて

 そして、特徴的なのは、その味付け。和食ではありながら、一般的な出汁や調味料の存在が、ほとんど感じられません。実際には少し使っているらしいのですが、ほんの隠し味程度。「苦味や辛味などは野菜で足せますし、甘味も野菜や魚そのものが持っています。出汁の旨みもそうです」とご主人。そこではたと気づきました。意識なさっているかどうかは別として、その考え方は、化学を通り越して、ナチュラル志向に回帰しつつあるイノベーティブの料理人の方に近いんだ、と。
 周囲にある自然を活かそうと思って追求していったら、イノベーティブともとれる斬新な料理になってしまった。都内の最先端のレストランで出てきてもおかしくない、組み合わせの斬新さを感じられる料理を味わいながら、そんなことを感じました。なおかつ新鮮な素材が使われているわけです。

    日本酒は丹後の酒造のものを中心に。ワインは国産を全国から

 冒頭のお2人のシェフの発言とも照らし合わせるなら、【エルブジ】というよりは、自然の活かし方において【noma】のほうが近いでしょうか。
 でも、わざわざデンマークの【noma】にまで行かなくても、この【縄屋】に行けばいいかと思えるくらい満足感と刺激があったお店です。日本も足元も見つめれば、面白い店はいっぱいあるようです。

 

この記事を作った人

杉浦 裕(ヒトサラ副編集長)