ヒトサラマガジンとは RSS

更新日:2017.05.29食トレンド デート・会食

新世代の女性シェフ~【aeg(エッグ)】辻村直子さん~

今回ご紹介するのは、ノルディック・キュイジーヌに和のエッセンスを取り入れ、独自の世界観を料理に写す白金台【aeg】のシェフ、辻村直子さん。デンマーク唯一の三ツ星【ゲラニウム】で修行した彼女が作る、ガストロノミーの世界に迫ります。

新世代の女性シェフ~【aeg(エッグ)】辻村直子さん~

CHEF’S STORY

ミュージシャンから、運命の出会いで料理の世界へ

  • 北欧の空気感が心地いいカウンター

    北欧の空気感が心地いいカウンター

  • アミューズのスナック

    アミューズのスナック

 地下に位置する、北欧家具がセンス良く配された秘密めいた空間。カウンターには笑顔でゲストに料理の説明をしている女性が一人。この店のシェフ、辻村直子さんだ。

 テーブルにつくと、カウンターの上にはすでにアミューズが準備されている。針葉樹の葉っぱに添えられているのは、白樺の樹皮にしか見えないスナック。自然を写したかのような美しい料理を一人で何品も作り上げる手際の良さから、昔から料理人を志していたのかと思えば、最初の職業はなんとミュージシャン! それがバンコクに旅行をしていたときに出会ったデンマーク人男性と恋に落ちて、結婚をし、大きくその運命が変わっていく。

「もともと主人が北欧で飲食のサービス業をしていたことから、六本木で飲食店を経営することになりました」。その店とは、六本木の【カフェ・デイジー】。緑豊かなテラス席がある、都内唯一のデンマーク料理店として人気を博した店だ。

「学生時代から飲食のサービス業に携わってきましたが、人の出入りの多いキッチン業務でどのポジションもできる人が不可欠と感じ、自店の北欧出身のシェフの元でアシスタントをしました。何人かの料理人と仕事をすることで、デンマークの古典料理や、ノルディックキュイジーヌを自然と学ぶ機会になりましたね」。

本場デンマークで見つけた、料理人としての核

    瞬間スモークした牡蠣(左)は薫香と牡蠣の甘味が口の中で弾ける。マテ貝そっくりのスナック(右)は【ゲラニウム】へのオマージュ。

    瞬間スモークした牡蠣(左)は薫香と牡蠣の甘味が口の中で弾ける。マテ貝そっくりのスナック(右)は【ゲラニウム】へのオマージュ。

【カフェ・デイジー】は人気店となり、順風満帆だったが2013年に再び転機が訪れる。店が入っていたビルの都合で突然の閉店を余儀なくされたのだ。

 「これをいい機会ととらえ、きちんと本場で料理を勉強してみようと思いました」。ちょうど重なった家族でのデンマーク移住を機に本格的に料理を学ぶべく現地のレストランで働くことを決意。移住先のオーデンセンで、昔ながらのパンを作っているパン屋で一年間働いた後、コペンハーゲンで料理を学ぶべく、気になるレストランにオファーレターを送った。そんなオファーを送った中で“たまたま”最初に返事がきたのが、デンマーク唯一の三ツ星レストラン【ゲラニウム】だった。

「見習いとはいえ、同僚はみな世界の選抜アスリートのようなもの。気を抜けばすぐに持ち場から下ろされる。本当に様々なことを学びました。特に刺激を受けたのは料理における香り。シェフのラスムスさんはハーブや花などを生かした薫り高い料理を作られていた方。どんなに辛くても、何十種類ものハーブや花の香りに包まれている調理場は好きでした。ノートに『忘れるな! 素材の良さと香りに気をつける』と書き留めていますね」。

北欧で見つけた、自身の料理の“核”ともなるべき記憶とともに2015年、日本に帰国した。

日本と北欧が融合する新ジャンルの料理に挑戦

    日本のジンギスカンを意識し、ラムを薄切りにしてスパイスを効かせ、新たまねぎとケールのソースを合わせた美しい料理。

    日本のジンギスカンを意識し、ラムを薄切りにしてスパイスを効かせ、新たまねぎとケールのソースを合わせた美しい料理。

日本に帰国する前に、様々な国を旅していろいろなレストランで食べたという辻村さん。
日本の外で学び、刺激を受けてきたものをどう生かすか。そう考えたときにしっくりときたのが、日本の食材で北欧料理をつくることだった。帰国後、店のコンセプトを「ノルディック&ジャパニーズ」と決め、居酒屋「高太郎」、西麻布「甘美堂」で修行。和の素材のこと、日本酒と料理のマリアージュも学んで、2016年10月に自店をオープンした。

 辻村さんの料理は、運ばれてくる皿ごとに口に広がる鮮烈な香りが印象的。「日本の魅力ある食材を使い、旬も大切にし、そこにソースや調理法で北欧料理に近づけていくイメージ」で料理を作る。たとえば春のコースで出てくるメインの『子羊』の料理はイースターに子羊を食べる北欧の習慣から考案。春に旬を迎える日本のラムを、日本ならではの調理法、”ジンギスカン”をイメージして薄切りに。甘い新たまねぎとの味をまとめるのは、はらりとかけられカラスミと心地いい苦味が効いたケールのソースだ。

 どの料理も、日本の食材の優しさや繊細さを考えた上で、スパイスを意識して使ったり、ハーブや柑橘のフレッシュさを生かしたソースを添えるなどの工夫が光る。そして、そのひと皿ひと皿がソムリエでもある辻村さんが選ぶワインや日本酒にぴたりと合う。
「発酵文化など日本と北欧には共通点が多いです。その両方のいいところを生かしながらお客様に喜んでもらえる料理をつくりたいですね」。

aeg

東京都港区白金台5-3-2ジェンティール白金台B1F
℡:03-6277-1399
夜コース:11,000円(税・サ別)

この記事を作った人

撮影/南都礼子 取材・文/山路美佐(ヒトサラ編集部)

この記事に関連するエリア・タグ

編集部ピックアップ

週間ランキング(11/14~11/20)

エリアから探す