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更新日:2018.02.23食トレンド デート・会食 連載

ニュースな新店/国境を超えた最強コンビがつくるオーガニック・レストラン【ザ・ブラインド・ドンキー】神田・東京

編集部一エンゲル係数の高い副編集長・山路美佐が、実際に訪れて気になった新店を紹介。今回向かったのは全米で最も予約困難な店であり続けるオーガニック・レストラン【シェ・パニース】の元料理長ジェロームさんと、目黒の人気ビストロのシェフ・原川さんが二人で開いた【ザ・ブラインド・ドンキー】。その昔、憧れの【シェ・パニース】を訪れた衝撃がいまだ記憶にある私としては、これは気になる!!と早速ディナーに。さて、その全貌は・・・・・・・・?

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日本の食材のポテンシャルに目が覚める。
神田に現れた、"ボーホー・シック"な食の桃源郷

 神田駅から雑居ビルが立ち並ぶ道を歩くと、突如現れるガラス張りの洒落たファザード。
 
 神田の裏路地にいるはずなのに、そのガラス越しから漂う空気感が、ここはロンドンのメリルボーン、あるいはパリのマレ地区、はたまたブルックリン!? と一瞬錯覚を起こさせる。チャーミングなドアを開けて中に入ると、その異国的な心地良い空気感はぐっと密度を増した。

    【ザ・ブラインド・ドンキー】の二人。原川慎一郎さん(左)とジェローム・ワーグさん(右)

 "神田にすごい店がオープンした"と聞いたのは食いしん坊仲間のライター・小寺慶子さんから。なんでも厨房に立つのは、全米、いや全世界からの客で予約が取れないサンフランシスコのオーガニックレストラン【シェ・パニース】の料理長だったジェローム・ワーグさん。【シェ・パニース】といえば半世紀近く前の開業時から「地産地消」を謳い、「オーガニック」の食材本来のおいしさを生かす料理で世界中のシェフたちに影響を与えた名店。さらに、そんなジェロームさんとともに店を作ったのは、目黒の人気ビストロ【BEARD】のシェフだった原川慎一郎さん、と言うではないか!

 ちょうど、ヒトサラの会報誌で『新世代の名店に名コンビあり』という特集を作り終わった私は、「おお、ここに、こんなビックコンビが!」と、早速仕事でお世話になっている、エレガントな女性マリさんと一緒にディナーに訪れたのだ。

    今日の料理に使われる食材の数々。横須賀【SHO farm】の野菜、東京の【ファーマーズ・シープ】から送られた柑橘、広島の猟師さんから届いた猪で作ったラルドなど

 店内に入るとまず目に飛び込むのは、大きなオープンキッチン。そのうえに並ぶのは柑橘類に、カラフルな野菜、イノシシの脂で作った自家製ラルド・・・・・・。ジェロームさんと原川さんが日本全国を旅して出会ったという食材だ。

 実は、彼らがこの店をオープンしたときに一番大切にしたことは「地球を守りながら、自然とともにあるレストランにする」という思い。その思いがこれらの食材の数々に込められているという。

 使うのは、極力実際に足を運び、顔を合わせた農家が育てるオーガニック野菜や、酪農家が育てる家畜の肉、環境に配慮している漁師から届く魚など。彼らから食材を買うことで志の高い生産者をサポートし、それが地球を守ることにつながる循環となる。

 そうして集められた力に満ち溢れた食材は、本来の味を生かして料理される。メニューはコース一本。まさに【シェ・パニース】と同じコンセプトだ。

    真鯛のカルパッチョには大根。梅干しのドレッシングの酸味とミントの香りが爽やか

 そのコースはというと、アミューズの「水俣のあおさと松の実」から始まり、カラフルな大根を敷いた「真鯛のカルパッチョ」など、素材の力強さが伝わるシンプルな料理が続く。カルパッチョと一緒に食べた大根のおいしさといったら! 続く「小鹿のリゾット」もミルキーでやさしい鹿肉の風味にうっとり。それぞれの料理にあわせるペアリングワインはすべてビオワインだ。

 メインの「栃木軍鶏、柚子と冬野菜のロースト」の食感の違う軍鶏肉をほおばり思わず“おいしい”と声を漏らす私。サーブしてくれた原川さんが「ここの軍鶏農家さんは栃木で30年軍鶏を育てている方なんです。ヨーロッパで出会った『プーレノワール』という鶏の品種に魅せられて栃木の軍鶏とかけあわせて作ったものなんですよ」と嬉しそうに話してくれた。そうした食材の持つストーリーを知り、豊かな日本の恵みに思いをはせるのも、この店の楽しみだ。

    栃木の軍鶏は焼いたものと煮込んだものと二種類を盛り合わせて。焼いたものは身の弾力と香り、煮込んだものは旨味とそれぞれの魅力を堪能できる。冬野菜の濃い味わい、柚子の香りが食欲をそそる

それにしても、なぜこの二人で、日本で店を始めたのか? 疑問はつのるばかり。原川さんに聞くと、そのいきさつを教えてくれた。

「2011年ジェロームが来日したイベントで出会ったことがきっかけですね。以来、ジェロームの『自然とともに料理はある』という哲学に感銘をうけて【シェ・パニース】の厨房に何度も足を運んだんです。足を運べば運ぶほど、そのレストランが持つ空気感に魅了されていきました。厨房では怒号が飛ぶのがあたりまえの世界だった僕にとって、厨房で和気あいあいと皆がケアしながら仕事をしているのにまず驚きましたね。その“ケアする”という考えは働く環境だけでなく、料理や使う食材にも、大きく俯瞰して言えば地球のことまでつながっているんです。ああ、この空気感を日本でみんなにシェアしたい。そう思いました」。

    シェフのジェロームさんが思う東京の魅力は「食の多様性」だとか。「大規模なものから小規模なものまでさまざまな種類、魅力が混在しているのが面白いね」

 そんな【シェ・パニース】独特の空気感に魅了されたのは、約30年前のジェロームさんも同じだった。パリ生まれパリ育ちのジェロームさんは、【シェ・パニース】の創業者、アリス・ウォーターさんと母親が友人だったことから同店があるバークレーを訪れる機会に恵まれた。 ”自由と解放”を叫んだ60年代カルチャーの香り、ボヘミアンたち、あらゆる革新があるのにオープンな雰囲気。その真ん中に【シェ・パニース】はあった。もともと料理が好きだったジェロームさんは「言葉にできない特別な空気」に魅了され、パリから移住して【シェ・パニース】で約25年も料理をし続けた。

 原川さんと出会って以降、日本に興味を持ち来日の回数も増えたジェロームさん。2015年、「そろそろ今までの経験と知識で新しいことをやりたいと感じていた」というタイミングもあり店を辞めると申し出た。原川さんとともに日本という新しい地で、新しい言葉で、新しい環境で店を出すという”新しい冒険”を決意したのだ。

    無垢材のカウンター、高い天井、店内のインテリアもオーガニックな雰囲気

 ちなみに、新店の場所に”神田”という土地を選んだのはジェロームさんの希望だったそう。「古き良き東京、つまり江戸の風情が残るような場所が好きでした。神田はそういう風情もありながら、都心からそこまで遠くないですしね。わざわざこの店に足を運んでもらって、この雰囲気にふれてもらいたいです」。

 原川さんは自身が料理人であるにもかかわらず「今はジェロームが作る料理と、この空気感をゲストに伝えたい」と、料理に口を出すことは一切せずに、ワインのセレクト、食材の仕入れなどの裏方に徹する。心を込めて育てられた食材で作るジェロームの料理に原川さんが選ぶワイン。そして二人がつくる温かな空気。

 この場所には確かに、彼らが魅せられた彼の地での空気感を想像させる「特別な時間」が流れている。大好きな人と訪れればきっとすごく満ち足りた気分になるだろう。

 ディナーは人気で予約が取りづらいけれど、入り口すぐにはバースペースがあり、17時~はふらりと寄ってアラカルトとワイン一杯、なんて使い方もできる。

    バーメニューのひとつ。茨木の農園【シモタファーム】のルッコラと、渋谷の【チーズスタンド】のモッツァレラ。1050円

 ここはまさに神田に誕生した食の桃源郷。「オーガニック」とか「サスティナブル」とか頭で考えようとすると難しく感じるけれど、こうしておいしく食事をすることで自然と人々がそこに思いを馳せることができるということが、素敵。

 すっかりリラックスして店を出て思う。やっぱり、愛なんだよな。愛。人のことも地球のことも未来のことも愛を込めて考えることが必要だよね。

「LOVE&PEACE」そんな言葉が口をつく。

訪れればわかる。あなたもきっと、店を出るころに、そう小さく声に出したくなるはず。

    コースにあわせてぜひワインペアリングも楽しみたい。ヨーロッパを中心に、日本、アメリカなどのビオワインがラインナップ。ペアリングは5000円~

【ザ・ブラインド・ドンキー】(the Blind Donkey)

  • 住所:東京都千代田区内神田3-17-4
    電話:03-6876-6349
    営業:17:00~23:30(17:00~はバー利用、レストラン営業は18:30~)
    定休:日曜・月曜
    料理:8000円コース1本のみ。ワインペアリングは5000円~

撮影/岡本裕介

この記事を作った人

山路美佐(ヒトサラ副編集長)

幼少時代から筋金入りの食いしん坊。丸の内の総合商社に入社するも食への探究心を抑えきれず退職しイタリアに短期料理研修の旅に出る。帰国後世界文化社に入社し「家庭画報」ほかの雑誌で食・旅・アートの編集を担当。2017年3月から現職。美味探求の旅は30カ国以上にのぼる

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