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更新日:2018.07.13食トレンド デート・会食 グルメラボ

巨匠に学ぶ人生学②ジョエル・ロブションにインタビュー「大きな時代の変化に挑戦し続ける今」

世界を駆け巡り活躍する料理界の巨匠の”今”をインタビュー。今年4月にオープンした【Dassaï Joël Robuchon】のこと、親友と呼ぶ【すきやばし次郎】の小野二郎さんのこと、SNSのこと、これからのプロジェクトのこと。時代の変化を捉え73歳の今も挑戦し続けるロブション氏の言葉は、すべての人々の心に響く。

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ジョエル・ロブション プロフィール

1945年4月フランス中部ポワティエ市生まれ。12歳で神学校入学、15歳で料理の道を志す。39歳でミシュランの三ツ星を史上最短記録で獲得。料理界の歴史にその名を刻み、自店【ジョエル・ロブション】での名声も絶頂の50歳のときに突然引退宣言。しかし、その後現役続投を熱望する声に押されて58歳で復帰。

Interview

―相変わらず世界を飛び回られていると思います。最近はどのようなお仕事をされていますか?

 ちょうど一か月前に、日本の人気の酒造メーカー【旭酒造】のシグニチャーである酒『獺祭』とコラボレーションしたブティックをパリにオープンしました。パティスリー、ブランジェリー、それから、酒バー、サロン・ド・テ、レストランが併設されています。それは最近の大きなニュースですね。また、今動いている大きなプロジェクトとして、料理学校を作る準備をしています。私の出身地である、ポワティエ市のモンモリヨンに1400人程度の生徒を受け入れられる規模になる予定です。皆様もご存知だと思うんですが世界でも一番有名なローザンヌホテル学校とパートナーシップを組みます。

    6月19日にグランドオープンした【Dassaï Joël Robuchon】。パティスリーには、"日本とフランスという二つの文化の融合”をテーマにした獺祭の酒や酒粕を使ったチョコレートやケーキ、洋菓子やパンが並ぶ。サロン・ド・テ、レストランでは食事も楽しめる。

―現在構想中の料理学校は、いつオープン予定ですか?

今現在、2020年以降オープンの予定です。ほかにも来年ニューヨークに【ガストロノミー ジョエル・ロブション】が、スイスのジュネーブ、ロンドン、マイアミに【ラトリエ  ドゥ ジョエル・ロブション】がオープンします。マイアミは新しいコンセプトで、従来の“ラトリエ”とはまた違うレストランになると思いますよ。

―続々と新しいプロジェクトが進行中なんですね。

 実はパリでもう一つビックプロジェクトがあるんですが、今は詳細をお話することはできません。でも、初めてこの話をインタビューで話しました(笑)

    【Dassaï Joël Robuchon】はフォーブル・サントノーレの一等地にオープン。シックなファザードが目をひく。*問い合わせは、旭酒造株式会社 ☎0827-86-0120(受付時間 8:30-17:30) http://asahishuzo.ne.jp へ。

―新しい試みといえば、2018年2月に【すきやばし次郎】さんとのコラボレーションディナーが開催されました。どういう経緯で開催が決まったのですか?

 私が小野二郎さんと知り合ったのは、もうはるか前のことになります。アラン・シャペルさんがご存命だった頃、1976年の私が日本に通い始めた初期から存じ上げています。二郎さんの仕事は寿司の美学そのもの。また和食とは何か、というのを如実に表現していらっしゃいます。その中にある純粋さ、潔さ、とてつもなく気品に満ちていることに魅かれ、さらに驚くべき技術の蓄積があるというところに心からの尊敬を抱いています。二郎さんのところで初めてほんのり温かさの残る、人肌のシャリをいただきました。それまでは温かさを感じるシャリを寿司で味わったことが無かったので記憶に残っています。

 私にとって、二郎さんは、フランスの料理界におけるポール・ボキューズさんに値する方。その尊敬する方とのコラボレーションだったのでお話をお受けしました。

    2018年2月11日、六本木ヒルズクラブで行われた、"すきやばし次郎×ジョエル・ロブション with 書の巨匠 吉川壽一 スペシャルディナー『情熱 ~パッション~』"での一コマ。ロブション氏は小野二郎氏を敬愛してやまない。

―メニューはどのように決めたのですか?

 二郎さんと私とで一つのコースメニューを作りました。互いに同じ食材を使って次郎さんは寿司で、私はフランス料理で表現する、という具合です。全体の調和、ハーモニーを大切にしながらメニューを構築しました。例えば、"ウニ”という食材を使い、二郎さんがウニの軍艦巻きを作ります。それに合わせて私もウニを使い、ジャガイモのピュレとウニの料理を作りました。この組み合わせは特段珍しくないですが、そこに徳之島産のコーヒーパウダーをジャガイモのピュレに振りかけました。そうすることで、苦みや食感のアクセントが出、海苔を食べた感覚を想起させる―。つまり海苔を使わずに、海苔の苦みと調和を取ったという事ですね。

―今回、二郎さんとコラボレーションしてみて、どうでしたか?

 本当に私にとってはイベントという枠を越えた出来事でした。というのも二郎さんと私の心が一つになった時間だったからです。互いの、自身の仕事に対する情熱、かける思いというものが一つになり、本当に人として互いに心が一つになった。食のプロとして、同じところを見ていたという事は、自分にとって感動的で忘れられない時間となりました。濃密で、とてもエモーショナルな時間でした。

    コラボレーション・ディナーでのメニューの一例。左がロブション氏がつくった、コーヒーパウダーがアクセントのウニとじゃがいもの一品。

―次から次へと新しい仕事を作られていて凄いです。その仕事への活力はどうやって生まれるのですか?

我々の仕事は過去ばかり見ていてはいけないんです。常に未来を予見することが必要。新しいアイデアや革新的なことを行いながら、常にポジティブな気持ちで向かってく。だからこそ仕事をしていて楽しいのです。

―今の時代は昔よりも変化も早く、情報の伝達手段もスピードも違います。そういった中で、革新的なことを行うことは難しいのではないでしょうか?

 そうですね。今とは違いレストランのメニューが何年も何年も変わらない時代というのがありました。お客様は何年も何年も繰り返しレストランに行きながら、いつも同じものを食べていた時代がありました。さらに、私が最初に日本に来たのは1976年のこと。そのとき私がインタビューを受けた媒体は、4大新聞のなかの一つのみでした。でも今はかつてとは違います。インターネットもありSNSというのも非常に盛んになり、全てのことがスピード感をもって広がり、どんどん変わっていく時代です。ですから料理に限らず、すべての産業分野において常に革新的に変わり続けるということが大切ですね。

    【ガストロノミー ジョエル・ロブション】のダイニング。パリさながらのゴージャスな空間はドレスアップした人々で連日満席。

―それはレストランも、そのように変わっていかなければいけないと?

 必要不可欠なことでしょうね。もしも変わらなかったら、もうそれで死んでしまう、終わってしまうという事です。

―SNSによる影響も大きいですよね。

 SNSが発達したことによって、良い点と悪い点があると思っています。たとえば、才能のある若い料理人やパティシエはすぐに見つけられて称賛され、素晴らしいと推薦される。それはそれで凄く良い事ですが、彼らはだからこそ自分に変化を強いなければならない。つまり、自ら成長し続けないと、止まってしまうというリスクがある。ある意味、生きにくい時代だと思います。さらに皆さん新しいものが好きですよね。次から次へと新しい物がでてくる。それについていくという事は非常に大変です。

 また、新しい人が登場するたびに除外されていく人や才能も当然出てくるわけです。今の人たちは私たちよりタフな時代に生きていると思います。うっかりするともう、新しい流れに飲み込まれて脱落してしまう恐れがある。ですから、将来を担う若い才能のある料理人やパティシエ達は、まず日々の自分の仕事の中できちっと根を張る、地に足をつけて、仕事のクオリティをしっかり上げることが大切なのではと思います。

  • ロブション氏のインスタフォロワーは14万人越え。巨匠の素顔やオフショットが満載。

  • 【Dassaï Joël Robuchon】のハンバーガーもロブション氏のインスタにアップ。

―今はSNSなどでシェフ達も国境を越えて交流し、知識を共有しあっています。その為自由なクリエーションが増す一方で、国のアイデンティティが薄まっている料理が多くなっている気がします。それについてどう思われますか?

 全くおっしゃる通りです。先ほど私が言ったように、SNSというのは良いことも悪いことも両面あると思うんですね。

 先週私は卵の料理を作りまして、レストランでお出ししました。先週のことです。そのお料理をお食事されたお客様が写真を撮りSNSで載せたら、すぐに他のレストランが真似をして作っているのを発見しました。私はそれを心から残念に思いました。なぜかといえば、この卵の料理はニース風サラダを自分なりに解釈してモダンに再構築したものでした。それは、フランスの文化的な意味を含んだもの、つまり自分のエスプリがベースになって生まれた料理だったのです。それがSNSで発信されたことによってたちまちコピーされ、そういった本来の文化的な意味をまとわずに国境を越えて広がっていってしまう。それはSNSの弊害といいますか、残念なことだと思います。

    スぺシャリテ『キャビア 甲殻類のジュレに なめらかなカリフラワーのクレーム』を制作する、ロブション氏。

―確かに、似たようなものがいろいろなところで増えるという弊害はありますね。

 しかし、ポジティブなこともあると思います。それはローカルな食材の力。その土地にしかない食材の力が見直されてきたことだと私は思っています。例えば、日本のウニは非常に素晴らしいと私は思います。“カリフォルニアに行ったって、ウニがあるじゃないか”という人がいるかもしれません。でもそのウニは日本のウニほど味わいはデリケートではないし、上品ではないのです。例えばフランスのトリュフの素晴らしさというのは、他の国でとれるトリュフとは違います。

 食材というのは、海からくるもの、土からくるものがあると私はいつも言うのですが、漁をすることで獲れる、魚やイカ類。それから土を耕すことによって手に入る野菜、それらは採れる場所、食べる場所によって味わいが変わるのです。当然それが採れる場所、作られている場所で食べることが一番おいしいです。それが、私は誰も奪う事ができないその国の食のアイデンティティだと思っています。そういうことが逆に、SNSが発達することで浮き彫りになってきたと思います。

―食材、そこにその国の料理としてのアイデンティティを表現するキーがあると。

 例えば先ほどお話しました、私がモダンに作り直したニース風サラダは、真ん中に温泉卵を置き、その周りをレタスのピュレをベースにしたクーリで包みました。トマト、オリーブ、ツナ、じゃがいも、アンチョビもこの料理には使っています。つまり、食材はすべて伝統的なサラダニソワーズです。

 そして……これは、本当に今まで誰にも話をしていないことですが(笑)私は、フランス料理を代表するよう古典的で王道の料理を、今現在の2018年の時代に合った形にもう一回蘇らせるという作業をよくしています。じゃあなぜ私がそんなことにトライしているかというと、それはやはり、その国特有の食文化を大切に守っていきたいのです。正統なものとは何か、という原点に立ち戻って。しかしそれを今まで作られた形で出すのではなくて、自分のフィルターを通して、今の時代の感覚に合わせて、楽しんでもらうにはどうしたらいいかを具現化しています。

    年に2回は来日し、【ガストロノミー ジョエル・ロブション】、【ラ ターブル ドゥ ジョエル・ロブション】の現場をまわり、スタッフとコミュニケーションをとる。

―秘密を教えて頂き、ありがとうございました(笑)。最後に、これからどんなことにチャレンジしていきたいですか?

 私は、コンパニオナージュというものをやりたい。「おじいさんが一人亡くなったら、図書館が一つ燃えてなくなった」ということわざがあります。その彼のノウハウというものは、彼の死によって、世の中から無くなってしまう。もう手の届かないものになってしまう。ですので、最初にお話しました、料理学校のプロジェクトというのは、私の技術やノウハウを将来の、未来の料理人たちに伝えていく場所にしたいのです。この地球上で、生きている時間というのは、限られているわけですね。つまり、イメージで言うと、時間の中を私たちは通り過ぎているわけですね。その通り過ぎていく中で、人というのはやはり成長していかなければならない。今、自分が成長すること、と言ったら、それは伝えていくこと。伝授していく事なんだと思います。

―料理界として確固たる巨匠としての地位を築かれているのに、さらなる成長を目指すという言葉が素晴らしいですね。

 "さらなる成長を目指す"ということが、私を元気に前に進ませてくれる、私の情熱の源なのです。それによって生かされているのだと思います。

この記事を作った人

山路美佐(ヒトサラ副編集長)

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