ヒトサラマガジンとは RSS

更新日:2018.11.23旅グルメ

”ワインを旅する”新しいスタイルを、聖地ボルドー・メドックから②

世界最高峰の銘醸地フランス・ボルドーのメドックを舞台にワイン・ツーリズムの魅力を紹介するシリーズの2回目。今回は18世紀のクラシックなシャトーと最先端の醸造施設が見事に融合したシャトー・キルワンを訪ねる。タブレット端末のモニターに浮かぶ蝶々の案内で庭園を歩けば、ボルドーのエスプリに触れられるはず。

アプリで見る

総支配人の案内でシャトー見学とテイスティング

第2回:シャトー・キルワン

    メドックらしい優美なシャトーを間近に見られるのもワイン・ツーリズムの魅力。

ワイン・ツーリズムの賞を6度も獲得

    各ヴィンテージのワインを保管するヴィノテーク

 「ベスト・オブ・ワイン・ツーリズム」は、ボルドー、マインツ(ドイツ)、ケープタウン(南アフリカ)など9つのワイン産地からなるネットワーク「グレート・ワイン・キャピタルズ」が毎年、優れたワイン・ツーリズムを展開しているワイナリーを表彰している権威ある賞だ。アワードは、宿泊施設、レストラン、建築と景観、アート&カルチャーなど7つの部門から成る。この賞を過去6回も獲得しているのがマルゴー村にあるシャトー・キルワン。

不死鳥のごとく甦った名門シャトー

 シャトーの歴史は12世紀まで遡ることができる。18世紀半ば、当時の所有者だったコリンウッド家の娘とアイルランド人のマーク・キルワンが結婚したことにより、シャトーはフランスでは珍しい「K」で始まるキルワン(Kirwan)という名前を持つことになる。

 19世紀にはボルドー市の副市長を務め、庭園の造営でも名高いカミーユ・ゴダールが所有。今日このシャトーの邸館の周辺に広がる美しい庭園はゴダールと無関係ではない。1855年のメドックの格付けでは3級に列せられ、そのクラスのトップであるとの評価を受けた。

    醸造所の入り口。近づいてよく見ると、ぶどうの木の周辺のレリーフは文字(ボルドーワインに関する言葉)で構成されている。

 その後、フランス革命で土地は没収され、シャトーの名声は一旦過去のものとなる。復活の狼煙を上げたのが現在の所有者でもあるシュローダー&シェラー家だ。1925年にシャトーを買収すると、ブドウ畑と醸造施設に改良を加え、次第にワインの評価を上げていった。93年からは当時飛ぶ鳥を落とす勢いだった「空飛ぶワインメーカー」ミッシェル・ロラン氏をコンサルタントに招き、モダンなスタイルに大きく舵を切った。その後、醸造コンサルタントはメドックで最も活躍しているエリック・ボワスノー氏に代わり、現在に至る。

    ナタリーさん。観光学と農学を修めた才媛

 このシャトーがツーリズムに力を入れるようになったのは95年から。「当時は、周囲から異様な目で見られたものです」と語るのは、オーナー一家のメンバーで総支配人、レセプションとツーリズムも担当するナタリー・シェラーさん。パリで長年観光業に従事していた彼女がワイン・ツーリズム導入のキーパーソンだった。

 シャトーはワインそのものでプロモーションすればいい、というのが当時のボルドーの風潮だった。所詮ツーリズムはワイン造りのプロではない女性のやることと軽く見られたこともあったが、ものの数年で、ツーリズムがコミュニケーションに大いに役立つことを立証されると、周囲の見方も一変、多くの人がナタリーさんに教えを請いに来るようになった。今では、このシャトーだけで、一般の観光客とプロフェッショナルを合わせて、年間約15000人の来訪者があるという。

世界最先端の醸造設備は一見の価値あり

    チューリップ型の最新式醸造タンク。この形状が果皮からの成分抽出を助ける

「ニューエイジ・ツアー」(14ユーロ)はレセプションで手渡されるiPadの画面に舞う蝶の導きで始まる(この新趣向の企画で、シャトー・キルワンは2018年度の「ベスト・オブ・ワイン・ツーリズム イノベーション部門」を受賞した)。ブドウ畑を眺め、小川の流れる広大な庭を通って、ワイナリーへ。クラシックな佇まいのシャトーとその隣に立つスーパーモダンな醸造所(2016年に改修を終えたばかり)がコントラストを成す。

  • タブレット端末に映し出された蝶がブドウ畑、醸造施設へと誘導

  • 醸造施設の入り口でタブレット端末から人へと案内役が代わる

 アーティスト、ガイ・トロプレによる、ブドウの木をモチーフにした作品が覆うドアから施設内に入る。ここで案内役はスタッフにチャンジ。運が良ければ、ナタリーさんが付いて説明してくれる。室内の随所に配された芸術作品はワイン造りが芸術と同義語であることを語る。内側を樹脂コーティングされたチューリップ型のコンクリートタンク、ポンプを使わすワインを優しく移動させるための容器(月面着陸機のような形)など、醸造設備は世界最先端だ。2種類のワインのテイスティングとカヌレが付く。

  • 左/ディナーの設え。右/シャトー・キルワン2014は、奥ゆかしいカシスの風味となめらかな口当たり

「グルメ・イブニング・イベント」(18—22ユーロ)は、施設内のツアーの後、チーズ、生ハムなどの季節のつまみとワインのアペリティフが楽しめる。誕生日や結婚記念日のお祝いに使いたいのが「ヴィンテージ・ツアー」(80ユーロ)。施設内のツアーが終わると、予め指定しておいた好みのヴィンテージのワインがデキャンタされて待っている。それをチーズと共に楽しむ(6名まで)。また、2人以上による予約で、熟成庫を見下ろすテイスティングルームで食事を楽しむことができる(詳細は直接シャトーに確認を)。

メドックの名門シャトーには気品とエレガンスを纏った独特の空気が流れている。ぜひ、現地でその空気を胸に吸い込んでいただきたい。

    バラの花がブドウ木を見守るように咲く畑とシャトー・キルワン2010

メドック豆知識:奇跡のテロワール

 世界でもトップクラスの高級銘柄を多数世にも送り出しているメドック。なぜこの土地でそれが可能になったのか? その答えの筆頭に挙げられるのがテロワール(地勢、土壌、気候など、ぶどうを育む自然条件のこと。そこにさらに人の営みを加えることもある)だ。中でも特筆すべきはその土壌。大きな川が運んできた土砂が河口付近に堆積してできたメドックの土壌は砂地と石ころでできている。稀に粘土を含むことがあるが、その比率は右岸(サンテミリオンやポムロールがある)ほどではない。砂と石ころでできた土壌の利点は排水性が高いこと(ぶどうは多湿を嫌う)。またぶどうの根が容易に地中深くに伸びること(地中深くのミネラル分と出会うことによりぶどうの風味が増す)。比較的平坦な土地の続くメドックだが、多少の起伏や高低差はあり、場所によって石ころの大きさや混じる割合に違いがある。これが各区画の個性となり、そこに実るぶどうに個別のキャラクターを与えるのだ。

動画で訪ねる、『メドックで巡るワインの旅』

撮影・動画制作/永田忠彦 取材・文/浮田泰幸

メドック・ワインツーリズム関連記事はこちら

この記事に関連するエリア・タグ

人気のタグ

編集部ピックアップ

週間ランキング(12/10~12/16)

エリアから探す