名店が教える「スペシャリテの秘密」|【bistro simba】の『えび香るブイヤベース』
一度食べたら忘れられない。何度食べても驚くほどおいしい。そう思わせるあの店のスペシャリテには、きっとつくり方に秘密があるはず。そうだ。その秘密、直接シェフに聞いてみよう。
サーブされた瞬間からえびが
香るシンバ流・ブイヤベース
【bistro simba】の『ブイヤベース』は、訪れたゲストの大半が注文するというほどの看板料理だ。丁寧に火入れした旬魚とえびのグリルに、別添えのココットに入ったスープをかける。スプーンを口元に運ぶとオマール海老のいい香りが漂い、飲めば旬魚の香りと味が凝縮。旨みこそあれどえぐみはまったく感じない。
この日に使った魚は、キンメダイ、マダイ、ヒラメ、イサキ、イトヨリ、タチウオ、サバのアラと骨。菊地シェフいわく、ヒラメやアンコウなど、ゼラチンの多い魚を入れるとおいしさが増すという
「海老を多めに使うのが大事。お客さまにも『ビスク』と『スープ・ド・ポワソン』の中間、と伝えています。〝濃厚〞〝クリア〞〝香り高い〞味わいを意識してもらえれば」。
スープの味の決め手は、別の料理に身を使った魚のアラや骨、オマールの殻とミソ。つまり端材だ。『ブイヤベース』をはじめ、【bistrosimba】では食材の使い切りを徹底、ロスを最小限にとどめている。
「フランス時代に働いていたビストロではタラを使うとき、背はロースト、腹はブランダード、残りをブイヤベースにしていたんです。文字通り食材を余すところなく使う〝ビストロ〞という文化が素晴らしいなと思って、自分が店をやるなら〝ビストロ〞だと心に決めていました」端材の扱い方と、食材が持つ可能性を広げる『ブイヤベース』の味わいを、ぜひ確かめてみてほしい
オマール海老のミソは殻から取り出し、後でスープに合わせる
濃厚な味わいと旨みをもつ、希少なオマール海老のミソは、大事な味の要素。
海老のミソはあらかじめ頭から取り出し、別の容器に移しておく。殻のまま使ってしまうと、溶け出しきらないことがあり、使える量が少なくなってしまう。スープに戻すタイミングは、骨やヒレ、オマール海老の殻などをこしたあと。ハンドミキサーを使って、スープにしっかりと溶けるようにかき混ぜ、さらにもう少し細かくこす。こうすることで、濃厚さと旨みが増しつつ、なめらかな舌触りのスープができあがる。
「大切なのは〝濃厚〟〝クリア〟〝香り高い〟の3ポイントを意識することです」
『えび香るブイヤベース』のつくり方
別の料理から出た食材の端材が生む美味
「食材を無駄なく、使い切りたい」というシェフの思いから、ブイヤベースに使われるアラや骨、殻は、他の料理をつくる際に出た食材の端材が使われる。
材料(10杯分)
・魚のアラ(5~10種類) 7.5kg
・ウイキョウ 約1個
・玉ねぎ 3個
・オマール海老(身以外) 16尾分
・オリーブオイル 1000cc
・にんにく 2株
・イタリアンパセリ(軸) 適量
・トマトペースト 800g
・白ワイン 1500ml
・水 3500ml
・塩 適量
〔盛り付け用/1人あたり〕
・旬の鮮魚 3~4種類・各1切れ
・さいまき海老 1尾
・イタリアンパセリ(葉) 適量
・ピモン・デスプレット(またはカイエンペッパー) 適量
つくり方
❶魚のアラを、流水で濁りがなくなるまでさらしておく。アラと骨に塩で下味をつけ、100℃に温めたスチームオーブンで10分ほど蒸し焼きにする。
❷ウイキョウ、玉ねぎを炒めやすい大きさに切る。
❸オマール海老の頭からミソを取り出して、別の容器に移しておく。殻の砂袋を取り、ハサミで炒めやすい大きさに切る。胴体から足を切る。
❹2つの大鍋にオリーブオイル各500cc、房ごと横半分に切ったにんにく1株ずつを入れて強火にかける。以降は2つの鍋で同じ調理を行う。
❺にんにくの香りが立ち、オリーブオイルから煙が立つくらいの温度になったら、オマール海老の頭と足を炒める。香りが立ち、赤くなってきたら、胴体を入れて炒める。
❻胴体に火が入ったら、2 の野菜、イタリアンパセリを入れ、さらに炒める。
❼野菜に火が入り、甘みが出てきたら1 を出た水分ごと鍋に加える。ゼラチンが多いので鍋底が焦げ付かないよう木べらでよくかき混ぜる。
❽トマトペースト、白ワインを加えてよくかき混ぜる。大きめの麺棒を使って魚の骨をやや細かくなるまで砕きながら煮る。
❾白ワインのアルコールが飛んだら、水を加えて、またよくかき混ぜる。こす前に、塩でもう一度下味をつける。
❿手鍋を使って、2つの大鍋を1つにまとめたら、ムーランを使ってこす。
⓫こしたスープに、オマール海老のミソを入れ、ハンドミキサーでよくかき混ぜたら、1回目よりも細かい目のムーランでこす。味を見て塩を入れ、最後の味を決める。
⓬フライパンでグリルした、旬の鮮魚とさいまき海老をやや深めの皿に盛り付け、上からイタリアンパセリの葉とピモン・デスプレットを散らす。スープをココットに入れ、レードルを添える。
『ブイヤベース』3つのポイント
Point①時間短縮するために魚はオーブンで蒸し焼きに
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通常、ブイヤベースの魚介だしは煮込んでとるが、【bistrosimba】では仕込み時間短縮のため、火入れにスチームコンベクションオーブンを使う。しっかりと火が入れば問題ないので、100℃で10~15分ほど蒸し焼きにしよう。
オリーブオイルで炒めてオマール海老の香りを出す
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菊地シェフいわく、「オマール海老は、頭と足は香りが立ちやすく、胴体は水分を多く含み、旨みが一番強いんです」とのこと。炒める際には、頭と足から炒めて香りを出し、その後胴体を加えていくのがよいそうだ。
長く煮込まないように加える水は少なめにする
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長時間煮込めば煮込むほど、魚の旨みが出るのかと思いきや、その逆。魚からなるべくえぐみを出さないように煮込む時間は短めがいい。最後に加える水の量は、想像よりも少なめだが、仕上がりの味わいがクリアになる。
いかがでしたでしょうか。【bistro simba】のブイヤベースを、ぜひご自宅で再現してみてください。
教えてくれたのは 菊地佑自さん
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1976年、東京都生まれ。学生時代は教師を目指していたが「何かをやりたい」と一念発起し料理の
世界へ。25歳で渡仏、10年にわたる滞在で調理技術を磨く。帰国後、麻布十番【エレネスク】を経て、2015年、【bistro simba】を開業。
撮影/三木 麻奈 取材・文/郡司 周(ヒトサラ編集部)
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