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更新日:2019.04.26食トレンド デート・会食 連載

ふわっと柔らか。優しい鶏肉と卵のハーモニー『むねカツ丼』/【分店 鳥よし】森脇慶子の“今月の気になるヒトサラ”Vol.14

焼き鳥の名店【鳥よし】の分店として中目黒に去年オープンした【分店 鳥よし】は締めのメニューが充実しているのも人気の一つ。そのなかでも、森脇さんが特にお気に入りというのが、こちらの『むねカツ丼』。しっとり、ふわっとやわらかな歯ざわりのむね肉と卵が一体化し、さらに玉ねぎのほんのりとした甘みを生かしただしと混じり合うと、口の中が”優しいおいしさ”で溢れます。ありそうでなかった、かつ丼。必食です。

今月のヒトサラは・・・・・・中目黒【分店 鳥よし】
どこまでも優しい歯ざわりと味わいにとろける『むねカツ丼』

“かつ丼”といえば、肉は豚と相場は決まっている。

 福島県は会津のソースかつ丼に岡山県のデミかつ丼、新潟県のタレカツ丼等々、一口にかつ丼といってもお国ぶりは様々だが、肉は総じて豚。とんかつが、いかに日本人に愛されているかがわかろうというものだ。

 そう、確かにとんかつは美味しい。けれども………。

 昔から、妙に惹かれるのはなぜかチキンカツなのだ。洋食店やとんかつ屋で“チキンカツ”の文字を見かけると、他の料理を目当てで来ているにも関わらず、つい、心が揺らいでしまう。そういえば、大学時代、学食で食べるランチは、(他に選択技がなかったせいもあるが)たいてい“一口チキンカツ定食”だった。揚げおき感満載のかつだったけれど、さっぱりしていて悪くなかった。意外に人気があったようで、ちょっと遅い時間に行くと品切れしていることもまま。今思えば、むね肉を使っていたように思う。

    『むねカツ丼』1,200円。従来のようにかつを卵でとじるのではなく、とじた卵をかつの上からソースのようにかけるスタイル。こちらのメニューは、中目黒分店のみのメニューだ。

 そのチキンカツとは比べようもないが、美味しいチキンカツを食べさせてくれる店が中目黒にある。いや、正確に言えば、チキンカツの丼。いわば『鶏肉のかつ丼』である。

 創業25年目を迎える焼き鳥の名店、中目黒【鳥よし】。そのすぐそばに去年の3月、新たにオープンした【鳥よし分店】の締めの新メニュー『むねカツ丼』が、それだ。

    伊達鷄のむね肉。艶やかで透明感のある肉質の方が、旨みにコクがあり、「どこかネットリしたおいしさがありますね」とは店主の猪股さん。

(中目黒本店の)開店以来、福島の伊達鷄を一貫して使い続けできた【鳥よし】。その理由を店主の猪股善人さんは、こう語る。「伊達鷄はくせが無く、旨味があり肉質もしっかりしている。それでいて、適度な弾力のある柔らかさが特徴ですね。脂の乗りも程よくて、ジューシー。

「日本人向きの鷄で、焼き鳥に向いていると思います」

 フランスで10年以上焼き鳥に携わり、美味しいフランスの鷄を色々と見てきた猪股さんならではの見解だろう。かつにする鶏肉も、当然伊達鷄。それもむね肉を使用。ジューシーなもも肉に比べ“むね肉はパサつく、味が無い”と思われがちだが、さにあらず。意外にもむね肉は優れものなのだ。

    油の温度は180℃をキープ。揚げ時間は約1分ほどと短く、キツネ色に色づけばOKだ。油はサラダ油を使用している。

「むね肉は、淡白なようでいて、けっこう旨味は強いんですよ」との猪股さんの言葉通り、旨味成分であるグルタミン酸とイノシン酸が多く、中でもイノシン酸はなんとモモ肉よりもむね肉の方が圧倒的に多いのだ。また、タンパク質も豊富で低カロリー、イミダペプチドルという疲労回復成分まで多く含まれているなど栄養効果もバツグン。調理法次第では、もも肉には無いしっとりとした滋味を楽しめるのもむね肉ならではの持ち味だろう。

    丼に刻み海苔をたっぷりと敷き詰め、揚げたての鶏かつをのせる。この刻み海苔がいい仕事をしている。米は、新潟のコシヒカリ。

 この『鳥かつ丼』がまさにそれ。一口大にカットした鷄むね肉のカツには、微塵のパサつきもなくふうわりと柔らかなのだ。油の温度や揚げている時間にコツがあるのかと思いきや「いえ、別に。普通に揚げているだけ。伊達鷄の持つ肉質のせいで柔らかく揚がるのではないでしょうか?」とのあっさりとした答え。だが、作り置きは一切せず、注文のたびに、小麦粉、溶き卵、パン粉と丁寧に衣をつけて揚げる手間のかけ方、終始180℃の強火で一気に揚げる等々。当たり前といえば当たり前のことをきちんと守る、その律儀さ、手抜きのなさが味を左右していることは否めまい。

    親子丼用の小鍋に出汁とスライスした玉ねぎを入れ、さっと煮る。ここに伊達鷄の溶き卵二個分を入れ、蓋をしてひと煮たちさせる。このだしと卵の量もポイント

 その鳥かつとご飯をつなぐ卵とだし。ここにもおいしさの秘訣がある。

 だしは、四半世紀継ぎ足して来た焼き鳥のタレと鶏ガラでとる自家製スープが半々。
伊達鷄の卵は、なんと一人前に2個とたっぷり。これらで鶏かつをとじてフィニッシュと思っていたら、とじるのは玉ねぎのみ。丼によそったご飯が見えなくなるほど刻み海苔をふりかけ、そこに鳥かつを三切れを乗せたら、溶いた卵がまだやや半熟状のうち、鶏かつの上から丼へと一気に流し込む。これで、見事完成!

    半熟状にとじた卵液を、鶏かつの上から一気に流し込む。鶏スープと焼き鳥のタレを半々で割っただしの甘みが優しくごはんに染み渡る。

 出来立てアツアツを頬張れば、すんなりと抵抗なく歯が入る柔らかな鳥かつとやわやわと柔らかな卵にほかほかのご飯、この三味の一体感が素晴らしい。

 どれ1つとして突出することなく、1つの旨味となって口中を覆う醍醐味! これぞ、丼ものの本分だろう。

「卵とだし、ご飯のバランスに一番気を使います」

猪股さんのこの一言が舌に伝わる佳品である。

猪股義人シェフからひと言

伊達鷄は、飼育日数が90日と長く、旨味があり、肉質の柔らかいところが気に入ってます。特にむね肉は美味しいと思いますよ。この鶏かつは、まかないで時々作っていたもの。それを丼にアレンジしてみました。

分店 鳥よし

  • 住所:東京都目黒区上目黒2-8-5
    電話:03-6412-8801
    営業時間:17:00~ 22:00(LO)
    定休日:火曜
    平均予算:5000円前後

撮影/今清水隆宏

この記事をつくった人

  • 森脇慶子
    「dancyu」や女性誌などで活躍するフードライター。綿密な取材と豊富な経験に基づく記事は、読者のみならずシェフたちからも絶大な信頼を得ている。日々おいしいものを探求すべく新旧問わず様々な店を訪問。選者を務める「東京最高のレストラン」(ぴあ)も好評発売中。

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