更新日:2019.08.30旅グルメ
日本初取材!世界No.1シェフ、マッシモ・ボットゥーラがつくったモデナのホテル【CASA MARIA LUIGIA】すべて見せます
『世界のベストレストラン50』第一位に輝き、去年殿堂入りとなったモデナのレストラン【オステリア・フランチェスカーナ】。マッシモ・ボットゥーラシェフの次なるチャレンジは何とホテル経営。貴族の館をリノベーションしたホテルはまるでマッシモの別荘のよう。シェフの美意識が詰まったホテルを、日本のメディアで初取材した。
世界的シェフの最新プロジェクトは、自身の別荘のような小さなホテル
【オステリア・フランチェスカーナ】オーナーシェフ、マッシモ・ボットゥーラは、以前からモデナ郊外に田園ホテルを作りたいと話していた。ここ数年、マッシモは本家【オステリア・フランチェスカーナ】以外にモデナにカジュアル・レストラン【フランチェスケッタ58】を、グッチとのコラボによる【オステリア・グッチ】をフィレンツェに、【トルノ・スービト】をドバイにOPENと、精力的な活動が続いているが、その中でも最も目玉となるのが今年5月にOPENしたばかりの田園ホテル【カーサ・マリア・ルイージア】だ。
モデナ郊外の街道から一本入った裏道にある【カーサ・マリア・ルイージア】は19世紀に作られた
”ヒトサラスペシャル イタリア編”の取材のため、【オステリア・フランチェスカーナ】の前で、マッシモの右腕として長年セコンド・シェフを務めるダヴィデに取材していた時のことだ。
「いまちょうど【カーサ・マリア・ルイージア】をOPENしたばかりで、マッシモはホテルとレストランを行ったり来たりしている時期。でもそろそろレストランに戻ってくる時間だ」と、まさにそのホテルの話が登場した。待っていると、やがて「この車の音はマッシモだ」とダヴィデ。耳をすますと確かに派手な排気音が遠くから聞こえてくる。そして【オステリア・フランチェスカーナ】があるステッラ通りにほどなく現れたのは、紺色のマセラティ・カブリオに乗ったシェフコート姿のマッシモ・ボットゥーラだった。
「僕の新しいホテルに一緒に行こう」と、マセラティに乗ってモデナ郊外へ!
車から降りるないなやマッシモは「まだ【カーサ・マリア・ルイージア】見てないよな?今から案内するから一緒に行こう」と、取材チームに提案してくれるではないか。
マッシモは【オステリア・フランチェスカーナ】にそのまま入って食事中のゲストのテーブルを回って挨拶し、マネージャーのペッペと二言三言言葉を交わすとこちらにやってきてこういった。
「さあ、今からマセラティで【カーサ・マリア・ルイージア】へのドライブを楽しもう」
【カーサ・マリア・ルイージア】はモデナ中心部から車で20分ほどの郊外にあるが、マッシモの運転ではそれより大幅に早くついたことはいうまでもない。両脇に木が生い茂るアプローチを抜けると、やがて正面に【カーサ・マリア・ルイージア】が見えてくる。
ドライブの途中にマッシモが話してくれたところによれば、これはヴィッラと呼ばれる貴族の邸宅で、19世紀に作られた後何度か所有者が代わり、近年は打ち捨てられて廃墟同然になっていたという。
以前から小さくても田園ホテルを作り、自家菜園で作る料理でゲストをもてなしたいと言っていたマッシモはこのヴィッラを購入。ララ夫人と共同作業で、全12室のゲストハウスを作り上げた。コンセプトはマッシモの別荘にいるかのように寛いでもらうことで、広大な庭やプール、テニスコートも完備している。
【カーサ・マリア・ルイージア】とはマリア・ルイージアの家という意味だが、それはマッシモの母親の名前だ。また、ホテルのロゴはマリア・ルイージアのイニシャルMとLを組み合わせだが、それはマッシモとララのイニシャルでもある。そうした細かいディテールにもマッシモは運命的な出会いを感じたそうだ。
ボットゥーラシェフが愛する宝物があふれる空間
リビングやサロンもマッシモが好むヴィンテージ風インテリアで統一されている
実際【カーサ・マリア・ルイージア】はマッシモの別荘のような場所だった。まずエントランス入ってすぐ左にはマッシモのプライベート・コレクションであるジャズやオペラの古いアナログ・レコード盤がずらりと並ぶ。
右の部屋にはアンティークの蓄音機がありゲストも自由に使うことができる。マッシモがかけてくれたのは1956年発売、エディット・ピアフ「ラ・ヴィアン・ローズ」の初版EPレコード。
「先日フランス人のゲストにこの曲を聞かせたら泣いちゃったよ」とマッシモは嬉しそうに笑う。
今回秘蔵の一枚「ラ・ヴィアン・ローズ」の初版を聞かせてくれたマッシモ
続くサロン・スペースの壁には中国の現代アーティスト、アイ・ウェイ・ウェイの組み写真「落下する漢時代の壺」がタイルで描かれている。これは【オステリア・フランチェスカーナ】ファンには広く知られている作品で、マッシモのお気に入りの一つ。
シグネチャー・ディッシュのひとつ「ウップス!落ちたレモン・トルタ」は盛り付け中にトルタを落とし、割ってしまった際にマッシモがひらめいたドルチェで「古きを壊して新しいものを創造する」という【オステリア・フランチェスカーナ】の料理観が具現化された作品なのだ。
壁に飾られたアイ・ウェイ・ウェイのアートの他、ヨーゼフ・ボイスなどマッシモの好きなアーティストの作品が飾られている
全12室はそれぞれにスタイルが異なるが、統一されているのはマッシモの好きなミッド・センチュリー・ヴィンテージ。アンティークの家具や壁紙にはグッチのファブリックが多く使われている。各部屋にはミニ・キッチンもついているのでコーヒーを入れたり自分の部屋のようにくつろぐこともできる。
客室は12室限定。ゲストは15才以上から、大人だけが静寂を楽しめる空間だ
ロフトのような3階部分はマッシモやララさんのプライベート・スペースになっているが、実はここにはマッシモ秘蔵のバルサミコが眠っている。モデナを代表する食材であるアチェート・バルサミコは樽に保管して長い年月かけて熟成させて作られる。地元の食材を重要視するマッシモお気に入りのバルサミコ・コレクションは【オステリア・フランチェスカーナ】でも使用されているのだ。
屋根裏にある秘蔵のバルサミコが眠る「アチェタイア」モデナを代表する伝統の味
モデナの恵みを、ガストロノミーのクォリティで食す絶品朝食
朝食は毎朝スタッフが薪釜でパンやピッツァ、フォカッチャを焼いてくれる
【カーサ・マリア・ルイージア】のハイライトはマッシモ自慢のモデナ式朝食だ。今回特別に試させてもらったのだが、まず朝早くから専用の薪釜でフォカッチャやパンが焼かれており、一面にただよう香ばしい香りにうっとりとする。
ダイニング専用ルームではモルタデッラやリコッタ、パルミジャーノ・レッジャーノなど地元の食材がところせましと並べられており、どれも【オステリア・フランチェスカーナ】で使用している最高級のものだ。揚げたてのニョッコ・フリットも登場し、朝食にしてはかなりのボリューム、ランブルスコが欲しくなるほど。
「ニョッコ・フリットにはモルタデッラが一番」とチャーミングな女性スタッフ
【オステリア・フランチェスカーナ】で見覚えのあるベテラン・サービスマンが取ってくれたのがマントヴァを代表するアーモンドとトウモロコシのトルタ、ズブリソローナとモデナ伝統食材である豚の腸詰コテキーノ、それに出来立ての濃厚なザバイオーネ・ソース。そう、この組み合わせは【オステリア・フランチェスカーナ】の代表作のひとつ【モデナ・エ・ミランドラ】と全く一緒なのだ。
ズブリソローナ、コテキーノ、ザバイオーネというモデナらしい味の組み合わせ
また、このダイニング・ルームではマッシモはじめ【オステリア・フランチェスカーナ】のスタッフが出張して料理を再現、宿泊客専用のプライベート・ダイニングとして楽しむこともできる。
料理は9皿【オステリア・フランチェスカーナ】のコースを少々軽くしたものにワイン・ペアリングで450ユーロ。世界一予約困難な【オステリア・フランチェスカーナ】の料理をどうしても体験したいなら、【カーサ・マリア・ルイージア】にステイして味わい、という手もある。
しかしこちらも現状人気殺到中につきキャンセル待ちも必須。それでも世界一の味を試してみたい人ならばトライする価値があるはずだ。
なんと、この彫像はイヴ・サンローランの長年のパートナーだった、ピエール・ベルジェのコレクションだったものだそう。アートにも造詣が深いマッシモ
マッシモは「フード・ツーリズムこそが今や世界のトレンドだ」という。つまり遠方からはるばるレストランに出かけ、その土地の食材や風土などに触れる旅は知的好奇心を刺激し、地方経済を潤す、ということ。
モデナという地方都市のレストランで世界一を獲得したマッシモの発言は説得力がある。モデナを訪れる人にとっては、またしても魅力的な旅のデスティネーションが増えただけでなく、例え世界一予約困難な「オステリア・フランチェスカーナ」で席がとれなかったとしても、マッシモ・ボットゥーラの世界に触れることができるのだからモデナを旅する際には是非滞在してみてほしい。
CASA MARIA LUIGIA
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住所:Stradello Bonaghino 56, San Damaso, Modena
電話:+39 059 469054
部屋の料金:1部屋450〜750ユーロ、料理1人450ユーロ
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撮影・動画制作/永田忠彦 取材・文/池田匡克
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