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更新日:2017.05.27食トレンド 旅グルメ 連載

アジア・フーディーズ紀行 vol.8:シンガポール【Les Amis】

上海、バンコク、ソウル、台北、香港……アジアの混沌は、料理においてもモダンを超越するのか? そんな直感を確かめるべく、アジアのガストロノミーを巡ってみました。第8回はシンガポールで、ハイレベルなフランス料理を貫く【レザミ】です。

球体が奏でる信頼のハーモニー、シンガポールの2つ星フレンチ【レザミ】

 シンガポール滞在最終日の日曜日。夜の便で帰国なので、ランチをどこでとるか探していましたが、選択肢はそれほど多くありません。個人経営の店は、ほとんど日曜は定休日なので、ホテル系や商業施設に附随したレストランなどに限られます。
 となると、選びそびれていたフレンチ系ですね。ここは、アジア50ベスト・レストランでランクの高い方から選び、2016年でNo.12にノミネートされている【レザミ】に予約を取りました('15年はNo.13、'14年はNo.14、'13年はNo.14)。ミシュランは、二つ星です。

海外店でのメニュー選びは心理戦?

 今回のテーマはプリフィクスコースのメニュー選びに関して。
 常々思っているのは、このメニュー選びは、ある種の心理戦だということ。とくに初めて訪れた海外の店では、そうです。
 何を選ぶかによって、こちらも試されている気分。基本的には食べたいものを頼めばいいと思いますが、食べたいものがいくつかあるのなら、どうせなら客としても気に入られたい。一発勝負で、わかりあえた気になりたい。常連でもないのに、わがままなものです。

 そんな心理戦が、気持ちよくハマることもあります。
 あくまでこちらの妄想かもしれませんし、お店がうまく客をのせてくれただけかもしれませんが、そんな食事は楽しいものです。

シンガポールの中心地の一つ「Orchard Hall」駅から徒歩約3分。ショッピングセンター「Shaw Centre」の1階にある【レザミ】

 週末のランチコースは2つ。『Menu Tasting』(155SGD)はトゥーマッチなような気がしたので、選んだコースは『Menu Formule』(90SGD)。3皿+デザートのプリフィクスです。
 品のいい装丁のメニューブックを手渡されながら、物腰の柔らかな店員の説明によると「冷前菜と温前菜、メインから1皿ずつ選んでください」とのこと。

制作者の気持ちが反映されるメニューの並び順

 会食などの席次もそうかもしれませんが、例えば、映画のエンドロールのクレジットの並び順にも暗黙の了解があります。
 出演者に関しては「①主役→②脇役→③大物→④脇役→⑤準主役」というような順番が一般的です。
 時間があるときにいくつかの実際のメニューを検証してみたいのですが、この並び順はレストランのメニューでも同じ法則があるように思っています。

 逆に制作サイド(映画なら監督、レストランならシェフ)の立場で考えてみます。
 その方の作家性にもよりますが、自分がつくっているものに対してこだわりの強い方の場合、どこに力を入れているかを想像してみます。
 ①の主役は、制作者の意志に関わらず決まる側面が大きいです。客から最も求められるもの、ということにプライオリティが置かれるので、俳優でも料理でも人気のものが来る場合が多いはずです。
 逆に、大穴は実は④じゃないかと考えています。「人気はないかもしれないけど、絶対に外したくないもの」、けっこう制作者の個人的な好みが反映されるような気がします。
 映画でも、主役・準主役は張らないけれども、その監督の作品には必ず出演する、名バイプレーヤーがクレジットされるのは、たいていここです。

 そんなことを考えたりすることもあって、プリフィクスの場合、私は③の大物と④の大穴を狙いがち。そういう趣味なんです。

 この日はメインから決めていき、温前菜と冷前菜と逆算していこうという戦略。『熟成アイリッシュ・ビーフ』が③の大物、『ピニョン(鳩)』と『テット・ド・ヴォー(仔牛の頭)』が④の大穴だという印象ですが、メインは苦手なものでなければ④の大穴を選ぶことに決めています。
 そうすると、シェフやスタッフがノッてくるケースが多いのです。
 どちらも好物ですが、その日の気分で『テット・ド・ヴォー(仔牛の頭)』にしました。

 続いて温前菜。③の大物が『ロブスターのルエル』、④の大穴が『フォアグラ&チェリー』。ここでも大穴を狙いたいところですが、やはりメインとバランスを取って大物系にしておきます。

 で、悩んだのが、最初の冷菜。英語のメニューだったこともあるでしょうが、あまりピンとくるものがないのです。
 そういうときは、なかば投げやりかもしれませんが、①の主役を頼みます。『フォアグラのテリーヌ』。

安定のクオリティを誇るシンガポールきっての老舗フレンチ

 前置きが長くなりましたが、ランチのスタートです。
 この【レザミ】をグラン・メゾンと位置づけて良いだろうことは、細かなサービスが豪華なことからも頷けます。アミューズ1皿目のスナックですっかり口の中の気分をフレンチに持っていかれ、自家製パンのクオリティの高さに納得。そして、2皿目は、生ハムメロンをイメージしたムース仕立て。

  • 上:少し和のテイストも入った一口アミューズ
    左:バターも特製
    下:メロンのソルベがひんやり

 これらのアミューズを食べている途中、スタッフの様子に少し変化が。
 「お客様――」と声を掛けられた時の雰囲気は、映画の中の1シーンのように、時間が少し止まったような感じがしました。
 「シェフと相談したのですが、お客様のようなお好みでしたら、冷前菜の『フォアグラのテリーヌ』ではなく、温前菜の『フォアグラ&チェリー』の方がよろしいかと思うのですが」
――でも、それぞれ1皿を選ぶのではなかったでしたっけ?
 「いえ、シェフから、『テット・ド・ヴォー(仔牛の頭)』をご所望いただける方なら、こちらの方が口に合うはずなので、メニューなんて気にしないようにことづかっております」
 そもそも、温前菜に『フォアグラ&チェリー』を選ぼうかかなり悩んでいたので、願ったり、叶ったり。それを引き出すきっかけが、メインのメニューの選択だったとは、何とも嬉しい限り、心理戦に勝利した気分です。

  • 『フォアグラ&チェリー』。低温で丁寧に火入れされた厚みのあるフォアグラに、セサミの香りとチェリーの爽やかさが加わります

 続いて、給された『ロブスター・ルエル』。店のスペシャリテに挙げられることも多く、さすがのクオリティです。

  • 中を開けると、しっとりしたロブスターとサーモンが詰まっています。ソースが美味

 そして、メインは件の『テット・ド・ヴォー(仔牛の頭)』。実際のところ、大好物で、かなり食べてきた郷土料理ですが、ここでのそれは洗練の一言。味はオーソドックスで、濃厚なとろみが口に溢れます。

  • 上:きれいな円形に盛り付けられた『テット・ド・ヴォー』
    左:マスタードの小瓶も未開封のもの

 そして、また、物腰の柔らかいサービスマンが、「次のデザートなのですが、お客様なら――」と切り出してきます。
 もう、こうなったら、内容を聞く前に、心の中では「イエス」です。
 要は、デザートに本日メニューには載せていないスペシャリテをお出しできる、と。

球体が奏でるハーモニー

 そして、テーブルに置かれたのが『桃のコンポート』。まるで真珠。スペシャリテだと自信を持つのが、その美しさからもわかります。
 敷かれたゼリーの上に鎮座する球体を崩すと、中から桃のコンポートが現れます。
 それにしても、このシェフ、球体や円形が好きなんですね。話す機会があったら、その真意を聞いてみたいものです。

  • 『桃のコンポート ゼリー載せ』

 〆の小菓子も上質。最後のディテールまで手を抜かないところに、長年築いてきた信頼を感じます。

  • 上:小菓子と食後のコーヒー
    左・下:会計の際に渡されたお土産。中を開ければ『フィナンシェ』

 それにしても楽しい食事でした。初めての来店だったのに、シェフと気持ちが通じ合った気がします。とはいえ、改めて、こう自問しないわけではないです。
 のせたのか、のせられたのか?
 その判断は、読んで下さった方に委ねますが、こんな楽しさを味わいに、海外のグランメゾンに通うのも悪くはありません。

Les Amis

営業時間:ランチ 12:00~(最終入店14:00) ディナー 月~木 19:00~(最終入店21:30) 金~日 18:30~(最終入店21:30)
定休日:無休
電話番号:+65 6733 2225
email:lesamis@lesamis.com.sg

  • ガラス張りの店内に、ランチタイムは柔らかな自然光が降り注ぎます。一転、ディナーはかなりムーディーに

予約の仕方

 電話のほか、メールなどで。
 現在のところ即時予約システムはないようです。
 メールでのやりとりの基本は英語で、リアクションも迅速。3日前のアプローチでしたが、すぐに返信が来ました。

ドレスコードや店の雰囲気

 シンガポールでフレンチといえば【レザミ】と長く言われてきたように、現地では確立したお店。その知名度のせいか、様々な客層が見られました。ランチでは、カジュアルなデートや友人との会食、女性のお一人様まで。人種も多様。
 ドレスコードは、「スマートカジュアル」。実際には、ディナーは結構フォーマルな方が多いようですが、ランチは最低限の身だしなみを整えた姿で、純粋に食事を楽しみに来ている方が多かった印象です。

次回は、ソウルに飛びます。韓国料理をベースにイノベーティブシーンを牽引するあの注目店を!

この記事を作った人

撮影・取材・文/杉浦 裕

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