更新日:2017.05.27食トレンド 旅グルメ 連載
アジア・フーディーズ紀行 vol.7:シンガポール【Wild Rocket】
上海、バンコク、ソウル、台北、香港……アジアの混沌は、ガストロノミーにおいてもモダンを超越するのか? その直感を確かめるべく、現地の美食を巡る第7回。今回は、シンガポール料理の現在を象徴する新鋭【ワイルド・ロケット】です。
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シェフは元弁護士。独学で料理を習得
さらりと伝統料理を再構築するセンスの良さが魅力
食べ歩いたアジア各国の料理のエッセンスも消化
シンガポール料理ってそもそも何なのでしょう?
あまりにもフツーのことを書きます。
ある国には、自国の料理と国外の料理があります。
何が言いたいかというと、例えばミシュランでもアジア50ベスト・レストランでも、日本ではフランス料理やイタリア料理、中国料理が評価されることもありますし、自国の和食が評価されることもあるということです。
写真はイメージです。紹介の店舗とは、関係ありません
でも、個人的に、そのフツーのことがよくわからなくなっているのが、シンガポールです。
そもそもシンガポール料理って何なのでしょうか。
『海南鶏飯』や『クラブ・チリ』など、日本でもシンガポール料理として人気を博している料理はありますが、しかし、それらの料理のルーツはシンガポールではなく中国やマレーシアだったりします。
現在シンガポールで親しまれているそれらの料理が、シンガポール経由で日本に入ってきただけだとも言え、『ラーメン』はそもそも日本食かっていうのと同じですね。
シェフは元弁護士。独学で料理を習得し、「モダン・シンガポーリアン」を標榜
私にとっては「?」であったとしても、そのシンガポール料理に果敢に向き合っているのが、今回ご紹介する【ワイルド・ロケット】です。
オープンは2005年。「モダン・シンガポーリアン」と自称し、アジア50レストランでは、2016年に初めてランクイン(No.38)。'15年の投票ルールの改正(アジア圏の投票者の比重が高くなりました)が追い風になったのでしょうが、着実に実力と評価を上げていったお店だということがうかがえます。
ホテルではなく、ホステルの中にあるのが、気軽ないい感じ
元弁護士、その地位をあっさり捨て料理を独学したシェフのウィリン・ロー氏にとって、「シンガポール料理」とは何かということは明確です。
シンガポール育ちである彼が食べて育った料理、味、素材ということです。
それを、より現代的に表現しようというのが、この【ワイルド・ロケット】ということでしょう。
内観。陽射しを組み木のシェードが柔らかくしています
リトルインディアからインド街の反対側、緑豊かな公園「マウント・エミリー」を10分ほど上っていきます。
目的の【ワイルド・ロケット】は、「ハングアウト@マウント・エミリー」というホステルの中にあります。
ラグジュアリーなホテルではなく、スタイリッシュな佇まいとはいえ、ホステルであることに、なんだか親近感が湧きます。
さらりと伝統料理を再構築するセンスの良さが魅力
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上:箸、ナイフ、フォークなどのカトラリーはテーブルの引き出しの中に
左:パンなどのディテールには、イタリアンのテイストが垣間見えます
ランチは2種類。プリフィクス・コースの『3 COURSE SET LUNCH』(35SGD)と『omakase lunch』(80-120SGD)。
「tasting menu」などという英語ではなく「おまかせ」と付けられたメニューに、日本人心がくすぐられないわけではないのですが、そこはグッとおさえて、3皿のセットランチを選びます。
『soft shell chilli crab』
まずは、『ソフト・シェル・チリ・クラブ』。そう、あのシンガポール料理の代名詞『チリ・クラブ』とどう違うのか知りたくて試してみました。
給された皿を見て納得。クラブ(蟹)とチリという素材は同じとはいえ、フリットされてまるで違った様相に。
日本のイノベーティブ系のレストランなら、「チリ・クラブの再構築」とでも名付けるのでしょうか。
シェフが食べ歩いたアジア各国の料理のエッセンスも消化
『48hr beef short rib with smoked oyster milk』
メインは、『48時間熟成の牛リブ肉 スモークした牡蠣のミルクとともに』。ランチメニューということもあるのでしょうか、奇をてらわずにストレートに美味しい一皿。
シェフによれば、先に上げたように自らが食べて育ってきたシンガポール料理とともに、料理人になることを決意してから食べ歩いたアジア各国の料理に影響を受けているとのこと。
この皿の付け合わせの青菜の漬物にも、そんなスタンスが表れています。
『trio of flowers – osmanthus & chrysanthemum granita with elderflower jelly』
デザートには『花のトリオ』。ネーミングに惹かれて頼んだのですが、金木犀と菊のシャーベットに、ニワトコのゼリーを加えたもの。それぞれの香りを生かした爽やかなデザートでした。
『おまかせコース』を食べると、また違う印象を抱くかもしれませんが、セットメニューからうかがえたのは、「モダン・シンガポーリアン」であるとともに、イタリア料理の技術がベースになっていること。
イタリア料理の象徴の一つでもある「ワイルド・ロケット」というルッコラの一種が店名になっていることからも、そのスタンスがうかがえます。
一方で、素材そのものの美味しさを楽しませる要素も入っていて、そこは日本的かな?と思えたり、漬物などは韓国的だったり。
全体的には、ソフィスティケートされたテイストの奥に潜む雑多性。その意味では、【ワイルド・ロケット】は、もっとも現在のシンガポールの姿を反映したレストランなのかもしれません。
Wild Rocket
営業時間:ランチ(火~土)12:00~15:00(最終入店14:00) ディナー(月~土)18:30~22:30(最終入店21:30)
定休日:日
電話番号:+65 6339 9448
予約の仕方
電話のほか、HPには即時予約サイトと連携しているので、そちらからの予約が便利。ただし、コンフィメーションが携帯のSMSに届くシステムですので、日本で予約する場合は、海外からの受信可の設定にしておくことをお忘れなく。
やりとりの基本は英語です。
今回は、土曜のランチで利用。当日は、ほぼ満席でしたので週末は早めの予約が安心です。また、「お任せコース」は、2日前の予約が必要です。
ドレスコードや店の雰囲気
ドレスコードはありませんので、気楽に楽しんでください。
客層は、現地の方が多いよう。アジア人と欧米人が半々くらいの印象です。
席種は2タイプ。ランチもディナーも『おまかせコース』を頼むと、少人数の場合は、基本的にカウンター席に。
テーブル席のディナーでは通常メニューからアラカルトでも注文できます。
撮影・取材・文/杉浦 裕
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