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更新日:2020.04.17グルメラボ

料理人の愛読書をご紹介「シェフの本棚」|【銀座 小十】奥田 透さん

料理人の方々がどんな本を読み、どんな学びを得ているのか――、そんな料理人の愛読書をご紹介する「シェフの本棚」。「料理以外の本は読まなかった」という【銀座 小十】奥田さんが影響を受けた数々の名著。若い頃に読みあさり、深い知識を得たが、最近では「その本と自分との関係性が変わってきた」と話す。その言葉の意味をひもとく。

料理人の愛読書をご紹介「シェフの本棚」|【銀座 小十】奥田 透さん

~愛読書をご紹介してくださるのは~
【銀座 小十】奥田 透さん
  • 1969年、静岡県生まれ。地元の割烹旅館【喜久屋】、徳島【青柳】などでの修業を経て、1999年に静岡で和食店を開く。2003年、店名を【銀座小十】と改め、東京・銀座へと移転。2013年には、フランス・パリに懐石料理店【OKUDA】も開き、本物の日本料理を世界へと発信している。

本とは己の立ち位置を確認し、技を磨くためのバロメーター

料理人であれ誰であれ、生きていれば壁にぶつかるものです。そんなとき、私は一人で黙々と苦しみ、考え、そして、自分で答えを出します。人生論の類の本には頼りません。置かれている状況は人それぞれですから、誰かの生き様を模倣しても仕方がありませんし、己の成長にもつながらないと感じているからです。

    『味の風』小山 裕久/柴田書店

    『味の風』小山 裕久/柴田書店

ただし、料理人を志した若かりし頃は、偉大なる先達が著した本を読みあさりました。当時から「どうせやるなら大勢の一人で終わってなるものか」と闘志をみなぎらせていたものの、あいにくそれを表現するための知恵や手段を持ち合わせていなかったので、書店に足を運んでは、湯木貞一氏、辻嘉一氏、そして師匠でもある小山裕久氏など、日本料理の巨匠たちの価値観を学びました。小山氏の著書『味の風』に出合わなければ今の自分はなかったでしょう。それだけ私には衝撃的な一冊でした。

    『茶懐石事典』辻 嘉一/柴田書店

    『茶懐石事典』辻 嘉一/柴田書店

先達の著書は私の本棚に大切に収められていますが、私が料理の世界に入って約30年が経過した今、それらとの向き合い方は変わりました。いつまでも本に憧れ、すがるのではなく、書かれていることを超えたい、その心意気を持つことが日本料理に対して新たな何かを生み出すのではないか。そうした見方をするようになったのです。

    『吉兆味ばなし』湯木 貞一/暮しの手帖社

    『吉兆味ばなし』湯木 貞一/暮しの手帖社

近頃、ふと頭をよぎるのです。私は49歳になったものの、かつて背中を仰ぎ見ていた小山氏のように刺身を切れているだろうか、と。塩や醤油で味を変えるのは誰にでもできますが、氏の教えは「切ることによって味が変わる」というものでした。氏が柳包丁で切る鯛はエッジが立ち、味の輪郭が際立っていた。

でも、今の私は残念ながらその域には達していません。だから、超えたい。超えなくてはならない。そのために悩み、苦しみ、必死になって答えを探します。かつて知識を仕入れるためにあった本は、今や私の実力を測るバロメーターになっているのかもしれません。

~奥田さんの愛読書3選~ 『味の風』
  • 『味の風』小山 裕久/柴田書店
    徳島の名料亭【青柳】の主人による料理の写真集。土地の独自性を重んじ、徳島の豊かな自然の恵みを皿の上で昇華させて、日本料理の味の表現に「新しい風」を送り込んでいる。

『茶懐石事典』
  • 辻 嘉一/柴田書店
    茶道裏千家に出入りを許される懐石料理の名門【辻留】の2代目店主が、茶事の趣向に合わせた懐石の心得、献立、器の扱い、調理法などを丁寧に解説した、懐石料理のバイブル。

『吉兆味ばなし』
  • 湯木 貞一/暮しの手帖社
    日本料理店【吉兆】の創業者が伝授する、家庭料理がおいしくなる知恵と技が詰まった一冊。まろやかな船場言葉でつづられており、料理の味や香りがふわりと浮かんでくるよう。

この記事を作った人

撮影/佐藤顕子(書影) 取材・文/甘利美緒

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